本)ミステリー

November 23, 2019

ビル・クリントン&ジェイムズ・パターソン「大統領失踪 上・下」479-480冊目

センセーショナルなタイトルですよね。みんながよく知ってるビル・クリントン元大統領が「書いた」小説ってことで。


実際読んでみたら、すごく読みやすく楽しめる、大衆サスペンス小説という感じで、これは明らかにジェイムズ・パターソンというベストセラー作家(日本ではそんなに知られてないと思う)の文章に違いない。元大統領はおそらく、自分が大統領経験を通じて(自分が今失踪したら・・・)(もし腹心に裏切られることがあったら・・・)など思っていたことをアイデアとして出したのでしょう。迫真のリアリティはそれによるものだと思います。


という鉄壁のコンビが書いた本なのでとても面白かったのですが、そこここに、クリントン氏の思いもこめられていると感じます。小説内の大統領は彼と違って元軍人で、戦地ではヘリコプターから墜落したあとに拷問を生き抜いたというタフな経験があったり、判断に迷うことがなかったり、しめくくりには熱い演説を行って支持率が30%から80%にアップしたりします。こんな大統領がいたらいい、と思うのは著者たちだけじゃないでしょうけどね。


同じサイバー攻撃を日本で受けたら、たぶん正しいエキスパートを集めるのも対処するのも、難しいんじゃないかな・・・。すごいエンジニアは結構いると思うけど、日本は多国籍の人たちと普通のように本気でコラボすることに慣れてなさすぎる。あと二世代くらい経てみたら、できるようになるかな・・・。



October 14, 2019

森晶麿「ホテル・モーリス」472冊

1時間半くらいのドラマくらいの重さ、かな。面白く読めたけどノリが、私はちょっと年を取りすぎてるかも・・・。

ホテルが舞台と聞くだけで、ちょっとわくわくします。非日常のときめき、初めて会う人たちにちょっと緊張しつつ、ちょっと背伸びして接する感じ・・・。

ストーリー的には無理がいっぱいあるけど、つじつまを合わせるより楽しさに振り切った感じ。娯楽なんだからいいんじゃないかな?

June 12, 2019

芦沢央「火のないところに煙は」462冊目

どこかで書評を見て、面白そう〜、怖そう〜、と思って借りた。

面白かったし怖かったけど、ちょっと脈絡をつけようとしすぎてる気がしました。「リング」「らせん」・・・一連のあのシリーズみたいに、どんどんルール変更が行われていく中で、あとの方の巻で最初の方の巻の辻褄が合わなくなった部分の説明がどんどん長くなる・・・というのが、ちょっぴりめんどくさくなってくる。読者ってものは、うまいこと騙してくれれば、論理の辻褄が合わなくても怒らないもんよ。

しかしこの、霊能者、たたり、といった横溝的戦前的世界を、なんの違和感もなく平成〜怜和の時代に登場させているのは、なかなかの語り部っぷりです。説明がつきづらい部分は筆者の迷いとして書かれているのもうまい。

「たまに読むならこんなミステリー」ですね。読みなれた人も、普段読まない人も、楽しめる、怖がれる一冊ですよ。

May 30, 2019

柚木麻子「BUTTER」458冊目

(ネタバレあり)
わりと変わった小説だなぁ。
冒頭から最後まで、なにかとバターに寄せた話の展開になっていて、もうエシレバターを固まりで買ってきてバクバク食べたくてたまらなくなります。
乳製品会社のパンフレットに連載された小説(バター販促品)と言われても驚きません。
しかし、「学校カースト」なんてのは「トイレの花子さん」みたいに、恐れれば恐れるほど勢いを増してしまう魔物だ。この小説の中にも流れる、行動動機をコンプレックスにひもづけずにいられない傾向もそういうものに起因しているんじゃないでしょうか。そこを乗り越えて、人間の深いところにある悲しみや愛にまで達してくれたら、感動の涙に至ることもできた題材なんじゃないかと思います。
婚活殺人の容疑者が殺人を犯したのかどうか?という点は、ほぼ「犯していない」に傾いてるんだけど、この本のモデルになったと言われている受刑者がこの本を読むかもしれないという恐れによるものかしら。その方が買っておいた練炭を、車を持たない被害者がどうにか運んできて自殺したなんて、それを納得させるストーリーもないのに、にわかに信じにくいです。読者をどっちに向けようとしてるんだろう?ミステリーとしての読みごたえを追求するなら、たとえば姉に盲従している妹がずっと共犯だったとか・・・お料理教室の意外な人物が協力してたとか・・・何かもう一つ、仕掛けが欲しかったです。
ただ、優雅でおいしそうなものに囲まれる不思議な気分にはうっとりできました。そういう意味で、変わってて面白かったです。
牛乳が牛の血からできているということは、バターというのはコレステロールになりそびれた血中脂肪分ということかなぁ・・・。

May 19, 2018

恩田陸「夜の底は柔らかな幻」上・下428−429冊目

面白かったけど、ダークファンタジーを読みたかったわけじゃないので、微妙。
「イロ」が超能力の一種で、「途鎖」が土佐の同音異義国の異境だということはすぐわかったけど、「ソク」って何だったんだろう。何も説明しないで放置、ってのが恩田式なのかな。
主人公のスナイパー「美邦」は魅力があるんだけど、容貌がまったく想像できないのはなんでだろう。甘さの一切ない女性警官、というだけじゃなくて、一流のアスリートでもある。ってどんな人なんだろう。


 


恩田陸の描いた、異世界じゃなく現実に近い世界で起こるドラマをもっと読みたいなーと思います。探してみよう。



May 12, 2018

恩田陸「ユージニア」427冊目

これも重層的な、いろいろな人たちの言い分が出てくる小説なんだけど、ちょっとオカルトっぽい方向に行き過ぎてる気がします。いやでもそれが神秘的で惹かれるんだけど。ミステリーというには美少女ロマンが強すぎるかな、と。


ディストピアじゃないの。暗いユートピア。謎の言葉「ユージニア」から広がるその世界の美しさに、ちょっとうっとりしました。


恩田陸「中庭の出来事」426冊目

面白かった。立体的な織物みたいに、重層的に進んでいく物語。
あっちのお話とこっちのお話が関係していたり、あの人の話とこの人の話が違っていたり、ということが作者はとっても好きなんだな。普通に聞いている話が途中から化けていく「・・・え?」という驚きが。


トリックが現実的に可能か?というところはなんともいえないと思ったけど。
面白いものを書く、面白く読ませる、という読者の気持ちがよーくわかった素敵な作家です。


February 01, 2018

一色さゆり「神の値段」415冊目

書評かなにかで見て、図書館で借りられたらいいな〜と思って調べたら、たまたますぐ借りられてよかった。
ギャラリーで働く若い女性が主人公で、幻の(生きているかどうかもわからない)アーティストと、ギャラリーを取り巻く不思議な人たちの世界を見事に描いた読み応えのある小説でした。


しかし、現代アーティストで世捨て人っていうのがイメージが逆で不思議だし、世捨て人だけど自分の手を動かさず、工房に指示して作品を作らせている(とてもコマーシャルな感じ)というのもにわかに理解しがたい。そういうのが現実にあるから、アートの世界は本当にわからない。(そこが小説としてはとても面白い)


「このミス大賞」の選評を読むと、警察の捜査などの描写力がまだまだ、とか書いてあって、そうなのかもしれないけどあまり気になりません。美術に関わる人たちって、純粋で欲がないみたいなイメージもあるけど、全然感情に流されない描写が割とスカッと読めます。次回作も読んでみよう。


March 11, 2017

山口雅也「ミステリーズ」393冊目

珠玉の、抱腹絶倒の、短編集。
1990年初頭にさまざまな雑誌に書かれた短編を集めたものだけど、Disc 1&2に別れて構成されていて、洒落ています(本当はこの年代の作家ならレコード盤の「Side A&Bにしたかったはずだけど、微妙にCDが幅を利かせてきた時代だよね)。


傑作と名高い処女作の「生ける屍の死」がすっごく面白かったので期待して読んだら、期待をさらに超える素晴らしさでした。私は「解決ドミノ倒し」が好きだ!これ下北あたりのアングラな舞台でやってほしい。もうやってるかも。
このお話は、かんたんに言うと、探偵が広間に容疑者全員を集めて「この中に犯人がいる!」から始まる、ミステリーの「解決編」だけの短編。しかし「ドミノ倒し」ということで、刑事がてきとうな推理をして「お前が犯人だ!」と言ってもカンタンに犯人に論破され、「ではそちらのあなたが犯人でしょう!」と言うとまた・・・と繰り返して、一体誰なんだ〜、と言うお話。腹を抱えて笑えます。


冒頭の「密室症候群」や「不在のお茶会」は、いわゆるメタ設定がループして(「解決ドミノ倒し」もそうだけど)、めくるめく構成の楽しみのある大人向けの短編なのですが、その中に心理学やなんやらの小難しい説明もちょいちょい挟まれます。とにかくさまざまな文系の分野の造詣が広く深くて、どれくらい深いかと言うと、大人の余裕で笑いにできるくらい深い。読む人はニヤリ、あるいはワハハと笑いながら、何やらマニアックな世界に魅了されていきます。


2冊目にして、my favorite作家のリストに加わりました。きっと読破してみせる。
どうやらこの本、今は絶版のようですが、図書館にはあるし古本は1円とかで買えるので、気が向いたらぜひ読んで見てください。


March 06, 2017

有栖川有栖「江神二郎の洞察」392冊目

面白かった。
この人の作品の一番力が入ってるところはいつも、「全員がアリバイがあるように見えるのに、犯人だけが殺人を犯すことができた。それは誰か、そしてどういう理屈か?」だと思う。動機を描き出すために長い背景を語ることが絶対必須ではないので、私としては短編集の方が良いのかもしれません。


が、いつものように、ミステリー論を展開する部分が全体の2割くらいはある感じ。
めちゃくちゃミステリーファンで、メジャーどころを読み込んでいるような人なら、フルに楽しめるんだろうけど。
これで一旦、この作家は打ち止めにして、他の作家のミステリーも読んでみようと思います。


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