本)文学、文芸全般

June 10, 2018

島田雅彦「カタストロフ・マニア」430冊目

図書館で予約してたのがやっと届いた。
SF的な小説で、主人公は20代のオタクな青年。「カタストロフ・マニア」というのは彼が夢中になっているゲームのタイトルで、臨床治験で病院に閉じ込められてる間もずっとやってる。
ある日病院で目が覚めたら、誰もいない。病室だけでなく院内に一人もいない。外に出ても誰にも会わない。
・・・SF小説や映画を読みすぎた、見すぎた私はこの後の展開を以下のように期待しながら読み進んだ:過疎の病院は実は悪の要塞だったとか、最後の最後に彼は眠らされたままゲームの仮想現実の中をさまよっていたのだとか。
数をこなすのは本当に悲しいことで、一度こうなってしまうと何も予想も期待もしないで読むことはできない。
そんな感じで読んだので、なんとなく肩透かしにあったみたいな気持ちになってしまいました。全く100%、私の勝手な先入観が原因なんだけど・・・。
うむむ、ごめんなさい。

April 22, 2018

恩田陸「終わりなき夜に生まれつく」424冊目

ファンタジー小説というべきかな?
「在色者」、”色”という特殊能力をもつ若い青年たちのエピソードを集めた短編集。
恩田陸の作品は、純文学に近いものしか読んだことがなかったので、こういうファンタジー的なものはちょっと意外だけど、前のめりで登場人物たちに入り込んでグイグイ書いていることが伝わってきます。彼女の元々のスタイルがこれなのかもね。(女子大の英文科を出てまあまあバリバリ働いてる私たちが、再会して話すとやっぱりオタク的に文学作品を読みふけっていた過去が見え隠れする、というようなもので)

人物たちのキャラが実によく立っていて、続きが読みたいな〜〜と思ってたら、人気作品の「前日譚」なんですね。ですよね〜〜〜。あわててその「夜の底は柔らかな幻」の方も読むことにしました。こっちはすぐに借りられました。

April 13, 2018

島田雅彦「深読み日本文学」423冊目

先日NHK文化センターで講義を受けて感動した島田雅彦が、日本文学を存分に語った1冊。
200+ページの新書なのですぐに読めます。語り口が目の前で話してるようで読みやすい。
そして偏っている。講義と同じだ。偏愛日本文学。文学もだけど政治に関しては一言も二言もあって、時間がいくらあっても足りません。

中でも最高だったのは「谷崎潤一郎作品を読むために重要な5つのポイント」。あまりに面白いので3つほど引用させてください:
第一に根っからのスケべであってほしい。(「・・・下ネタにかまける人を軽蔑するタイプの人・・・は谷崎には手を出さず、漱石を読むべきです。」)第二に悩める知識人であってはならない。第三に常に何かを崇拝し続けること。などなど。
この本で、愛猫を剥製にしたのは谷崎くらいだろうと書いてあるのを読んで、一瞬私もやろうかと思ってしまったけど、多分恐ろしい、似ても似つかないものになって眠れなくなりそうなのでやめておきます。

March 26, 2018

松尾スズキ「同姓同名小説」422冊目

2002年の小説。16年前だ。
みのもんた、川島なお美、田代まさし、小泉孝太郎といった実在の人々(と同姓同名の誰か)を主人公とした短編集ですが、今やお亡くなりになった人もいれば、話題に上らなくなった人もいて、こういう本を16年後に読むのってもしかしたらちょっと悪趣味なのかもしれません。

みのもんたは面白かったけど、ピンとこないものも多かったです。

February 28, 2018

中上健次「千年の愉楽」419冊目

面白かった。実際、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」に似てるところがたくさんあるし、独特の、私が思っている典型的な日本の風景とは違う風景を見せてもらえてすごく面白かった。
高貴で濁った血が流れる中本の美しい若者たちって、どうイメージすればいいのかな。映画では半蔵は高良健吾、三好は高岡蒼佑、達男は染谷将太、と聞けば割とイメージ通りではあるけど、普段の彼らの人間らしさを、”普通じゃない”中本の者たちへと昇華するのにどんな魔法が使われたんだろう?

「心のままに生きる」っていう、凡人には何より難しいことをやって滅んでいく人たちにすごく惹かれるけど、手を伸ばしても到底届かない。本物の中本の男たちの世界を、この目で一度覗き見てみたい・・・。

ミシェル・ウェルベック「服従」418冊目

フランスにイスラム政権が発足する、という小説。
「え!?』
極右政党が一般人を攻撃するようになり、穏健派で常識派のイスラム党の党首に一気に人気が流れて、まさかの選挙結果により左派とイスラム党による連合政権が発足するんだけど、党首の実力で彼が大統領に。主人公は内向的な、村上春樹の小説にでも出てくるような大学教師。イスラム教育を行うため、まず教師のうち女性が全員解雇され、教徒でない男性教師も。主人公は大学に戻るために改宗を迫られる・・・・
というあらすじを聞いて、フランスってすごい国だな、シャルリ・エブド事件後にこんな本が出るなんて。と驚愕しました。
何も知らずに読み始めたら、内向的な青年の自分語りのまま、何も起こらずに流れる日常的な小説だと思っただろうな。まさか政治的なことに巻き込まれそうにないタイプの人が主人公なんですよ。こういう感覚って不思議。日本の小説でも、「まさかこの人が」という効果を狙うことは多いけど、日本ではこの人を主人公にこのテーマの小説は出てこないだろうな。多分ノンポリの大学生とかフリーターとかにしそう。
色々、ミスマッチ感とか不自然さが興味深い作品でした。社会が変わっていくことに注意が行かないほど、大学教師の女性関係や日々の食事や感じていることば描かれた不思議な小説でした・・・。

February 12, 2018

ミハイル・ブルガーコフ「巨匠とマルガリータ」416冊目

ものすごく面白い小説だった。
荒唐無稽、抱腹絶倒、でも愛あり涙あり(あったっけ?)、しかし破綻なく、信じられないくらい新しかった。

読み進めるにつれて感じたことを時系列的に書くと・・・
最初は悪魔らしき人物が登場してショッキングな事件を予告するあたり、「DEATH NOTE」とかのマンガのような刺激的な悪魔小説かと思った。今でもいけるよ!と思いつつ、引き込まれていきます。
しかし、悪魔はただ極悪で血まみれなだけじゃなくて村上春樹の小説に出てくる魔物のようでもあるし、異世界や、登場人物が書いた小説とパラレルで物語が進行するあたり、現代の純文学のようでもあります。
と思って真面目に読んでいたら、阿鼻叫喚の悪魔の饗宴が始まって、これは筒井康隆だ!と思ったり。
ハリー・ポッターばりの魔法小説のようでもあり。
でもちゃんと最後収拾がつくんですよ。天才?

人が勧めてくれた本を読むのって、ほんとに大切ですね。こんなに面白いものに出会えて感謝です。
沼野先生、島田先生、ありがとう。(?)

October 01, 2017

村上春樹「騎士団長殺し」412−3冊目

一応たしなみとして、村上春樹の長編は読むことにしてる。買うかどうするか毎回迷うんだけど、今回は発売半年後、十分価格が下がったところで古本を購入。図書館の待ち人数は400人台です。

以下ネタバレ。
構成上のことをいうと、この本は珍しくパラレル構造じゃなくて、ずっと同じ人が語っているので、読みやすかった。
あと、最初に事件の結末が語られるのは珍しい。妙に安心して読み進めました、今までの、訳がわからないから先が気になって、ただ煽られるように読み進むのに比べて。ただし、顔のない依頼者の肖像画を描こうとして描けない、したがってペンギンも返してもらえない、という状態は続いてる。まりえの胸は膨らんでいく、叔母さんと免色は順調に続いている、まりえの母を襲ったようなスズメバチがまりえを襲い、母の死因に「もしや」と疑いが生じる。
とりあえずはハッピーエンド、だけどみんな心の奥に何かを隠したまま暮らしていく。

事件らしい事件が怒るのは下巻の半ば。起こる事件は、少なくとも「まりえ」の側はこれまでの小説に比べればリスクの少ない冒険に見えるし、主人公の方も、歩いたり渡ったりくぐったりという変化はあるものの、今までのアドベンチャーゲームばりの起承転結のないままの、割合平坦な冒険です。そしてその前に自分の手で、それなりに信頼に足る登場人物を出刃包丁で刺し殺すという生々しい加害者像も描かれています。

感想。少しずつ大人らしくなってくるなあ。中二っぽい「悪は全て自分の外の大きな訳のわからないものの中にあって、自分は戸惑うばかり」だった主人公、今回は「誰の中にもある悪を見つめすぎずに暮らしていくことを自分で選択する」まで成長した。そうなんだよ。「自分は弱くてかわいそうな卵で大きくて悪いのがシステムなんだ」という幻想は捨てていいんだ。
「白いフォレスターの男」は、デイヴィッド・リンチ「ツインピークス」の「キラー・ボブ」だよね。極悪な殺人犯だと思ってたものが、最後に善良で緻密な主人公に入り込んでいる、という。そういう自覚が大人なら必要。

たまたま7月に富士の樹海に行って風穴にも入って来た。たまたま先月から絵画教室に通い始めた。どっちもそれなりに人がいたけど、別に「騎士団長」効果ってことはないと思う。個人的には、情景がリアルに浮かんでよかった。もう一つ、一生読まないと思ってた「カラマーゾフの兄弟」もこの本の前に読んだ。(この小説には「悪霊」の方が多く出て来てたと思うけど)ドストエフスキーの主人公は必ず突き抜けるんじゃないかな?村上春樹でいうとおとなしい主人公より免色が主役になるのがドストエフスキーなんじゃない?

冒頭で「顔のない依頼者の肖像が描けない」話を書いてなければ、不安の少ない普通のハッピーエンドだ。不安だらけで、どこに希望を見出せばいいのか?と思っていた以前の作品と比べて、ずいぶん安定感のあるエンディングだったから、冒頭を書き足さなければならなかったんだろうか。この先もっと安定していったら、小説は面白くなくなっていくんだろうか。

過渡期って感じのする作品だったのかもしれません。次も読むけどね。

September 24, 2017

ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)407〜411冊目

読んだ〜〜。
重かった。おもしろかった。ドストエフスキーって蠍座だよね。まさに蠍座的な作品だった。
敬虔でありながら放蕩で、情愛深くかつ冷徹で、誰にも興味を持たず自分の不運を嘆きあげる人たち。
特定の人だけにそういう特質があるわけじゃない。人の奥に必ずあるそういう部分をえぐり出してさらしものにするような小説。最近人気の、ドロドロのミステリーと深さが全く違う。これが真実に近づくっていうことだよ、と気づかされる。

現代の道徳って、「人を殺したいと思っても、傷つけたいとか犯したいと思っても、実行しなければ大丈夫」という風になってると思うけど、思った時点でもう罪深いということをこの小説で思い出す。「やらなければいい、我慢してる自分は犯罪者よりずっとえらい」という道徳で、ルールを逸脱した人をを貶める人たちの、依って立つ土台を打ちこわす感覚だ。

この後の物語でアリョーシャは革命指導者になって、リーザだか誰だかとの間に子供をもうけ、コーリャが皇帝を暗殺して革命が成就する。聖人となったアリョーシャはなんらかの事情で自分自身の息子に殺される。というような世界を想像するのも豊かな経験、という気がします。

July 23, 2017

佐藤正午「小説家の四季」406冊目

このエッセイも、出てたことを最近知ったので早速買って読みました。
「書くインタビュー」では書ききれない著者の日常のことや、そこはかとないユーモアが、このくらいのボリュームの文章だと自由に広がりますね。インタビューの方は精神的にあまりいい状態じゃないときにも答えなきゃいけないということで、素の佐藤正午が見える本でしたが、こっちは準備していい状態で書いてることが想像されます。

じっさい季刊誌に連載されたので文字通り「小説家の四季」ですが、「豆腐屋の四季」も思い出したいよな〜。
普段のマイペースというかのんびりした、九州の作家の日常ってこういうものなのか、という非日常感にも浸れます。

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