本)文学、文芸全般

October 27, 2019

Min Jin Lee「Pachinko」473冊目

今まで洋書は何冊買っても積みあがるだけだったんだけど、これは一気に読み通しました。韓国系アメリカ人の女性が、朝鮮半島から日本に渡ってきて暮らしている家族4代について書いた小説なのですが、アメリカではベストセラーになったそうです。

アイスランドで知り合った台湾人から教えてもらって知りました。英語だし知らない単語もたくさんあったけど、最後までなんとか。
韓国の人と前の職場ではいつも仕事してたし、韓国映画もたくさん見たけど、何代か前に日本に来た人たちがどんな経緯で来たのか?つらい話ばかり聞いて悲しくなることが多いけど、普段の生活に楽しいことはなかったのか?といった私の中の「missing link」を埋められそう、という興味で読み始めました。

最初は日本における半島の人たちの苦難の歴史を覚悟して読んでたけど、だんだん単に面白くなってきて、残り100ページくらいになってから、これはジェットコースター的エンタメ小説かなと思ったところもあったけど、華々しいフィナーレもなく終わりました。著者はあとがきで、かなり日本に取材に来たと書いてあるので、おそらくそれなりにリアリティがあるんじゃないでしょうか。当然、彼らをいじめる日本人が何人も出てくるけど、同じくらいの数だけ、偏見のない親切な日本人も出てきます。

唯一気になるのが、変な日本語の使い方だな。シリアスな場面で「soo, nee(そうねー)」と言ったり、高級レストランの店員が「irasshai(いらっしゃい)」とだけ声をかけてきたりするのが、割と気になる。大昔のハリウッド製日本ふう映画みたいにキッチュですが、この本が日本語訳されたり映画化されたりするときは、工夫して翻案してほしいなと思います・・・。

私と同様に異文化や人間に興味深々な人にお勧めします。そのうち日本語訳も出るらしい。

April 30, 2019

朝井リョウ「世にも奇妙な君物語」456冊目

朝井リョウってすごく「うまい」作家だと思うけど、この小説では文章より、着眼点やギミックの巧者という印象がありました。

どの短編も視点がちょっとイジワルで、しかも最後の最後に”脇役バトルロワイヤル”という趣向を持ってくるというひねくれっぷり。この後もこういう小説を描き続けてるのかな。

ただ、人があまり注目して欲しくない部分・・・例えば、脇役役者(ほぼ実名じゃん)自身の脇役たる部分を執拗にほじくる、ということをしていても、冷たくはない。笑いものや、晒しものにしておわり、ではなく、みんなが見ていなかったところにすっごく面白いものがたくさんあるんだよ!って言いたいのかな。

書けば書くほどますます力をつけていきそうな作家さんだなぁと思うので、また読みます。

April 21, 2019

パブロ・ネルーダ「2000年」「大いなる歌」454、455冊目

「イル・ポスティーノ」という映画を見ました。イタリアの小さな島に、南米チリを政治亡命した詩人がやって来て、彼の家に毎日郵便物を届けるだけの仕事をしている地元の青年と交流する、という映画。その詩人が実名でパブロ・ネルーダなのです。彼がそういう島に移り住んでいたというのは史実で(郵便配達人とそういう交流が実際にあったかどうかは不明)、口伝えした詩も本物だったんじゃないかと思います。

「2000年」は晩年の著作で極めて薄い、本文40ページ程度の本だけど、「大いなる歌」は500ページ近い大著。記された言葉は、「大いなる歌」の方が、行間から美しいエネルギーが立ち上るようです。

政治犯という存在は、私からは遠すぎて理解も共感もできてません。革命に走るほどの困窮や、その中から立ち上がる人の姿を目の当たりにしないとわからないのかな。いつか南米に行けたら、もう少し知ることができればいいと思います。

April 20, 2019

川村元気「億男」453冊目

ヒットメーカーの小説、さすがの面白さ。

ただ、人気漫画のあらすじを読んだような気持ちで、理解できるし面白いけど、きれいにまとまりすぎていて心に引っかかるものがなかったです。「シェルタリング・スカイ」?と思われる北アフリカが舞台の映画が出てくるのとかマニアっぽいけど、グッとくる!というには、癖とか匂いみたいなものを感じない。そして、意外に「教訓」がちゃんと示されているところが、クラシックな印象。芸術家じゃなくて、全体を見渡して弱点を補強して最強の作品を作る「プロデューサー」っていう才能のあふれてる人なんだな、と思いました。一般読者の私ごときがいうことじゃないけど。

April 14, 2019

朝井リョウ「何様」452冊目

面白かった。実に面白かったです。

「桐島」は”スクールカースト”という、存在するのかもしれないけど私が一番無視したいものについて語られることが多すぎて、この作家を評価できないままになっていたんだけど、この本を読んで、朝井リョウという人の観察力、洞察力、表現力等々について見逃していることがたくさんあったと気づきました。

学校はいつか卒業(orドロップアウト)するもの。長居したいと思ってもすぐに終わる。私は学校での人間関係にあまり興味がなかったけど、特に夢や希望があったわけでもなかったなぁ。などと遠い昔に思いを馳せることは誰にでもできるけど、こういう作品に結実させられる人はほとんどいない。すごく平凡な日常しか描かれてないのに。

他の作品ももっと読んでみよう。

December 13, 2018

村田喜代子「焼野まで」444冊目

ほぼ、ガンになった村田喜代子自身の闘病記なのかな?
八幡ものではガンが見つかってからあまり長く生きられなかった「ミツ江」はこの本では長生きして、自分自身のほうが闘病しています。
モデルになったオンコロジーセンターを調べまくってしまったくらい、この本は「子宮体ガン・切らずに治すマニュアル」でもあります。
女の生を描き続けてきた彼女が今書いている小説には、あの世が時々うっすらと透けて見えています。いつもの村田節。
若い頃からの馴染みで、病床にいても携帯でときどき電話で話す「八っちゃん」って男性は、どういう存在なんだろう。兄弟みたいに親しいけど、まるで男と女という色気がない。主人公が病院で出会うガン友達も、なんとも言えない味わいがあります。その後連絡を取り合ったりしない人たち。生きているか死んでいるかわからない人たち。といっても、ガンでなくても人は必ず死ぬんだけどね・・・・というのがこの人の世界だな。


 


面白いからもっと書き続けて欲しいです。あの世からも書いてテレパシーで送って・・・。


December 12, 2018

村田喜代子「八幡炎炎記」「火環」442-443冊目

敬愛するレジェンド村田喜代子の新作。自伝とまでは言わないけど、鉄鋼の町での自分の生い立ちをモチーフにした小説です。
ヒナ子は「ツクシみたいな女の子」。優しいけど子どもの気持ちはあんまりわからないおじいちゃん・おばあちゃんに娘として可愛がられて育ち、まじめじゃない大人たちの中で、素直だけど実は頑固な個性を育んで行きます。


軽妙でカラッとして無駄がない。彼女の憧れた映画監督が新藤兼人(裸の島とかの頃ね)というのが興味深いですね。彼女の小説の人間表現のしかた、文章の完結さとかが、白黒のドラマからきていると思うと、不思議なようで納得します。


この小説のなかでは、ガンになるのはミツ江だけど、著者自身が闘病してきたのも事実らしいです。小説家は転んでもタダでは起きない。自分の死について書けない(あるいは、書いても生きてる人たちに見せられない?)ことをきっと悔やむんだろうなぁ、彼女は。


私の敬愛する二大作家は偶然二人ともずーっと九州在住で、若い頃はふっとどこかに飛んで行ってしまう小説が多かった(それがまた素晴らしかった)けど、最近は二人とも、小説の中で、町から出ていきません。体がここにあっても心は自由だという領域に達したんでしょうかね。私も何か文章で人の心を動かすことができたらいいな、という思いを頭のどこかに抱きつつ・・・またもう一冊読みます。



October 27, 2018

原田マハ「リーチ先生」437冊目

全くのフィクションなんですね。朝ドラみたいなものかな。
バーナード・リーチ、濱田庄司、柳宗悦、富本憲吉、高村光太郎・・・など実在の人物の中に、亀ちゃん、その息子、といったこの物語の中だけの人物が登場して、狂言回しのように彼らの努力を支えます。実に面白いです。素晴らしい彼らの陶芸の世界、そこに到るまでの若かりし頃の切磋琢磨、いい人しか出てこない美しく清らかな世界です。

 

実際にはもーちょっと周囲に計算高い人がいたり、妬み深い人がいたりしたかもしれないけど、とても熱く幸せな気持ちになれる小説でした。

 

この夏、初めて訪れてみた小鹿田と小石原の優しく静かな風景を、懐かしく思い出しつつ。
万人にお勧めしたい、良い小説です。

June 10, 2018

島田雅彦「カタストロフ・マニア」430冊目

図書館で予約してたのがやっと届いた。
SF的な小説で、主人公は20代のオタクな青年。「カタストロフ・マニア」というのは彼が夢中になっているゲームのタイトルで、臨床治験で病院に閉じ込められてる間もずっとやってる。
ある日病院で目が覚めたら、誰もいない。病室だけでなく院内に一人もいない。外に出ても誰にも会わない。
・・・SF小説や映画を読みすぎた、見すぎた私はこの後の展開を以下のように期待しながら読み進んだ:過疎の病院は実は悪の要塞だったとか、最後の最後に彼は眠らされたままゲームの仮想現実の中をさまよっていたのだとか。
数をこなすのは本当に悲しいことで、一度こうなってしまうと何も予想も期待もしないで読むことはできない。
そんな感じで読んだので、なんとなく肩透かしにあったみたいな気持ちになってしまいました。全く100%、私の勝手な先入観が原因なんだけど・・・。
うむむ、ごめんなさい。


April 22, 2018

恩田陸「終わりなき夜に生まれつく」424冊目

ファンタジー小説というべきかな?
「在色者」、”色”という特殊能力をもつ若い青年たちのエピソードを集めた短編集。
恩田陸の作品は、純文学に近いものしか読んだことがなかったので、こういうファンタジー的なものはちょっと意外だけど、前のめりで登場人物たちに入り込んでグイグイ書いていることが伝わってきます。彼女の元々のスタイルがこれなのかもね。(女子大の英文科を出てまあまあバリバリ働いてる私たちが、再会して話すとやっぱりオタク的に文学作品を読みふけっていた過去が見え隠れする、というようなもので)


 


人物たちのキャラが実によく立っていて、続きが読みたいな〜〜と思ってたら、人気作品の「前日譚」なんですね。ですよね〜〜〜。あわててその「夜の底は柔らかな幻」の方も読むことにしました。こっちはすぐに借りられました。


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