本)文学、文芸全般

September 24, 2017

ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)407〜411冊目

読んだ〜〜。
重かった。おもしろかった。ドストエフスキーって蠍座だよね。まさに蠍座的な作品だった。
敬虔でありながら放蕩で、情愛深くかつ冷徹で、誰にも興味を持たず自分の不運を嘆きあげる人たち。
特定の人だけにそういう特質があるわけじゃない。人の奥に必ずあるそういう部分をえぐり出してさらしものにするような小説。最近人気の、ドロドロのミステリーと深さが全く違う。これが真実に近づくっていうことだよ、と気づかされる。

現代の道徳って、「人を殺したいと思っても、傷つけたいとか犯したいと思っても、実行しなければ大丈夫」という風になってると思うけど、思った時点でもう罪深いということをこの小説で思い出す。「やらなければいい、我慢してる自分は犯罪者よりずっとえらい」という道徳で、ルールを逸脱した人をを貶める人たちの、依って立つ土台を打ちこわす感覚だ。

この後の物語でアリョーシャは革命指導者になって、リーザだか誰だかとの間に子供をもうけ、コーリャが皇帝を暗殺して革命が成就する。聖人となったアリョーシャはなんらかの事情で自分自身の息子に殺される。というような世界を想像するのも豊かな経験、という気がします。

July 23, 2017

佐藤正午「小説家の四季」406冊目

このエッセイも、出てたことを最近知ったので早速買って読みました。
「書くインタビュー」では書ききれない著者の日常のことや、そこはかとないユーモアが、このくらいのボリュームの文章だと自由に広がりますね。インタビューの方は精神的にあまりいい状態じゃないときにも答えなきゃいけないということで、素の佐藤正午が見える本でしたが、こっちは準備していい状態で書いてることが想像されます。

じっさい季刊誌に連載されたので文字通り「小説家の四季」ですが、「豆腐屋の四季」も思い出したいよな〜。
普段のマイペースというかのんびりした、九州の作家の日常ってこういうものなのか、という非日常感にも浸れます。

伊坂幸太郎「残り全部バケーション」402冊目

この人もうまいな。佐藤正午(今や直木賞作家)がべた褒めするくらいで。
しかし、この人の面白さは、やっぱり「ありそうにないことを組み合わせる」部分で、結末にもつれ込む上で、私としては特に含めてくれなくてもいいなと思うエピソードもたくさん、たくさん入ってきます。そこまでしてバラエティに富むエピソードを盛り込む必然性は、同じ著者の「フィッシュストーリー」にならあるけど、この小説にはそれほど感じませんでした。

夏目漱石「こころ」401冊目

もう7月なかば。そろそろ、この先の生き方を考えてみなきゃと思って、こわごわ再読。実家にあった文学全集を何冊か持ってきてるので、常にこの本は書棚の奥にありました。(昭和44年発行)

あらすじはおぼえてるつもりだったけど、主人公を「先生」と呼ぶ書生の場面だけで3分の2も占めてたというのは完全に記憶違いでした。ページが残り少なくなった頃にやっと「K」が登場します。不穏な気持ち。彼が元来、一本気な性格だったことを思い出しています。Kの姿を想像するとなぜか、三島由紀夫の顔が浮かびます。書生が手紙を読んだときの状況も忘れてました。これほど彼本人の父親の状態が切羽詰まっていたとは。

先生の遺書は遺書というより自伝で、死を決めたことについては最後のほんの数ページしか当てられていません。
凡人ならこの遺書だけで一編の小説にするだろうな。これを誰に託すのかということに説得力を持たせるためだけに、小説の3分の2を充てる判断。文豪ってやつは。

重いストーリーについては、読み終えて胃潰瘍が再発しそうで著者に共感します。ああ明治時代にザンタックがあれば。先生の言動がKを死なせるきっかけになったのか?という点は、きっかけではあったけれどこのきっかけがなくても彼のその後の人生には、手のひらの生命線に生じた悪い兆しみたいに、どこかで必ず非業の死を遂げる運命が刻まれてたんじゃないのか、という気がします。

今「100分de名著」でオースティンの「高慢と偏見」を取り上げていて、漱石が影響を受けたという人物造形が確かにすごい、でも漱石もな、と改めて思います。小説っていうのは、ストーリーじゃなくて人物を先に完成させるものなのかな、と。作者はなんて意地悪なんでしょう。太宰治は常に自分のずるさを告白しては自己批判したりあざ笑ったりしますが、漱石の底意地の悪さの足元にも及ばない善人に思えてきます。また、昨今の手練れの作家たちの腹黒さが、今に始まったことじゃなかったことに今頃気づいているという、自分の読みの薄さに呆れてます。

ところで、「こころ」は日本で一番読まれてるとか愛されてるとかどこかで読んだけど、おそらく「日本で一番、みんな知ってて、言っても恥ずかしくない小説タイトル」の間違いだろう。小説は読まない、あるいは特別好きでもない小説をなんとなく読んでる人が多くて、学生のときに読まされたか読んだふりをした「こころ」を上げるしかない人がこんなにたくさんいるということだと私は思います。

そういえばロンドン駐在中に「珍しいところに行きたい」というご夫妻を漱石記念館に案内したことがありましたが、2016年に閉館したとのこと。彼らは今どうしてるのかな、あの記念館に行ったことを少しはよかったと思い出してくれてるのかな。

July 02, 2017

早見 和真「イノセント・デイズ」400冊目

ビヨークが主演したラース・フォン・トリアーの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」に匹敵する、アンチクライマックス。
もう最近は、こういう小説を読んでも映画を見ても、ハッピーエンドなんて期待しなくなってる。多分私だけじゃなくて、たくさんの人が。

読み進めるのが辛かった。幸乃は私だ。
自分の欲しいものを主張できずに譲ってばかりいて、いつか誰かに必要とされたいと思っても、便利な存在としてしか求められない。またやられた・・・と気づいても、人を攻撃する気持ちはもう湧いてこない。だったら自分などいなくなればいいと思っても、自殺しようとは思わない。
幸乃は独房の中で初めて、もう誰からもいじめられない日々を送ることができた。
ちょっと羨ましいくらい。
私はまだもうしばらく巷にいて、いろんな攻撃にさらされてみることにします。
カンを研ぎ澄ますことで、やられることを少しは避けられるようになるかな。
こじんまりと、なるべく小さいサークルの中で平和に暮らせたらいいな、と思います。
感想になってないや。

June 01, 2017

鏑木蓮「京都西陣シェアハウス」398冊目

小説だったー。
この3日間でシェアハウスに関する本を6冊も読んだんだけど、キーワード検索だけで借りたら小説も何冊か混じってたw
でもこれが実に面白く深かった。読んでる間はちょっとギスギスした感じなのに、読み終わると清々しい。とても不思議な小説です。

京都の町屋づくりの工房を改装したシェアハウスに、年齢も仕事もバラバラの人たちが住んでいる。中でも就職がいつまでたっても決まらない女子大生 有村志穂は風変わりだ。実家との関係や生きることに悩んでカウンセリングに通ったことのある彼女は、どこか妙な影があり、人を見る目が鋭い。以前小さな子供を事故で死なせてしまった男性、不倫や不正に悩んでいる女性、昔傷つけた人のことを悔いている男性。それぞれの荷物はかなりの重さだけど、誰にでも不運が重なったら落ちてきそうな話で、彼らの恐怖が身につまされます。志穂はそういう彼らの心の固まった部分を、一見不躾に見えるやり方でまっすぐまっすぐ掘り進めていく。

痛いマッサージが効くこともある、って感じかしら。
読み終わった時の清々しさは、悪い奴らの方に感情移入してしまっていて、解放されたような気がするからかな。
人の罪悪感ってものをかなり深く描いた、良い小説でしたよ。

May 10, 2017

宮本輝「草花たちの静かな誓い」397本目

「泥の河」くらいしか読んだことはないのですが、地を這うような生活をしている人たちに温かく寄り添う作家さんだと思っていたので、この作品のどこか軽く、明るい印象がちょっと意外でした。テーマは決して軽くないのに、カラッとした晴天の多いカリフォルニアが舞台であることや、主人公の弦矢が育ちがよく気取らない若者であることから、全体的な印象が軽快に感じられるのかもしれません。

冒頭で重要人物が亡くなるし、ミステリアスな設定なのでつい謎解きしたくなってしまいますが、謎が”解かれる”ことはありません。弦矢と一緒に(・・・これがそういう事情で、あれがそういうことなら、おそらくは・・・)と推測していながら読み進めていたことが、そのうち彼によって、いささか唐突に(・・・としか考えられない)と追認されるのです。ミステリーも普段から読んでいる者としては、「立証」されないままのぼんやりとした真実に、ちょっと戸惑います。いやそもそもこれは”ミステリアスな小説”だけど、多分”ミステリー”ではないので、お作法を当てはめる方が・・・・(と自己ツッコミ)。

謎の手紙を発見して読み始めてすぐに、(もしや)と思ったことがすべてその後追認された形なので、ミステリーとしては読みごたえが少ないかもしれませんが、読み急ぎたくなる感じが心地よくて、もっと読みたい、次回作があったらぜひ、という気持ちになってしまいます。でもないのかも。
うーん、どうしましょうこの気持ち・・・。

May 08, 2017

佐藤正午「月の満ち欠け」396冊目

一番好きな作家の"20年ぶりの書き下ろし長編小説”ということで、4月発売だしそれなら大きい書店の店頭にあるかなと思ったら、1軒目にはなく、2軒目でやっと買えました。こんな新作があるなら、ゴールデンウィークは旅行しないで家でまったり読書でもすればよかったかしら、と一瞬思ったけど、半日で読み終えてしまったので、やっぱり旅行して正解でした。

どうでもいい前置きはこのくらいにして、感想を言いますと、いつもの圧倒的な筆力でグイグイ読ませるし、じわっとそれぞれの登場人物に引き込まれていくし、面白かったけど、なんでこの「生まれ変わり」っていうテーマに行き着いたのかがちょっと謎。この人の小説には、何かに突き動かされて一人の人を追い続ける人がちょいちょい出てくるけど、生まれ変わってまでストーキングを続けるような「愛情」だとは思ってなかった。そういう一途な思いを持ち続ける人は主人公ではなく、悪役的な脇役のことも多いし。

幸福な結婚をして添い遂げる、というのでなく、未婚のまま、あるいは婚外恋愛として思い続けることも多い。
誰かをそこまで思い続けるってどういう感じなんだろう。
誰かをそもまで思い続けながら、形ばかりの結婚生活を送るのって、どういう感じなんだろう。と、ちょっと戸惑っています。

「何かを追い続ける」または「何かから逃げ続ける」というテーマを深掘りしていくうちに、時間や場所を超えてさらに現世を超えてみた、という実験なのかな。

個人的には、正木が生まれ変わった少年に出てきてもらって、二人を邪魔してみてほしかったです。

May 07, 2017

佐藤正午「ダンスホール」395冊目

また本を読まなくなった私ですが、久々に読み終えたのは、だいぶ前に買って読みかけてたこの短編集。
この人の小説を読んでると神経が落ち着いてきます。
東京とは違う時間の流れが、この人が舞台とする長崎なり福岡なりの九州の小都市にはあるし。バリバリ会社勤めなんか絶対しない人たちと一緒に過ごしている気になって、毎日同じようなものを食べて少ない人数の人の中で暮らすのも別にいいんじゃないか、と思えるので。

だいいち何で人は、自分は、首都を目指すんだろう。なんで「上」とか「中心」とかに向かう指向があるんだろう?甲虫が電灯に集まるようなもんかな。
そんな、承認欲求を「満たす」んじゃなく逆に「別にいいんじゃないの、誰も見てなくても」という気持ちにさせてくれます。

しかし表題の「ダンスホール」は長さの割に登場人物の関わり方が複雑で、珍しくちょっとわかりづらいと思いました。作家と西の語り口がかぶるからかな。

検索したら、久々に長編も出てるようなので、早速購入。また楽しみができました。

February 25, 2017

山下澄人「しんせかい」390冊目

写真を先に見たからか、ずいぶん無骨なごっついオッサンだな、文章もおっさんっぽいなと思いながら読んでたのに、ある時点で不器用な少年が書いた文章にしか見えなくなった。

このおっさんのことだから、19歳のときも”紅顔の美少年”じゃなくておっさんっぽい無口な少年だったんだろう。当時から多感ではなくて、いま思い出しても感情という部分が思い出せないのだろう。ただ自分の外にある人間や馬や畑仕事のことはカメラで焼き付けたように再現できる。とは言っても31年間のうちに、丸太の建物が朽ち果てるように、記憶も何かに置き換えられたり傷んできたりしている。

たいして意味のない地元での生活が、意味のわからない寒い荒野での生活に置き換えられただけ。
それを思い返す自分に安易な感傷などあるわけもない。
そういう小説。ハードボイルドというジャンルの一つなんだろうか。

感動はしなかったけどなんとなく面白かった・・・というのは、感動しなければならない場に置かれることが多すぎる、ネットでも「2ページ目で必ず泣ける」みたいなものばかり流れてくる昨今、富良野だから倉本聰だからひれ伏さなければならないわけじゃない、泣かない男がいてもいいんだ、というだけでも、なんとなくホッとするからでしょうか。

芥川賞の選考委員の人たちも、それぞれめいめい好き勝手な感想を言ってて面白い。絶対ほめないだろうなぁと思った村上龍がやっぱりほめてなかったし。

タイトルの「しんせかい」、関西の人には大阪の「新世界」が何一つ新しいところのない、極めて戦後的な古臭い町だということは当たり前で、もともと悪い冗談みたいな名前なんだけど、自分が向かった北海道の新天地を表すのにそのひらがな表記を使ったことは、関西の19歳の少年らしい皮肉っぽいギャグなんでしょうかね。そこだけ、主人公の彼にしては素直じゃなくて可愛くないな、と違和感を感じました。

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