本)文学、文芸全般

April 21, 2019

パブロ・ネルーダ「2000年」「大いなる歌」454、455冊目

「イル・ポスティーノ」という映画を見ました。イタリアの小さな島に、南米チリを政治亡命した詩人がやって来て、彼の家に毎日郵便物を届けるだけの仕事をしている地元の青年と交流する、という映画。その詩人が実名でパブロ・ネルーダなのです。彼がそういう島に移り住んでいたというのは史実で(郵便配達人とそういう交流が実際にあったかどうかは不明)、口伝えした詩も本物だったんじゃないかと思います。

「2000年」は晩年の著作で極めて薄い、本文40ページ程度の本だけど、「大いなる歌」は500ページ近い大著。記された言葉は、「大いなる歌」の方が、行間から美しいエネルギーが立ち上るようです。

政治犯という存在は、私からは遠すぎて理解も共感もできてません。革命に走るほどの困窮や、その中から立ち上がる人の姿を目の当たりにしないとわからないのかな。いつか南米に行けたら、もう少し知ることができればいいと思います。

December 13, 2018

村田喜代子「焼野まで」444冊目

ほぼ、ガンになった村田喜代子自身の闘病記なのかな?
八幡ものではガンが見つかってからあまり長く生きられなかった「ミツ江」はこの本では長生きして、自分自身のほうが闘病しています。
モデルになったオンコロジーセンターを調べまくってしまったくらい、この本は「子宮体ガン・切らずに治すマニュアル」でもあります。
女の生を描き続けてきた彼女が今書いている小説には、あの世が時々うっすらと透けて見えています。いつもの村田節。
若い頃からの馴染みで、病床にいても携帯でときどき電話で話す「八っちゃん」って男性は、どういう存在なんだろう。兄弟みたいに親しいけど、まるで男と女という色気がない。主人公が病院で出会うガン友達も、なんとも言えない味わいがあります。その後連絡を取り合ったりしない人たち。生きているか死んでいるかわからない人たち。といっても、ガンでなくても人は必ず死ぬんだけどね・・・・というのがこの人の世界だな。

面白いからもっと書き続けて欲しいです。あの世からも書いてテレパシーで送って・・・。

December 12, 2018

村田喜代子「八幡炎炎記」「火環」442-443冊目

敬愛するレジェンド村田喜代子の新作。自伝とまでは言わないけど、鉄鋼の町での自分の生い立ちをモチーフにした小説です。
ヒナ子は「ツクシみたいな女の子」。優しいけど子どもの気持ちはあんまりわからないおじいちゃん・おばあちゃんに娘として可愛がられて育ち、まじめじゃない大人たちの中で、素直だけど実は頑固な個性を育んで行きます。

軽妙でカラッとして無駄がない。彼女の憧れた映画監督が新藤兼人(裸の島とかの頃ね)というのが興味深いですね。彼女の小説の人間表現のしかた、文章の完結さとかが、白黒のドラマからきていると思うと、不思議なようで納得します。

この小説のなかでは、ガンになるのはミツ江だけど、著者自身が闘病してきたのも事実らしいです。小説家は転んでもタダでは起きない。自分の死について書けない(あるいは、書いても生きてる人たちに見せられない?)ことをきっと悔やむんだろうなぁ、彼女は。

私の敬愛する二大作家は偶然二人ともずーっと九州在住で、若い頃はふっとどこかに飛んで行ってしまう小説が多かった(それがまた素晴らしかった)けど、最近は二人とも、小説の中で、町から出ていきません。体がここにあっても心は自由だという領域に達したんでしょうかね。私も何か文章で人の心を動かすことができたらいいな、という思いを頭のどこかに抱きつつ・・・またもう一冊読みます。

October 27, 2018

原田マハ「リーチ先生」437冊目

全くのフィクションなんですね。朝ドラみたいなものかな。
バーナード・リーチ、濱田庄司、柳宗悦、富本憲吉、高村光太郎・・・など実在の人物の中に、亀ちゃん、その息子、といったこの物語の中だけの人物が登場して、狂言回しのように彼らの努力を支えます。実に面白いです。素晴らしい彼らの陶芸の世界、そこに到るまでの若かりし頃の切磋琢磨、いい人しか出てこない美しく清らかな世界です。

実際にはもーちょっと周囲に計算高い人がいたり、妬み深い人がいたりしたかもしれないけど、とても熱く幸せな気持ちになれる小説でした。

この夏、初めて訪れてみた小鹿田と小石原の優しく静かな風景を、懐かしく思い出しつつ。
万人にお勧めしたい、良い小説です。

June 10, 2018

島田雅彦「カタストロフ・マニア」430冊目

図書館で予約してたのがやっと届いた。
SF的な小説で、主人公は20代のオタクな青年。「カタストロフ・マニア」というのは彼が夢中になっているゲームのタイトルで、臨床治験で病院に閉じ込められてる間もずっとやってる。
ある日病院で目が覚めたら、誰もいない。病室だけでなく院内に一人もいない。外に出ても誰にも会わない。
・・・SF小説や映画を読みすぎた、見すぎた私はこの後の展開を以下のように期待しながら読み進んだ:過疎の病院は実は悪の要塞だったとか、最後の最後に彼は眠らされたままゲームの仮想現実の中をさまよっていたのだとか。
数をこなすのは本当に悲しいことで、一度こうなってしまうと何も予想も期待もしないで読むことはできない。
そんな感じで読んだので、なんとなく肩透かしにあったみたいな気持ちになってしまいました。全く100%、私の勝手な先入観が原因なんだけど・・・。
うむむ、ごめんなさい。

April 22, 2018

恩田陸「終わりなき夜に生まれつく」424冊目

ファンタジー小説というべきかな?
「在色者」、”色”という特殊能力をもつ若い青年たちのエピソードを集めた短編集。
恩田陸の作品は、純文学に近いものしか読んだことがなかったので、こういうファンタジー的なものはちょっと意外だけど、前のめりで登場人物たちに入り込んでグイグイ書いていることが伝わってきます。彼女の元々のスタイルがこれなのかもね。(女子大の英文科を出てまあまあバリバリ働いてる私たちが、再会して話すとやっぱりオタク的に文学作品を読みふけっていた過去が見え隠れする、というようなもので)

人物たちのキャラが実によく立っていて、続きが読みたいな〜〜と思ってたら、人気作品の「前日譚」なんですね。ですよね〜〜〜。あわててその「夜の底は柔らかな幻」の方も読むことにしました。こっちはすぐに借りられました。

April 13, 2018

島田雅彦「深読み日本文学」423冊目

先日NHK文化センターで講義を受けて感動した島田雅彦が、日本文学を存分に語った1冊。
200+ページの新書なのですぐに読めます。語り口が目の前で話してるようで読みやすい。
そして偏っている。講義と同じだ。偏愛日本文学。文学もだけど政治に関しては一言も二言もあって、時間がいくらあっても足りません。

中でも最高だったのは「谷崎潤一郎作品を読むために重要な5つのポイント」。あまりに面白いので3つほど引用させてください:
第一に根っからのスケべであってほしい。(「・・・下ネタにかまける人を軽蔑するタイプの人・・・は谷崎には手を出さず、漱石を読むべきです。」)第二に悩める知識人であってはならない。第三に常に何かを崇拝し続けること。などなど。
この本で、愛猫を剥製にしたのは谷崎くらいだろうと書いてあるのを読んで、一瞬私もやろうかと思ってしまったけど、多分恐ろしい、似ても似つかないものになって眠れなくなりそうなのでやめておきます。

March 26, 2018

松尾スズキ「同姓同名小説」422冊目

2002年の小説。16年前だ。
みのもんた、川島なお美、田代まさし、小泉孝太郎といった実在の人々(と同姓同名の誰か)を主人公とした短編集ですが、今やお亡くなりになった人もいれば、話題に上らなくなった人もいて、こういう本を16年後に読むのってもしかしたらちょっと悪趣味なのかもしれません。

みのもんたは面白かったけど、ピンとこないものも多かったです。

February 28, 2018

中上健次「千年の愉楽」419冊目

面白かった。実際、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」に似てるところがたくさんあるし、独特の、私が思っている典型的な日本の風景とは違う風景を見せてもらえてすごく面白かった。
高貴で濁った血が流れる中本の美しい若者たちって、どうイメージすればいいのかな。映画では半蔵は高良健吾、三好は高岡蒼佑、達男は染谷将太、と聞けば割とイメージ通りではあるけど、普段の彼らの人間らしさを、”普通じゃない”中本の者たちへと昇華するのにどんな魔法が使われたんだろう?

「心のままに生きる」っていう、凡人には何より難しいことをやって滅んでいく人たちにすごく惹かれるけど、手を伸ばしても到底届かない。本物の中本の男たちの世界を、この目で一度覗き見てみたい・・・。

ミシェル・ウェルベック「服従」418冊目

フランスにイスラム政権が発足する、という小説。
「え!?』
極右政党が一般人を攻撃するようになり、穏健派で常識派のイスラム党の党首に一気に人気が流れて、まさかの選挙結果により左派とイスラム党による連合政権が発足するんだけど、党首の実力で彼が大統領に。主人公は内向的な、村上春樹の小説にでも出てくるような大学教師。イスラム教育を行うため、まず教師のうち女性が全員解雇され、教徒でない男性教師も。主人公は大学に戻るために改宗を迫られる・・・・
というあらすじを聞いて、フランスってすごい国だな、シャルリ・エブド事件後にこんな本が出るなんて。と驚愕しました。
何も知らずに読み始めたら、内向的な青年の自分語りのまま、何も起こらずに流れる日常的な小説だと思っただろうな。まさか政治的なことに巻き込まれそうにないタイプの人が主人公なんですよ。こういう感覚って不思議。日本の小説でも、「まさかこの人が」という効果を狙うことは多いけど、日本ではこの人を主人公にこのテーマの小説は出てこないだろうな。多分ノンポリの大学生とかフリーターとかにしそう。
色々、ミスマッチ感とか不自然さが興味深い作品でした。社会が変わっていくことに注意が行かないほど、大学教師の女性関係や日々の食事や感じていることば描かれた不思議な小説でした・・・。

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