本)アート関係

October 11, 2012

「千住博の美術の授業 絵を描く悦び」282冊目

たまたま軽井沢の「千住博美術館」に行く予定があって、人に薦められたので読んでみました。
もともと私も日本画の岩絵具の風合いを愛する人間だし、「日曜美術館」で「ウォーターフォール」を見てから一度本物を見たいと思ってました。

実を言うと、本物の「ウォーターフォール」は期待が大きかったからか特に驚きはなかったんだけど、ひとしずく、飛沫のひとつぶの無駄がなさがよくわかりました。

で、帰ってから読み始めたこの本は、期待してなかった分感動が大きいです。絵を描くことを生業にしようとするための覚悟について考え抜いて、後に続く人たちに伝えるために真剣に書かれた本です。

私は子供の頃に絵を描くのが大好きだったんだけど、絵では食っていけないと思って大学受験のときに絵筆を捨てた人間で、年をとってから純粋な楽しみのために再び絵筆を取ったところ、まったく描けなくてがっかりしました。なぜ描けないかということをその後考えるに、描く対象に迫っていく好奇心とか、対象を好きになり、自分の
ものにするほどの熱い気持ちがないからなんだということに気づきました。絵はうまく描きたいから描くんじゃなくて、描きたくてたまらないから描くものなんです、当たり前だけど。で、それを一生続けて、それでご飯を食べて行こうという人が、どれほど真剣に取り組むべきかという本当のことを著者は書ききってくれました。

この姿勢は、文章の書き方を指南する佐藤正午や村田喜代子とも通じます。製造業にだって通じます。一つのことを、わき目も振らずに、全精力をかけて、色気を捨てて、打ち込む。

嬉しいのは、この本を読みながら、モノをじっくり見てみて、また描いてみたいなぁと思えたことです。・・・描けるかなぁ?(笑顔)

July 15, 2009

ペニー・スパーク「20世紀デザイン - パイオニアたちの仕事・集大成」163

A4変形サイズ、272ページオールカラー、ハードカバーの豪華本。
最近集中的におっかけている「デザイン史」関連ですが、この本はいわば「デザイナー図鑑」です。

どんなにうまくやろうとしても、個別のデザイナー(画家とかもだけど)をひとくくりにしてなんかのグループに入れようとするのは無理がある。従って、デザイナーごとにその作品サンプルを多数カラーで配し、ごく短いテキストを添えたこの本は、アーティスト別に編纂された美術全集と同様、何より参考になります。(1万円超もするので買えないのがツライ)

かつ、日本の人が書いた本よりイギリスの人が書いた本を読んでみたかった。この人はV&Aミュージアムと共同で開設した王立芸術大学のデザイン史コースの教授らしい。だからか、網羅的でかつ理論に流れず冷静です。実物に囲まれていて初めて、流れも見えてくるはず。

とても楽しく面白く読めました。(眺めた、というか)字ばっかりの本をいくら読んでも人名が覚えられないけど、これが手元にあったら、事典がわりに使えていいだろうなぁ・・・(買えないけど)

この本で目立つのは、Mr & Mrsなんたらという項目が多いこと。著者が女性だからでしょう、著名なデザイナーの妻もデザイナーである場合、妻のほうの影響度も実は大きいことがある・・・という点まで掘り下げて調査しているようです。

昔アルビン・トフラーの講演会に行ったら、質問に答えてるのは奥さんだった。その後の本は夫妻の共著ばかりだし、実際は本を書いてるのは奥さんの方なんじゃないか・・・という話を某教授から聞いたことがあります。Shakespeare's Sisterなんて話もあるし、著名デザイナーの中には実はほとんど妻の作品だったというケースもあるとこの本の著者は思ってるのかもしれません。

June 28, 2009

柏木博「デザインの20世紀」158

この前にデザイン史の教科書を読んだところ、教科書的で(当たり前だ)工業デザイン、建築、ファッション等のジャンル別に流れを概観しただけだったので、「であんたはどう思うの?何が好きで何が嫌いなの?」と著者を問い詰めたい気持ちでいっぱいになっていたところ・・・

その教科書の編者が自分で書きあげた、この本を入手しました。「文責:本人」って感じで、かなり主観の入った一冊です。そーいうのが読みたかったの。

しかし・・・・
最初の2章は時系列的に流れを追ってますが、研究者ではなく評論家だからか?引用はたくさんあるけど、引用元も論文ではなく評論のようなものが多く、とにかくデータが出てこない。で第3章は「現代デザインの諸相」と題して、主観を述べ続けます。現代の諸相から自分が感じたことを散文としてまとめたいのか、客観的に分析して論じるのか、どっちがしたいのかつかめずに、読んでるほうがウロウロしてしまう。

アートの世界の人たちの文章は、感受性がとても繊細で、言葉選びも丁寧な人が多いなぁと感じることが多いんだけど、なにかを論じる文章になると力を失う人もいる。感じるままを素直に書くことから一歩先へ進もうとしたのに、自己流におちいっている人もいる。自分が1つのことから感じたことを一般化して、世界のすべてのことが説明できると錯覚してしまっている、と思う文章も多い。

この本、とくに第3章は、「現代の広告やデザイン」、「電子時代のデザイン」を俯瞰するものとして読むより、それらに接して著者が感じたものを読み取ろうとしたほうが面白い。

それにしてもデザインって何なんだ・・・。この世界に関する本はビジネス書と違ってとりとめがなくて、何冊読んでも全然わかんないよ。情報収集を続ければ少しは一般的な感覚が持てるようになるんだろうか。ならないんだろうか。まだまだ、どこから手をつければいいかもわからないような有様。一般化が得意そうなアングロサクソン系の人が書いた本でも探して読んでみるべきか・・・。

March 29, 2009

千々岩英彰「色彩学概説」156

ビジネスの勉強をしているうち、今後重要なのはデザインだ!という話になってきたので、これからしばらくはアート系の本を読んでいく。3月に入ってから関連の本を4冊読み終えてこれは5冊目なんだけど、これからも興味深いものがあったら感想を書こうと思う。

この本は、色ってものについてきちんと考えたことがなかった自分にとって、非常ーに興味深い内容だった。目の構造や太陽光の構成から始まり、色彩学を学問として研究した先人たちの歴史が一通りカバーされている。著者自身の研究結果も大量に収められている。色彩学ってのは生理学であり、物理学であり、心理学であって、はなから学際的なのだ。

眼球から入って脳に至る信号の感じ方を生理学的にいくらやっても、色そのもののことはわからない。でもプリズムで分光しても、ぴっちりとしたデータが出てこない。ものすごく揺らぎの多い、分析しづらい分野なんだな。そうなると多数の人を集めてアンケート調査をするしかなくて、膨大な調査結果が取り上げられているところは立派なんだけど、そのデータの解釈が若干ムリがあると思うところが多い。たとえばターゲットが世界中の大学生だけだし、日本の古代の色の好みと現在が異なる可能性について触れたりしていない。

しかし、おおざっぱに「現在の世界中の人々の色や配色の好みは7割は一致していて3割はローカルで異なる」という結果は、今後念頭に置いておくといいのかもしれない。その3割をどれくらい重視すべきかは状況で異なるだろうけど。
色の好みは「欧米と南米」「東アジア」「東南アジアと南アジア」の3グループに分けられ、配色の好みは「日本や韓国」「フィンランド」「中国やロシア」「欧米」に代表される4グループに分けられるという。ここまで分けちゃうと、各国の誰にアンケートを取ったか、その好みが平面・立体・環境、ファッション・プロダクトデザインなどのどれにもあてはまるのかどうか・・・等々、疑いたくなる部分もある。たとえば、中国の学生があざやかな赤を強く好むことと、中国でお祝いの席にあざやかな赤がひどく多用されていることは、赤が好きだからよく使うのか、いつもめでたい席で使われるのを見て育ったから好きになったのか。

現実にいる洋服のセンスのいい人やメイクの上手な人が、色彩学の勉強をしたとは限らない。本1冊読み終えてみて、日本に3つも4つもあるカラーコーディネーター検定の類と、この本で書かれた色彩学の歴史と、関係があるのかないのか、あるとしたらどの検定はどの人の理論に基づいたものなのか、あるいはもっと新しい理論を元にしてるのか、気になってきた。こんなに分析できない物事に関する感覚を、どんな根拠で合格不合格を決めてるんだろう。でもおそらく、1級合格者はインテリアやファッションのコーディネイトに実際に配色のルールを生かしてるはずで、そういう日々実践レベルの色彩学のことも知りたい。古本で100円くらいで買える昔のテキストを取り寄せてみようかな・・・。
以上。