映画)アメリカ(80年代まで)

October 30, 2014

村上春樹「雑文集」273冊目

1Q84を読み返して、それからこの本を読んで、やっとすこし村上春樹っていう人のイメージを持てるようになった気がします。
どういうイメージかというと、「セカオワ」の深瀬くん(と、カオリちゃんがその妻)。というと極端だけど、ひどく繊細で才能豊かな男性がいて、彼を守り抜くことを決めて生きている女性がいる。彼らは彼女たちに守られて、「壁」と直接対立することなく、自分の中に果てしなく広がる猫の国のなかで創造を続けている。彼らの作品世界は日々とぎすまされていくけれど、外に出て壁と向き合おうという意欲は薄れていきつつあるから、壁に対するイメージは子供っぽいままだ。

彼の小説を読み切ったときの、物足りなさというか、満ち足りてるけど違和感がある感じが、すこしわかった。彼の小説世界そのものが、あまりにも吸引力の強い別世界だから、抜け出せない感じが残って、夢の続きを見たいような気持ちで、次の小説も読んでしまう。現実世界と重なる部分がない(事象もだけど感覚や感情も)から、ゲームに没頭しすぎたような後ろめたさが残る。
前に進んでいく感じがない。ずっと昏睡状態のまま猫の国にいるほうがいいんじゃないか、という気持ちになる。

「この世に生命を受けるということは、外の世界に触れるということだから、安全なところで身を守ることだけでなく、自分と相容れないものと交わって影響しあうことも大切だ」と思う人には、認められない猫の国小説なのかもしれない。これが絵画なら、風景を描こうが人物を描こうが内面世界だけを描こうが、評価軸はぶれにくい気がするけど。

あ、「社会性の欠如」っていうやつなのかな。

私は、「壁」を作る人が猫の国の出身だったりするといいなと思ってるから、猫の国より外の世界にいることのほうが多いし、二択なら外の世界のことを書いた小説のほうを選ぶ。いやでも村上春樹ほど読んでる小説かあんまりいないかも。本を読んでいる時間より自分のことを考えてることのほうが多い。猫の国というのは自分自身の内面ってことだから、結局のところわたしもあっちの人間なのかな。

書いた人のプロファイリングをしたがるのは、読み手としては悪質で本質から外れてるかもしれないけど、そんな感じですこし腹に落ちました。

May 14, 2012

ジョン・スタージェス監督「荒野の七人」350

1960年作品。
「七人の侍」の流れでどうしても見たくなりました。

当時きっとスター・ウォーズのように受けたんでしょうね。スケールが大きくて俳優さんたちがカッコよくて、痛快で勧善懲悪。
映画そのものは、何度繰り返して見ても見逃してるシーンがたくさんある…これは多分、サムライ映画と違って銃を撃ちまくるシーンはうるさく感じて知らず知らず目をそむけてしまってるからだと思います。私には日本の時代劇のほうがいいらしい。

この映画もちゃんと見たのは初めてで、知っていたこともあったけど新しいいろんな発見がありました。
私がレンタルしたDVDは「特別編」と称するメイキングが60分も入っていて、わりと最近制作されたインタビュー映像がたっぷり見られます。これでいろんなことがわかりました。
黒澤の「七人の侍」はハリウッドで本当に大ブームになっていたこと。しかしリメイク権はわずか250ドルで取引されたこと。ジェームス・コバーンは剣の達人「久蔵」役に憧れていたこと。しかしこの人と若造の役以外は、元の映画とそのまま重なる役柄は少ないこと。

俳優についても、改めて調べてみて知ったことがあります。
ユル・ブリンナーってほんとハンサムだなぁ、と思って見てみたら、もともとは「ユーリ」って名前のウラジオストク出身のロシア人なんですね!(スイス、モンゴル、ユダヤの混血らしいですが)この人に髪を生やしたらどんな風貌だろう?
ちょっと「オースティン・パワーズ」のDr.Evilの表情がちょっと似てるような。

そして、メキシコ人かしらと思っていたチャールズ・ブロンソン(うーんマンダム、といっても30代くらいからもうわからないんだろうな)はリトアニア移民だそうです。ちょっと強面な感じだけど、「メイキング」によると誰とでもすぐ仲良くなったらしい。「いそしぎ」ではアーティスティックなコミューンのメンバーの役でしたね。

スティーブ・マックイーンはすぐに目立ちたがって余計な演技をして怒られていたらしい。…私この人とかジェームス・ディーンとかあんまり興味ないんです…。大人気俳優だと思うけど、特にコメントがないので流します。

全体としては、こういうのがアメリカ人が好む映画なんだなぁと刷り込まれました。
オリジナルにも勝る殺戮の数々だけど、本質的に男の人って(なかには女性もいるだろうけど)こういう戦闘シーンが嫌いではないのかな?

そんなわけで、ストーリーがちゃんと追えない有様ではあったけど、アメリカ映画を知る上で欠かせない1本だったと思います。以上。


April 11, 2012

ヴィンセント・ミネリ監督「いそしぎ」342

1965年アメリカ作品。

TVでやったのをだいぶ前に録画しておいたのを、やっと見た。
テーマ曲が有名すぎますが、映画のイメージはまったくなかったので、へぇーこういう映画なんだぁー、と言いながら見ました。

今日のひとこと:「いそしぎ」って「磯鴫」っていう鳥だったのね…。
どういうわけか、「したしみ」とか「やすらぎ」みたいな“やまとことば”だと思っていました。ときどきこうやって馬鹿がばれますね。

エリザベス・テイラー演じる若い未婚の母親と、リチャード・バートン演じる初老の牧師が恋に落ちてしまうけれど、やがてそれぞれの道を歩いて行く、という物語。
おおむね真面目に生きてきた男の偽善を浮き立たせる、美しくまっすぐな女。
現代日本に設定を変えるとしたら、銀行員とストリートミュージシャンでしょうか。

テイラーが美しく豊かで、引き込まれるような天然の魅力をもつ女性に説得力を持たせています。バートンも硬いだけではない男性的な魅力を感じさせます。二人が恋に落ちていくのは自然なんだけど、デキちゃってから男の服装がダラダラになっていつも二人で砂浜に寝そべっているのも、自然すぎてなんか人の生活を覗いてるような感じです。彼はテイラーの5回目の結婚相手なんですね。寝そべってるシーンでここまで脱力出来るのは、演技でもなかったのか・・・。

ストーリーだけ見ると見る気がしないようなありきたりな不倫の物語ですが、予想よりさらにちっちゃい「いそしぎ」と海辺の風景が美しく、また、牧師の反省やその後のそれぞれの旅立ちが素直で、なるほど、大変ねぇ、と共感できます。
あと、ちょっと昔の映画を見ると、当時の風俗や映画作り文化が面白いです。この時代に友達に「ぜひ見て!」と薦める映画でもないけど、なかなかよかったなぁという感想でした。以上。

March 13, 2012

ケン・ラッセル監督「アルタード・ステーツ/未知への挑戦」339

1979年作品。

キノコでトリップしてゴリラになった映画だった。
最近変な映画ばっかり見てるなぁ。(語弊を恐れず、というか、明らかに変わった映画ばっかりだ)

もう少しちゃんと説明すると、とある立派な大学教授が、水の中に浮遊して精神をリラックスさせて自分の内面を覗くという実験にはまってしまい、きのこまで使ってトリップを繰り返すうちに、子ども時代の自分に戻るだけでなく、さらにさらに遡って人類の進化を逆戻りしていくようになり、それが現実の世界まで浸食するようになって・・・ という映画です。

ケン・ラッセルは本当に変だ。異常とか怖いとかじゃなくて、毒もないしいたって正常な人だと思うんだけど、なぜかわざわざ、信心深い人が戦慄したり、良識派の人が立腹したりするような映像を作りたくてたまらないらしい。超自然マニアなのか?この映画の主人公のオカルトマニアの大学教授みたいなタイプの人なのかな?それってまほうのきのこや草の実によって引き起こされるもの?すごく変なんだけど、どこか、まともな人がわざとやってるような、あまり出来が良くない日本のホラー映画を見たときの気持ちとちょっと似ています。どこがどう似ているか説明するのは難しいのですが。

ケン・ラッセルは、猟奇殺人を題材にした血みどろのほんとうに怖い映画とか、人間の内心の怖さや汚さを深く描いたサスペンス映画とかを、どう思って見ていたんだろう?ということに興味があります。

最近ブログへのフィードバックをいただくことが少なくなってるのですが、そうすると誰からも読まれていないかのような気持ちで書いてしまって、だんだん深く考えずに書くようになって、表現も辛辣になりがちな気がします。もうすぐ新年度だし、ちょっと気持ちを引き締めて書くようにしよう・・・。(という反省があると思えない今日の書き出し)

January 02, 2012

スティーブン・スピルバーグ監督「インディ・ジョーンズ最後の聖戦」324

1989年作品。ということは私の分類でギリギリ「古いほう」ですね。
BSでやってたので見ました。インディ・ジョーンズシリーズは何作か見た覚えがあるけど、これはあんまり覚えがないなぁ。

最近の冒険活劇系の映画としては、ハリポタものなら全部見てますが、それと比べると実に単純な作りだなと、改めて思います。考古学者で武術の達人のインディ、敵はナチスというわかりやすい悪役。ブロンドの悪女に翻弄されながら、未開の地の奥の神殿に隠された秘宝を探す。ナチスが馬やラクダや戦車に乗ってきて銃やライフルやミサイルを撃ってくるのをヤリで蹴散らしたり、考古学者だけどバンバン反撃して殺戮しちゃったりするけど、いいの相手は悪者だから。…という、TVゲームかディズニーアトラクションのような世界観。(映画がベースだから当然なのか)

それに比べて、いまの映画は友情と愛と裏切りと尊敬と憎しみと疎外とむなしさと…もう複雑。CGのエフェクトがすごくなったり、3Dになったりしたことより、そういう違いを如実に感じてしまうのが面白いですね。やはり映画は時代を映すんだなぁ。…映画としてはあまり楽しめなかったけど、どんな映画も面白いなぁと思います。以上。

November 19, 2011

ロマン・ポランスキー監督「ローズマリーの赤ちゃん」307

1968年作品。
この映画は、最初に就職した会社を辞めて家でウツウツとしてた時期に、WOWOWをつけるといつもやってて、ノイローゼになりそうなくらい見たという漠然とした記憶があって、世にも奇妙で恐ろしい映画だときつく刷り込まれてしまっている、そんな存在でした。しかし、ロードショーで最新作「ゴーストライター」を見て、やっぱりこの”呪われた”名作を見直してみようと決意しました。

感想:いやー、本当によくできた映画です。面白かった!
ミア・ファローが、素晴らしく犠牲者というか”生けにえ”になりきっています。

「お隣の夫婦」が、もっと見るからに奇妙な人かと思ってたらやけに明るくてパワフルなのがすごく意外でした。ミア・ファローも、思っていたよりずっと可憐でかわいらしい。後の映画のイメージで、もう少し成熟した大人の役だった気がしてたけど、こんなに初々しいなら、この役にはぴったり…ということは世界的に認められていて、私がいま気づいただけですが。

キリスト教圏の人が、悪魔にとらわれた人たちを題材として映画を撮るのには勇気が要るんじゃないだろうか?ポランスキー監督はホロコーストを身近に知っているから人間って疑わしいという感覚が身についていて、こんな映画が撮れたのかしら…とか思いながら、DVDのおまけのインタビューを見たら、ポランスキー監督はプロデューサーのロバート・エヴァンズに「大好きなスキーの映画を撮らせるから来い」と騙されてこの映画を撮らされた…らしいです。

インタビューで、「主人公はもっと典型的な健康なアメリカ人男女をイメージしていたが、プロデューサーの意向で違うタイプの二人を選んだ」という話が出ています。チャイナタウンのジャック・ニコルソン&フェイ・ダナウェイもゴーストライターのユアン・マグレガーも、健康的なイメージ強いし、ポランスキー監督は決してゴシック趣味とか悪趣味とかホラー好きではなくて、一流のサスペンス映画を撮る監督なんだなと、改めて思いました。。
(そもそも、ポランスキー自身、見るからに普通に健康的な感じの人だもんね・・・。)

私が映画をたくさん見ている最終的な目的は、ディレクターじゃなくてプロデューサーについて学ぶこと・・・と考えると、このプロデューサーを追っかけることも必要な気がします。この映画のプロデューサーはクレジットではウィリアム・キャッスルとなっていますが、インタビューに答えているロバート・エヴァンズが真の黒幕っぽい。この人、チャイナタウンとかゴッドファーザーとか、有名な作品をたくさんプロデュースしてますね。彼に関する本とDVDが出てるようなので、さっそく見てみなければ。

今日の一言:後味悪い映画を撮らせたら天下一、のはずだったのに、最後のミア・ファローの聖母の微笑みでなぜか癒されてしまった!まったく予想と正反対で戸惑っているきょうの私です。 
以上。

October 26, 2011

ロマン・ポランスキー監督「チャイナタウン」295

1974年作品。

ジャック・ニコルソン演じる私立探偵のところに、ある女性が夫の浮気調査の依頼にやってくる。夫はダムの放水流域について一言持っている水道局長。浮気現場を撮影した写真が知らないうちに新聞に漏れて大騒ぎになった後、依頼者が実は妻とは別人だったことがわかり、私立探偵は大きな陰謀に巻き込まれていく。

デジャヴュかと思うほど、「ゴーストライター」と相似した映画なんだけど、結末へと向かう流れが違います。主人公のキャラクターはこっちの方(ジャック・ニコルソン)が図太くてゴーストライターの方(ユアン・マグレガー)がやわらかい。ゴーストライターの方が、世界は一見平和そうに見えても以前より複雑になっていて、もっと救いがない。…一人の監督が、一つのテーマを繰り返し、違うプレゼンテーションで見せ続けている気がします。

私の中のポランスキー監督のイメージを形作っている映画は、たまたま過去に見た「テス」や「ローズマリーの赤ちゃん」だったので、”後味が悪い”だけじゃなく時代がかってマニアックな映画を撮る監督というイメージでした。でもこの2本は、主人公の一人称でなく客観的な第三者視点で撮られていたら刑事コロンボと間違いそうな、心理サスペンス映画なのです。周囲の人がみんな疑わしくて、心理戦の末にたどり着いた意外な人物が本当の黒幕…というような。(ミステリー系の映画の中でも、その手の心理サスペンスは、お茶の間で人気の作品でもけっこう後味の悪いものが多い。と思います)「ゴーストライター」を見終わったときに、もしかしたらこの監督は人間の複雑さを描きたい人なのかもという予感がかすかにしたのですが、それより40年近く前に撮られたこの映画でその思いは強くなりました。

ちなみにこの映画の大部分は舞台が「チャイナタウン」ではありません。北欧系アメリカ人のポランスキー監督にとっては、チャイナタウンと聞くと陰謀が渦巻いていてお金で何でも動くのかも、というミステリアスなイメージがあるのかもしれませんが、近隣諸国住民がイメージするもちょっとリアルなチャイナタウンとは違う気がして、日本人的にはちょっと不思議なタイトルだなーと思いました。

あと、ジャックニコルソンって目が険しいまま口が笑ってて、本心どっちなんだろうと何度か思いました。以上。