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February 2018

February 28, 2018

中上健次「千年の愉楽」419冊目

面白かった。実際、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」に似てるところがたくさんあるし、独特の、私が思っている典型的な日本の風景とは違う風景を見せてもらえてすごく面白かった。
高貴で濁った血が流れる中本の美しい若者たちって、どうイメージすればいいのかな。映画では半蔵は高良健吾、三好は高岡蒼佑、達男は染谷将太、と聞けば割とイメージ通りではあるけど、普段の彼らの人間らしさを、”普通じゃない”中本の者たちへと昇華するのにどんな魔法が使われたんだろう?


 


「心のままに生きる」っていう、凡人には何より難しいことをやって滅んでいく人たちにすごく惹かれるけど、手を伸ばしても到底届かない。本物の中本の男たちの世界を、この目で一度覗き見てみたい・・・。


ミシェル・ウェルベック「服従」418冊目

フランスにイスラム政権が発足する、という小説。
「え!?』
極右政党が一般人を攻撃するようになり、穏健派で常識派のイスラム党の党首に一気に人気が流れて、まさかの選挙結果により左派とイスラム党による連合政権が発足するんだけど、党首の実力で彼が大統領に。主人公は内向的な、村上春樹の小説にでも出てくるような大学教師。イスラム教育を行うため、まず教師のうち女性が全員解雇され、教徒でない男性教師も。主人公は大学に戻るために改宗を迫られる・・・・
というあらすじを聞いて、フランスってすごい国だな、シャルリ・エブド事件後にこんな本が出るなんて。と驚愕しました。
何も知らずに読み始めたら、内向的な青年の自分語りのまま、何も起こらずに流れる日常的な小説だと思っただろうな。まさか政治的なことに巻き込まれそうにないタイプの人が主人公なんですよ。こういう感覚って不思議。日本の小説でも、「まさかこの人が」という効果を狙うことは多いけど、日本ではこの人を主人公にこのテーマの小説は出てこないだろうな。多分ノンポリの大学生とかフリーターとかにしそう。
色々、ミスマッチ感とか不自然さが興味深い作品でした。社会が変わっていくことに注意が行かないほど、大学教師の女性関係や日々の食事や感じていることば描かれた不思議な小説でした・・・。


February 12, 2018

立花珠樹「女と男の名作シネマ」417冊目

映画評論家、立花珠樹さんの著書がまた出ていました。
タイトルが「男と女の」じゃなくて女が先なところが、著者の優しさを感じさせますね(笑)。
この本でもオススメの作品100本が紹介されているのですが、この本特に私と趣味が合うなぁ!
「エターナル・サンシャイン」とか「ハロルドとモード」、「ビフォア・サンセット」「或る夜の出来事」「あの頃ペニー・レインと」「愛人(ラマン)」「小さな恋のメロディ」「草原の輝き」「追憶」「マンハッタン」「ブロークバック・マウンテン」「嘆きの天使」「華麗なるギャツビー」「月の輝く夜に」「ロミオとジュリエット」「蜘蛛女のキス」「ベルリン天使の詩」・・・とか、典型的なロマンチック恋愛映画とは限らないものもあるけど、そうそう、いいよね!と言いたくなる映画がたくさん選ばれています。


 


私もだいぶ映画見てきたなぁ。この人の「あのころの日本映画が見たい」という本を買っ他のが私と映画との出会いと言っても過言ではないので、そこから数えて1700本以上映画見て感想書いてきましたよ、先生!とお礼を言いたいです。
映画って見れば見るほど見足りない。見たい映画がどんどん公開されるし、なかなか見られない映画をどんどん発見してしまう。いつになれば、だいたい見たなって思えるんでしょうね・・・。


ミハイル・ブルガーコフ「巨匠とマルガリータ」416冊目

ものすごく面白い小説だった。
荒唐無稽、抱腹絶倒、でも愛あり涙あり(あったっけ?)、しかし破綻なく、信じられないくらい新しかった。


読み進めるにつれて感じたことを時系列的に書くと・・・
最初は悪魔らしき人物が登場してショッキングな事件を予告するあたり、「DEATH NOTE」とかのマンガのような刺激的な悪魔小説かと思った。今でもいけるよ!と思いつつ、引き込まれていきます。
しかし、悪魔はただ極悪で血まみれなだけじゃなくて村上春樹の小説に出てくる魔物のようでもあるし、異世界や、登場人物が書いた小説とパラレルで物語が進行するあたり、現代の純文学のようでもあります。
と思って真面目に読んでいたら、阿鼻叫喚の悪魔の饗宴が始まって、これは筒井康隆だ!と思ったり。
ハリー・ポッターばりの魔法小説のようでもあり。
でもちゃんと最後収拾がつくんですよ。天才?


人が勧めてくれた本を読むのって、ほんとに大切ですね。こんなに面白いものに出会えて感謝です。
沼野先生、島田先生、ありがとう。(?)


February 01, 2018

一色さゆり「神の値段」415冊目

書評かなにかで見て、図書館で借りられたらいいな〜と思って調べたら、たまたますぐ借りられてよかった。
ギャラリーで働く若い女性が主人公で、幻の(生きているかどうかもわからない)アーティストと、ギャラリーを取り巻く不思議な人たちの世界を見事に描いた読み応えのある小説でした。


しかし、現代アーティストで世捨て人っていうのがイメージが逆で不思議だし、世捨て人だけど自分の手を動かさず、工房に指示して作品を作らせている(とてもコマーシャルな感じ)というのもにわかに理解しがたい。そういうのが現実にあるから、アートの世界は本当にわからない。(そこが小説としてはとても面白い)


「このミス大賞」の選評を読むと、警察の捜査などの描写力がまだまだ、とか書いてあって、そうなのかもしれないけどあまり気になりません。美術に関わる人たちって、純粋で欲がないみたいなイメージもあるけど、全然感情に流されない描写が割とスカッと読めます。次回作も読んでみよう。