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October 01, 2017

村上春樹「騎士団長殺し」412−3冊目

一応たしなみとして、村上春樹の長編は読むことにしてる。買うかどうするか毎回迷うんだけど、今回は発売半年後、十分価格が下がったところで古本を購入。図書館の待ち人数は400人台です。

以下ネタバレ。
構成上のことをいうと、この本は珍しくパラレル構造じゃなくて、ずっと同じ人が語っているので、読みやすかった。
あと、最初に事件の結末が語られるのは珍しい。妙に安心して読み進めました、今までの、訳がわからないから先が気になって、ただ煽られるように読み進むのに比べて。ただし、顔のない依頼者の肖像画を描こうとして描けない、したがってペンギンも返してもらえない、という状態は続いてる。まりえの胸は膨らんでいく、叔母さんと免色は順調に続いている、まりえの母を襲ったようなスズメバチがまりえを襲い、母の死因に「もしや」と疑いが生じる。
とりあえずはハッピーエンド、だけどみんな心の奥に何かを隠したまま暮らしていく。

事件らしい事件が怒るのは下巻の半ば。起こる事件は、少なくとも「まりえ」の側はこれまでの小説に比べればリスクの少ない冒険に見えるし、主人公の方も、歩いたり渡ったりくぐったりという変化はあるものの、今までのアドベンチャーゲームばりの起承転結のないままの、割合平坦な冒険です。そしてその前に自分の手で、それなりに信頼に足る登場人物を出刃包丁で刺し殺すという生々しい加害者像も描かれています。

感想。少しずつ大人らしくなってくるなあ。中二っぽい「悪は全て自分の外の大きな訳のわからないものの中にあって、自分は戸惑うばかり」だった主人公、今回は「誰の中にもある悪を見つめすぎずに暮らしていくことを自分で選択する」まで成長した。そうなんだよ。「自分は弱くてかわいそうな卵で大きくて悪いのがシステムなんだ」という幻想は捨てていいんだ。
「白いフォレスターの男」は、デイヴィッド・リンチ「ツインピークス」の「キラー・ボブ」だよね。極悪な殺人犯だと思ってたものが、最後に善良で緻密な主人公に入り込んでいる、という。そういう自覚が大人なら必要。

たまたま7月に富士の樹海に行って風穴にも入って来た。たまたま先月から絵画教室に通い始めた。どっちもそれなりに人がいたけど、別に「騎士団長」効果ってことはないと思う。個人的には、情景がリアルに浮かんでよかった。もう一つ、一生読まないと思ってた「カラマーゾフの兄弟」もこの本の前に読んだ。(この小説には「悪霊」の方が多く出て来てたと思うけど)ドストエフスキーの主人公は必ず突き抜けるんじゃないかな?村上春樹でいうとおとなしい主人公より免色が主役になるのがドストエフスキーなんじゃない?

冒頭で「顔のない依頼者の肖像が描けない」話を書いてなければ、不安の少ない普通のハッピーエンドだ。不安だらけで、どこに希望を見出せばいいのか?と思っていた以前の作品と比べて、ずいぶん安定感のあるエンディングだったから、冒頭を書き足さなければならなかったんだろうか。この先もっと安定していったら、小説は面白くなくなっていくんだろうか。

過渡期って感じのする作品だったのかもしれません。次も読むけどね。

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