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May 2017

May 10, 2017

宮本輝「草花たちの静かな誓い」397本目

「泥の河」くらいしか読んだことはないのですが、地を這うような生活をしている人たちに温かく寄り添う作家さんだと思っていたので、この作品のどこか軽く、明るい印象がちょっと意外でした。テーマは決して軽くないのに、カラッとした晴天の多いカリフォルニアが舞台であることや、主人公の弦矢が育ちがよく気取らない若者であることから、全体的な印象が軽快に感じられるのかもしれません。


冒頭で重要人物が亡くなるし、ミステリアスな設定なのでつい謎解きしたくなってしまいますが、謎が”解かれる”ことはありません。弦矢と一緒に(・・・これがそういう事情で、あれがそういうことなら、おそらくは・・・)と推測していながら読み進めていたことが、そのうち彼によって、いささか唐突に(・・・としか考えられない)と追認されるのです。ミステリーも普段から読んでいる者としては、「立証」されないままのぼんやりとした真実に、ちょっと戸惑います。いやそもそもこれは”ミステリアスな小説”だけど、多分”ミステリー”ではないので、お作法を当てはめる方が・・・・(と自己ツッコミ)。


謎の手紙を発見して読み始めてすぐに、(もしや)と思ったことがすべてその後追認された形なので、ミステリーとしては読みごたえが少ないかもしれませんが、読み急ぎたくなる感じが心地よくて、もっと読みたい、次回作があったらぜひ、という気持ちになってしまいます。でもないのかも。
うーん、どうしましょうこの気持ち・・・。


May 08, 2017

佐藤正午「月の満ち欠け」396冊目

一番好きな作家の"20年ぶりの書き下ろし長編小説”ということで、4月発売だしそれなら大きい書店の店頭にあるかなと思ったら、1軒目にはなく、2軒目でやっと買えました。こんな新作があるなら、ゴールデンウィークは旅行しないで家でまったり読書でもすればよかったかしら、と一瞬思ったけど、半日で読み終えてしまったので、やっぱり旅行して正解でした。


どうでもいい前置きはこのくらいにして、感想を言いますと、いつもの圧倒的な筆力でグイグイ読ませるし、じわっとそれぞれの登場人物に引き込まれていくし、面白かったけど、なんでこの「生まれ変わり」っていうテーマに行き着いたのかがちょっと謎。この人の小説には、何かに突き動かされて一人の人を追い続ける人がちょいちょい出てくるけど、生まれ変わってまでストーキングを続けるような「愛情」だとは思ってなかった。そういう一途な思いを持ち続ける人は主人公ではなく、悪役的な脇役のことも多いし。


幸福な結婚をして添い遂げる、というのでなく、未婚のまま、あるいは婚外恋愛として思い続けることも多い。
誰かをそこまで思い続けるってどういう感じなんだろう。
誰かをそもまで思い続けながら、形ばかりの結婚生活を送るのって、どういう感じなんだろう。と、ちょっと戸惑っています。


「何かを追い続ける」または「何かから逃げ続ける」というテーマを深掘りしていくうちに、時間や場所を超えてさらに現世を超えてみた、という実験なのかな。


個人的には、正木が生まれ変わった少年に出てきてもらって、二人を邪魔してみてほしかったです。


May 07, 2017

佐藤正午「ダンスホール」395冊目

また本を読まなくなった私ですが、久々に読み終えたのは、だいぶ前に買って読みかけてたこの短編集。
この人の小説を読んでると神経が落ち着いてきます。
東京とは違う時間の流れが、この人が舞台とする長崎なり福岡なりの九州の小都市にはあるし。バリバリ会社勤めなんか絶対しない人たちと一緒に過ごしている気になって、毎日同じようなものを食べて少ない人数の人の中で暮らすのも別にいいんじゃないか、と思えるので。


だいいち何で人は、自分は、首都を目指すんだろう。なんで「上」とか「中心」とかに向かう指向があるんだろう?甲虫が電灯に集まるようなもんかな。
そんな、承認欲求を「満たす」んじゃなく逆に「別にいいんじゃないの、誰も見てなくても」という気持ちにさせてくれます。


しかし表題の「ダンスホール」は長さの割に登場人物の関わり方が複雑で、珍しくちょっとわかりづらいと思いました。作家と西の語り口がかぶるからかな。


検索したら、久々に長編も出てるようなので、早速購入。また楽しみができました。