宮本輝「草花たちの静かな誓い」397本目
「泥の河」くらいしか読んだことはないのですが、地を這うような生活をしている人たちに温かく寄り添う作家さんだと思っていたので、この作品のどこか軽く、明るい印象がちょっと意外でした。テーマは決して軽くないのに、カラッとした晴天の多いカリフォルニアが舞台であることや、主人公の弦矢が育ちがよく気取らない若者であることから、全体的な印象が軽快に感じられるのかもしれません。
冒頭で重要人物が亡くなるし、ミステリアスな設定なのでつい謎解きしたくなってしまいますが、謎が”解かれる”ことはありません。弦矢と一緒に(・・・これがそういう事情で、あれがそういうことなら、おそらくは・・・)と推測していながら読み進めていたことが、そのうち彼によって、いささか唐突に(・・・としか考えられない)と追認されるのです。ミステリーも普段から読んでいる者としては、「立証」されないままのぼんやりとした真実に、ちょっと戸惑います。いやそもそもこれは”ミステリアスな小説”だけど、多分”ミステリー”ではないので、お作法を当てはめる方が・・・・(と自己ツッコミ)。
謎の手紙を発見して読み始めてすぐに、(もしや)と思ったことがすべてその後追認された形なので、ミステリーとしては読みごたえが少ないかもしれませんが、読み急ぎたくなる感じが心地よくて、もっと読みたい、次回作があったらぜひ、という気持ちになってしまいます。でもないのかも。
うーん、どうしましょうこの気持ち・・・。
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