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March 2017

March 31, 2017

ヨリス・ライエンダイク「なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?」394冊目

原題は「Swimming with Sharks: My Journey into the World of Bankers」、金融の海に飛び込んでサメどもと泳いでみた って感じでしょうか。

私はバブルまっただなかに大学を卒業し、成績優秀な学生の多くが金融に行った世代なんだけど、その後ベアリング、山一証券、北海道拓殖銀行が破たんし、都銀がどんどん合併して、リーマンショックが起こり・・・というのを経験した世代でもあるので、金融って大変だなぁと思ってきたし、金融の人に対して好き嫌いの感情を持ったことはありません。なので、私にはまったくピンとこないタイトルなわけですが、他の人はどうなんでしょう。

前置きが長くなりましたが、感想としては、動かしてるものがお金でそのボリュームが膨大だという違いはあるけど、欧米式の大企業の中ってどこも同じような感じだなぁと思いました。
私がいたIT企業は、やってることは違うけど「クオンツ」のような人がいっぱいいたし、カンファレンスの壇上でカッコよくプレゼンをするPMは「ロックスター」に近い。法務や財務のバックオフィスの存在感はちょっと違うかな、IT企業の法務やコンプライアンスはけっこう力を持ってると思うので。何を売っているかが金融商品よりはわかりやすいし、紙幣を印刷するようにフロッピー(すみません古くて)をコピーしてすごい利益率をあげてたから、当局に目をつけられて独禁法の縛りも厳しかったんだよな・・・。

個人的には、当時「うちの会社って嫌われてるなー」という感じがかなりありました。つまり・・・「大丈夫、嫌われてたのは金融だけじゃないから!」(←なんか違う方向に行ってるw)。
嫌われるってことは、たとえば親が金融やITで豊かな生活をしている子どもが、学校でいじめられることもあるということでもあります。反感が強い人ほど、自分のいじめを正当化する力も強い。いい思いだけしてる人なんてそんなにいないんじゃないだろうか、というのが私の基本的な考えなんだけど、どうなんでしょう。

「1人1人を見るとどうしてこんなことになったのかわからないが、システムが悪いんだ。」と著者は村上春樹の小説みたいに締めくくるんだけど、システムというのは人間の欲望や善意や悪意が集まって出来てしまう「総意」のようなもので、規模が大きくなればなるほど自分で自分を縛って変化ができなくなるもんだ。金融業界の“巨悪”システムを切り崩すものが今後出てくるとしたら、別の巨大な“システム”である警察やら監督機関とかじゃなくて、もっと使いでが良くて手数料の少ない金融サービスを提供する、小規模で小さいビジネスによる、いわゆる破壊的イノベーションなんじゃないのかな。(それが巨大化してそのうちまた“システム”になる)

だからバブルには乗っかれ、という結論ではないです。バブルもイジメもない、ちょい貧しいけど平穏な世界に隠遁したい、というのが私の本音かな・・・。

March 11, 2017

山口雅也「ミステリーズ」393冊目

珠玉の、抱腹絶倒の、短編集。
1990年初頭にさまざまな雑誌に書かれた短編を集めたものだけど、Disc 1&2に別れて構成されていて、洒落ています(本当はこの年代の作家ならレコード盤の「Side A&Bにしたかったはずだけど、微妙にCDが幅を利かせてきた時代だよね)。

傑作と名高い処女作の「生ける屍の死」がすっごく面白かったので期待して読んだら、期待をさらに超える素晴らしさでした。私は「解決ドミノ倒し」が好きだ!これ下北あたりのアングラな舞台でやってほしい。もうやってるかも。
このお話は、かんたんに言うと、探偵が広間に容疑者全員を集めて「この中に犯人がいる!」から始まる、ミステリーの「解決編」だけの短編。しかし「ドミノ倒し」ということで、刑事がてきとうな推理をして「お前が犯人だ!」と言ってもカンタンに犯人に論破され、「ではそちらのあなたが犯人でしょう!」と言うとまた・・・と繰り返して、一体誰なんだ〜、と言うお話。腹を抱えて笑えます。

冒頭の「密室症候群」や「不在のお茶会」は、いわゆるメタ設定がループして(「解決ドミノ倒し」もそうだけど)、めくるめく構成の楽しみのある大人向けの短編なのですが、その中に心理学やなんやらの小難しい説明もちょいちょい挟まれます。とにかくさまざまな文系の分野の造詣が広く深くて、どれくらい深いかと言うと、大人の余裕で笑いにできるくらい深い。読む人はニヤリ、あるいはワハハと笑いながら、何やらマニアックな世界に魅了されていきます。

2冊目にして、my favorite作家のリストに加わりました。きっと読破してみせる。
どうやらこの本、今は絶版のようですが、図書館にはあるし古本は1円とかで買えるので、気が向いたらぜひ読んで見てください。

March 06, 2017

有栖川有栖「江神二郎の洞察」392冊目

面白かった。
この人の作品の一番力が入ってるところはいつも、「全員がアリバイがあるように見えるのに、犯人だけが殺人を犯すことができた。それは誰か、そしてどういう理屈か?」だと思う。動機を描き出すために長い背景を語ることが絶対必須ではないので、私としては短編集の方が良いののかもしれません。

が、いつものように、ミステリー論を展開する部分が全体の2割くらいはある感じ。
めちゃくちゃミステリーファンで、メジャーどころを読み込んでいるような人なら、フルに楽しめるんだろうけど。
これで一旦、この作家は打ち止めにして、他の作家のミステリーも読んでみようと思います。