« January 2017 | Main | March 2017 »

February 2017

February 28, 2017

有栖川有栖「鍵のかかった男」391冊目

これは2015年に書き下ろしで発売された作品。
今までで一番読みやすかった。大人らしい抑えた文体だし、”鍵のかかった男”が重層的で興味をそそられます。
宝くじ当選とか事件に巻き込まれるとか抑えた文体とか、私の敬愛する佐藤正午を少し思い出しました。

ミステリー的にはこの作家のいつもの「犯人は誰だ?」が主で、いつものように最も重要なのは「タイミング」です。アリバイはない、だけどなぜこの人にしか犯行ができなかったのか? 
でもやっぱり、動機がなぁ・・・。最後の最後にとってつけたような動機が語られても、ここまで読み進んで、登場人物それぞれの人となりを一応わかったつもりでいるからこそ、「なるほど、あの人がねぇ」という納得感が欲しかったです。

February 25, 2017

山下澄人「しんせかい」390冊目

写真を先に見たからか、ずいぶん無骨なごっついオッサンだな、文章もおっさんっぽいなと思いながら読んでたのに、ある時点で不器用な少年が書いた文章にしか見えなくなった。

このおっさんのことだから、19歳のときも”紅顔の美少年”じゃなくておっさんっぽい無口な少年だったんだろう。当時から多感ではなくて、いま思い出しても感情という部分が思い出せないのだろう。ただ自分の外にある人間や馬や畑仕事のことはカメラで焼き付けたように再現できる。とは言っても31年間のうちに、丸太の建物が朽ち果てるように、記憶も何かに置き換えられたり傷んできたりしている。

たいして意味のない地元での生活が、意味のわからない寒い荒野での生活に置き換えられただけ。
それを思い返す自分に安易な感傷などあるわけもない。
そういう小説。ハードボイルドというジャンルの一つなんだろうか。

感動はしなかったけどなんとなく面白かった・・・というのは、感動しなければならない場に置かれることが多すぎる、ネットでも「2ページ目で必ず泣ける」みたいなものばかり流れてくる昨今、富良野だから倉本聰だからひれ伏さなければならないわけじゃない、泣かない男がいてもいいんだ、というだけでも、なんとなくホッとするからでしょうか。

芥川賞の選考委員の人たちも、それぞれめいめい好き勝手な感想を言ってて面白い。絶対ほめないだろうなぁと思った村上龍がやっぱりほめてなかったし。

タイトルの「しんせかい」、関西の人には大阪の「新世界」が何一つ新しいところのない、極めて戦後的な古臭い町だということは当たり前で、もともと悪い冗談みたいな名前なんだけど、自分が向かった北海道の新天地を表すのにそのひらがな表記を使ったことは、関西の19歳の少年らしい皮肉っぽいギャグなんでしょうかね。そこだけ、主人公の彼にしては素直じゃなくて可愛くないな、と違和感を感じました。

有栖川有栖「月光ゲーム」389冊目

この作家のファンではないし、与えられた謎を真剣に解くこともせずに、ただ気軽に読んでるだけなんです、すみません。でも面白かったよ。3部作の中で、これが一番小説として楽しく読めた。まだ大学生の空気が作者に濃く残ってたからか、その場にいて自分も仲間に入っているような楽しさ。キャンプ場にいるというだけで上がるテンション。
ミステリーとしての謎解きの面白さは、私は今もこの作家の肝みたいなものが掴めてないのでなんともいえないんだけど、だいたいいつも、誰もアリバイがない状況で、たっぷり与えられたヒントから「その時本当にそこにいられたのは誰か」をあぶり出す、という形なのかな(今までのところは)。

私みたいなパラパラ読みではパズルまでは解けないんだけど、それでも解答のひねりは十分あじわえます。
この作家は、”死んだと思った人が生きてた”、”ゾンビになって殺人をした”、みたいな超法規的解決をしないのが良いんだけど、作家ごとにルールが違うから慣れるのが大変だよ・・・。

でも続いて2冊読みます。

February 21, 2017

京極夏彦「魍魎の匣」388冊目

読んだー!
重かったー!(※物理的に)
1048ページ。いやー面白かった。
最初は、旧仮名遣い文が混じるし、霊能者とはなんぞやとか、魍魎とはなんぞやとか、長い長い説明が面倒な気がしたこともあったけど、どんどんはまり込んで、後半は夢中で読み進みました。
長くて複雑、パラレルでいくつもストーリーが進行する、という小説や映画は昨今数多くあるけど、この小説はパラレルなスレッドがそれぞれ数人ずつの共通人物でつながっていて、完全に独立しているわけじゃありません。だから気持ちをいちいち切り替えないで読めるし、重層的なのです。

オカルトと科学と人間同士の愛憎が、それぞれちゃんと深く描かれているし、うまくつながりあってる。著者はそうとう頭のいい人だなぁ。

京極夏彦ってこういう感じなんだ。いくら何でも長すぎるので、そうそう読めないけど、この人の名作と呼ばれるものは一通り読んでみたいな。あー、大人にも退屈で長い夏休みがあればいいのに。

February 18, 2017

有栖川有栖「孤島パズル」387冊目

大学生の江神探偵シリーズ第2作。先に読んでしまった「双頭の悪魔」が第3作なので、順番間違ってる。
しかし「双頭の悪魔」が分厚い力作すぎて個人的にはめんどくさかったのに比べると、こちらの方がシンプルで人間関係も納得しやすかったです。いくらトリックに凝るといっても、「双頭の悪魔」のxx殺人は余程の信頼関係がなければ・・・ぶつぶつ

順番が真逆ですが、この後第1作の「月光ゲーム」も読みます。

February 15, 2017

佐々木譲「エトロフ発緊急電」386冊目

面白かった。単行本、二段組、400ページ弱というボリュームで、謎解きのない冒険小説です。
エトロフ島に住むロシア混血女性ゆき、日系アメリカ人二世で米軍スパイとなった賢一郎、彼を追う軍人磯田、南京で中国人の恋人を日本兵に殺された牧師スレンセン・・・他にも、登場人物の一人一人のリアルで眼に浮かぶような立体感のある人物造形が素晴らしくて、それぞれに共感しながら先に先にと読み進めてしまいます。すごい筆力。それに、人間愛と言っていいような温かい視線を感じます。

読んでいて思い出すのは、最近読んだ石光真清のノンフィクションでした。彼もまたスパイでしたから。開戦前夜の緊張感、スパイという極端なスリルと日常生活のギャップの大きさ。スパイでありながらすごい筆力のあった彼ですが、そのノンフィクションと比べてもリアル感を失わないこの小説もすごい。

ミステリーとは呼べないかな。大河小説という感じ。実に読み応えのある傑作でした。
しかし小説の寿命は短いのかな、この本も「男たちは北へ」も図書館の奥の「保存書庫」にしまわれて、私のようにピンポイントで検索・予約しない限り出会えません。それでも放出されず、次に読む人のために保管されていると考えれば、受賞作品リストというのは、傑作の命を永らえさせる効果がバカにならないのかも。

ところで主役の賢一郎、どうしても斉藤工が浮かんでしまいました。
それにしても、どうしてこう、最近北方領土がからむ本ばっかり読んでるんだろう。偶然なんだけどなぁ。

February 13, 2017

風間一輝「男たちは北へ」385冊目

1989年に発刊された小説ですが、グラフィックデザイナーを本業として、そのほかに飲み歩き関係の記事などを雑誌に書いていた筆者が初めて書いた長編小説だそうです。
表紙カバー裏の写真をみると、ウイスキーらしきグラスを手にした無頼っぽい男で、野坂昭如的な昭和のにおいがプンプンしています。2017年の私について行けるか、ちょっと不安をおぼえつつ読み進めてみると、たしかにときどき戸惑うほど昭和です。

どれくらい昭和か?は後でふれるとして、この小説の特筆すべき点はそこではなくて、単純にミステリーが解明されていく様子が面白いし、人間味あふれる登場人物に存在感があって、じわっとあったまるいい小説なんですよ。さすが、あまたの小説好きに愛されてきた名作。

無頼派自転車乗りの主人公のほかに、一見クールだけど曲がったことが嫌いな自衛隊のエリートや、旅のなかで成長をとげていく通りすがりの少年など、ユニークな人物が続々と登場します。すごく男くさくて泥くさい小説だけど、いい小説でした。

さて、時代を感じさせる部分について書きますと・・・
主人公はグラフィックデザイナーで雑文家(明らかに著者の分身ですよね)で、自転車乗り。
思うことあって自転車で東京から東北への旅に出るのですが、そのいでたちがGパンにフィッシャーマンズベストって、釣り人かお前は??今公道をそんな格好で何百キロも飛ばす奴ぜったいいないよ。と、まずここから突っ込むわけですが、その頃のおまわりさんは「自転車は歩道を走れ」という指導をしていて、デコボコで走りにくい歩道をなんとか避けて、誰も見ていないときは車道に降りて走っていく主人公です。そして、彼は「アル中」という設定で、これがあまりに本格的なのでびびります。ドライブインに着く度に、朝から昼からビール大瓶を1本ずつ空け、宿では何度も頼むのが面倒だからと酒を最初に5杯注文する。さらに極め付けが、手持ち荷物の中に常にウイスキーのハーフボトル。飲酒量の問題だけじゃなくて、実際彼は昼間走っているときに禁断症状にたびたび苦しむのです。中島らも?
もはや平成の世の中では映画化不可能な世界。。。

「このミステリーがすごい!」などで堂々と入賞しているけど、この作家知らないなぁと思ってwikipediaで調べたら、1999年に亡くなられていました。ごく最近のベストテンにも入賞しているのは、今も彼の作品を愛読している人がたくさんいるということでしょう。きっと愛された作家だったんだろうなぁ。

February 12, 2017

有栖川有栖「双頭の悪魔」384冊目

この人の作品を読むのは久しぶり。
本格的推理小説、「フーダニット」(犯人当て)の名手。以前は結構好きだった気がするんだけど、今回はそれほどはまらなかったなぁ、「このミステリがすごい!」人気リストを見て選んだんだけど。
大人になりすぎてしまったんでしょうか、私は。

もともとミステリーは小・中学生の頃にアガサ・クリスティから読み始めたので、人間模様から導き出される”動機”は”トリック”と同じくらい私にとっては重要なのです。この人の作品は、人間がチェスの駒みたいで動機なんて薄弱でも構わないと言ってるように思えてしまったりする。

純粋にパズルとして読めば、こっち岸とむこう岸とで複雑に絡み合った事情、張り巡らされた伏線、とかをひもといていく楽しみが味わえるんだろうけど、この世界の言語に不慣れで、作家の意図するヒントとそうでないものを区別するのが難しい。少なくとも3、4冊まとめて読んでみないとな・・・。

というわけで、ちょっと集中して読んでみるか、この人の小説。

February 07, 2017

水原秀策「サウスポー・キラー」383冊目

ミステリーなんだけど、完全に野球小説ですね。
バタバタ人が死んだり、残酷な手法だったり、どろどろの人間の醜さを描いたりする怖いミステリーが多いこの世の中で、ほっとする作品でした。

この作品も、トリックの複雑さや動機の難しさがメインではなくて、小説として面白い中にミステリーの要素「も」あるという感じ。そういう楽しみ方もあるんだなーと思いました。

著者は元野球部かしら?決して専門的でわかりにくいのではなく、詳しい人がわかりやすく説明してくれる印象でした。ほかの作品は、タイトルをみる限りちっとも野球とは関係なさそうだけど、どんな作品を書くんだろう・・・また読んでみたいです。

February 05, 2017

ジェフリー・ディーヴァー「ボーン・コレクター」381〜382冊目

文庫本とはいえ上下巻あって、なかなかのボリュームでした。
最初の誘拐の場面の後、首から下が麻痺した探偵という設定が理解できるまでに結構時間がかかってしまった。
なるべき事前情報を見ないで読み始めるので、こういう苦労をしてしまうんだけど、これが映画だったら一目瞭然だなぁ。

ベッドに縛られて身体は動かなくても、頭はキレッキレの探偵リンカーン・ライム。この小説では、そういう状態の彼の肉体的苦痛がどれほどのものかも語られていて、そういうこともあるのかと初めて知りました。わかってなくてごめんなさい。
しかし、気難しい彼の才能も人柄もだんだん好感を覚えるようになっていって、美人刑事アメリア・サックスとの関係もいい感じだし、安楽死なんかしないでもっと続編を書いてくれよー!と思ったら、この後かなり書き続けてるみたいですね。興味あります。

ただ、犯人の設定は・・・この人の可能性もあるかなとも思いながら読んだけど、最後わやわやな感じだったなぁ。
次作はどんな設定になってるのかしら・・・。

February 04, 2017

浅倉卓哉「四日間の奇蹟」380冊目

とても丁寧に書かれた小説で、優しくて細やかな人が書いたんだろうなと思った。
小説のなかで起こる「奇蹟」は美しい。面白い小説だった。
けど、奇蹟が発覚して以降のヒロインが泣きすぎる・・・。
元々それほど生に執着していなかった女性でも、パニックに陥るのは共感できるけど、
私にはちょっと感情過多なかんじでした。(←とか言ってるやつに限って、いざとなると大泣きしたりするのかもしれないけど!)
最初のほうの描写が長いよう~と思って読んだんだけど、その後に起こることが自然だと思わせるために、さりげなく伏線を張ったり性格を印象づけるために、そのほうがよかったのかもね。

ミステリー要素もあるけど、ロマンチックな小説でした。