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December 2016

December 30, 2016

石光真清「曠野の花〜石光真清の手記1〜4」365〜8冊目

明治の軍人で、日露戦争前の満州で諜報活動に従事して目覚ましい活躍を残した実在の人物、石光真清の膨大な手記のうち2冊目を読みました。1冊目は生い立ちから諜報活動開始前まで、この2冊目は開戦までの一番スリリングで面白い部分だと思われます。

感想:本当にすごい本だ。
本人語りの実話だっていうんだから。
石光のたくましさは、例えば本田宗一郎とか田中角栄とか、自分一人の力量と人望で一代を築いた豪傑を思わせるんだけど、今の日本にこれほどの大物感を漂わせてる人はあまりいない。今は出る杭が昔と違ってマスメディアやインターネットで日本中にあっという間に知られて、どこへ行ってもすぐに叩きのめされる時代だからかな?
彼の周囲の女たちの逞しさも、ものすごいんだ。日本から満洲に「女郎」として売られながらも、個人の努力で現地の大物に払い出され、その家で頭角を現し、女傑となって若い衆を仕切るたちが、同様に出世したかつての仲間を語るとき、まるで「モルガン・スタンレーで働いてた時の同僚で」かなにか語るように軽やかで、目を回してしまう。

馬賊の晒し首だとか、ロシアによる大虐殺だとか、今の時代ではもう考えられないような世界観(とあえて呼んでみる)の中で物怖じひとつしない日本人が、これほどたくさんいたんだから。日本から満洲に渡って馬賊の頭領になった人も実在したらしい。

誰かこれをアニメ化しないかな。その辺のラノベよりはるかに面白いし、壮大で美しいスクリーンが広がるはず。
あまりに面白いので1冊目と3、4冊目も買いました。これから読んでまた感想を書きます。

December 25, 2016

川上弘美「センセイの鞄」364冊目

いいお話だった。
うんと年上の人を愛するようになるというのが、どういうことか、初めて少しわかった気がする。
「センセイ」というのが、じわじわと味の出てくる人物で、月子さんの感情はどこか受け身。
高校卒業後10年以上たって再会し、しょっちゅう飲み屋で一緒になりながら、付き合い始めるまで2年。”スローフード”とか”スローライフ”の仲間の、遠い世界の出来事のように思えます。

女性が書いた小説だから、月子さんという人物造形はきっとリアリティのあるものなんだろうけど、私から見ると自分と全く共通点がないな〜という感じです。ちょっと憧れる。

December 24, 2016

有川浩「阪急電車」363冊目

面白かった。
大勢の登場人物のそれぞれが生き生きと愛嬌いっぱいで魅力的。
時系列を、阪急今津線というこじんまりとしたローカル電車の各駅に停車しつつ進めていく「群像劇」なんだけど、その工夫や人物造形の魅力だけに止まらない、人生観の深さが感じられます。

大学生や若い社会人のカップルたちの恋の馴れ初めが初々しく語られ、おばちゃんたちの図々しさにチクリと針を刺し、この小説を読んでると初恋の頃の恥ずかしさや嬉しさを思い出す人も多いのでは。

この小説は特に作りが独特なので(そこが面白さな訳で)、別の小説も読んでみたいなぁと思いました。

December 11, 2016

山内昌之・佐藤優「第3次大戦の罠〜新たな国際秩序と地政学を読み解く」362冊目

やっと読み切った。
最近ロシアや旧ソ連諸国に旅行することがあって、にわかにロシアを取り巻く地政学に興味が出てきてしまった。
私が行ったウズベキスタンは、イスラム教徒の多い中央アジアの国だけど、旧ソ連の名残りが強く残っていて、文化の中継地点、混合地点、という趣気がとても面白い国でした。それで、ロシアの中のイスラムってどういうことになっているんだろう?とか、そういえば中国の中にも新疆ウイグル自治区があったな、とか、連想するにつけ関心は広がるばかり。

この本は地理や歴史にある程度造詣のある人でもスルスルとは読めない深さがあると思うけど、その辺にきわめて疎い私から見ても、地政学的なプロフェッショナルの寒天って、普段見るニュースやドキュメンタリーでは全く見かけたことがないなぁ、と思う。小さい頃はテレビのニュースの人たちはすごく勉強をしていて、素人にもわかるようにいろんなことを教えてくれる・・・と思っていたけど、最近はそう感じることが少ない。こればっかりは、見る側の”民度の低さ”のせいにはできないんじゃないかなぁ。

この本がベストセラーになるくらい、充実した教養番組が増えるといいなと思います。ちゃんと見るから。

December 02, 2016

村田沙耶香「授乳」361冊目

2冊読んだあとは、タイトルを見ただけでヤバい感がぞわぞわと来る。
内容は、やっぱり。
この人ってゲイやバイの指向はないけど、性を嫌悪する「アセクシュアル」を指向してるのかしら、もしかして。男性も女性も、性を感じさせるものが同じように嫌い。
ちなみに食欲も、性と同じように生命や熱を感じさせるものとして嫌う。
何ページも使って比較的好ましく描写される男性は、男性性から抜け出そうとする男性や、男性性を感じさせない中世的な男性だ。女性は「母親」も「小さい子」も、一様に女性性を内包するものとして、相当に嫌悪する。
面白いけどあまり気持ちいい読み物って感じじゃないなぁ。
「コンビニ人間」以降の、あかるさのある文章のほうが私は多分好きになれそうです。

でも、変なものほど・・・本当に変なものほど、本当に面白いんだ。

December 01, 2016

村田沙耶香「殺人出産」360冊目

へー。激しいなぁ、この本は、「コンビニ人間」よりずっと。
何しろ、10人産めば1人殺していい、だもんね。
ただし、筆致はあくまでも静か。カズオイシグロの「わたしを離さないで」みたいな、残酷さがふつうになっている世界。村田沙耶香って人は常に「何がふつうなの?」ということを問い続けている人なのかな。
ただし、殺人の場面は執拗な印象だ。“残酷”みたいに感情のこもった表現じゃなくて、ただ純粋に、子どもが昆虫を解体するように、その作業に熱中し、それが開いていく新しいものに夢中になる。

でも、「コンビニ人間」の方が面白いし、なんか、熱くなりすぎるものを乗り越えたような成熟した感じがあったよ。