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August 2016

August 30, 2016

菅野完「日本会議の研究」356冊目

なんか鬼気迫る本でした。
私はこういう、隙のない仕事をする人って好きです。
世の中のビジネス本や啓蒙書には、少し調べた結果を自由自在にふくらませて、結局のところ自説を展開している、という本が多いといつも思います。面白ければ、趣味で読む分にはいいと思いますが、あいまいな根拠で第三者をおとしめたりするのは良くない。その点でこの本は、突っ込まれる隙を与えないために最大限の努力をしたことが感じられました。


そんな努力によって書かれた本の結論を、ここでさらっと書いてしまうのははばかられるので、サワリだけ書くと、安部内閣や彼らのバックにいるのは、とある宗教団体をベースにした学生運動からはじまり、その宗教の本流でないところで発展し、生き延びてきた人たちなのだそうです。信じるものがあって、実践し続ける努力をしてきた人たちは、強い。私は彼らの考えが間違ってると思うけど、私が正しいと思う人たちの団体で、そこまでの努力ができた人がいないから、今の日本の政治は現状のようになっているんだ、ということがよくわかりました。


ただ、自由を重んじる考えの人たちは、人を縛ることをよしとしないから、どうしても離散方向に向かいがちという気がします。私が支持したいのは、いろんな人たちがめいめい好きなように生きられる社会なんだけど、カタマリのようになって何十年もしぶとく活動することが、私たちはとても苦手なんだ。だから、信じる力が強い人たちと真っ向から戦って勝つのが難しい。


この本に書かれていることが、この先どうなっていくのか、とても気になります。調べてくれてありがとう、よくわかった、ではどうする?を考えて行動することが、読者に必要だと思うけど、まだまだ私にはわかりません。


August 09, 2016

村上春樹「TVピープル」355冊目

昔読んだ覚えがある。
読み返してみて、息詰まるような感じがした。
1980年代の村上春樹は、いまの作品から振り返ってみると、閉じ込められて出られない、だんだん狭苦しくなっていく、出口がない、という印象が強くて、精神的に追い詰められた子どもの絵を見てるみたいだ。


かわいそうに。
なんて言葉が出てきてしまう。


そして、自分が眠れないとき、なんとなく神経がたかぶってリラックスできないときに読むと、不安がすこし高まってしまうような気がする。かといって元気いっぱいのときに読みたい本ではないし。村上春樹がバカ売れする世界って、そういう不安や閉塞感を共有してるってことなのかな。


August 04, 2016

佐々木健一「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」354冊目

すごく面白かった。
三省堂の「三省堂国語辞典」と「新明解国語辞典」の編纂をそれぞれ主導した、ケンボー先生と山田先生の、辞書に関わるあらゆるエピソードをかき集めて、辞書を版ごとに精読し、浮かんできたヒントを丁寧につなぎ合わせて、ひとつの大きな物語を突き止めた、という感じ。
その努力と結果のほとんどは、著者が職業として作っているテレビのドキュメンタリー番組として結実し、それに後日談や出し切れなかったことを加えて書籍化したのが、この本です。


 さすがディレクター。映画でいえば監督です。
絶妙な構成で、読者を筆者に共感させ、魔法のように感動させていく。さすがです。今村昌平的な人の悪さをチラリと感じさせるくらい、感動させるのがうまい。この人のつくる番組も、きっと面白いんだろうなぁ。
この膨大な調査を一人でやるのはほぼ無理だと思うので、番組制作のおかげでこの本も生まれたんだと思いますが、これだけの筆力があれば小説なんかも書けるのでは?という気もします。
もしまた本を書いたら読んでみます。