米原万里「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」347冊目
まさかのノンフィクション。
まず、ノンフィクションにこのタイトルをつける感覚がすごい。
かつて、当代一のエッセイストと呼ばれた故・米原万里の本をちゃんと読むのは初めてです。
まず何が面白いかというと、人物描写が率直でおかしい。
”あけすけ”過ぎて、そこまで言うのはあんまりだ、と思いそうになる直前のところで、明るさと人間愛のようなものに引き戻される感じ。
第二に、このシチュエーションは普通ない。父親が日本共産党の幹部ということも稀だけど、その父がチェコにある共産党の出版物の編集部に出向することも普通なく、その子供としてそこに住んで、ルーマニアやユーゴスラビアの同様の子供たちといっしょになって遊ぶという機会を得る確率は、かなり天文学的に小さいはず。
そういうある意味平和な時代など、共産党というものが起こってから今に至るまで、連続10年間もなかったんじゃないか、と思えるくらい、時間軸的にも貴重。
第三に、著者が30年後に当時の友人たちを各国に訪ねるという行動は、時間もお金も行動力も情熱も、非凡でなければできないことだからすごい。
この本全体に流れているのは、青年のように清潔な理想主義なんだ。共産主義というものが、不平等を解決できると真剣に信じた人たちがいて、それが時間を経てあとかたもなく散り散りになってしまったことが、彼女にはすごく切なかったのかもしれない、私たちは面白く読んでるけど。
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