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March 2016

March 27, 2016

大江健三郎「日常生活の冒険」338冊目

大江健三郎、はじめて読んだ。なんか恥ずかしい。何十年も前にノーベル文学賞をとってるのに、私はそこそこ本を読むほうなのに、今まで読まなかったとは。


でこの本ですが、読みやすいのになかなか読み進めず、延長に延長を重ねて5週間もかけて読んでしまいました。面白いのにちっとも好きになれない。登場人物の誰にも共感や愛着を感じられないままでした。「なんでこうなんだろう」「どうしてそう思っちゃうんだろう」という調子。


みんな、なにかを欲していて、その感覚を共有する仲間は見つけられるのに、誰も彼らが欲しているものをそれを与えることはできない。与えられたような気分になれる人もいない。みんな、いくら食べても満腹にならないみたいだ。
誰も自分がなにを欲しているかなんてわからないし、それを与えられることもない、というのは理論的には正しいけど、なにか生物としては不自然だ、天から降ってくるものに満足しようとせずに理屈ばかり言い続けるのは。
とまだ私はこのていどの理解で、大江健三郎の理解レベル0.1%くらいでしょうか・・・。


March 11, 2016

三島由紀夫「獣の戯れ」337冊目

シリアス純文学の小品。
夫婦+若い青年の3角関係の物語ですが、純文学だと登場人物はもったいぶったインテリが無垢な若い誰かをもてあそぶ、こういう作品が多いんじゃないか・・・。
ちょっと不思議な耽美にはしっているようで、あまり入り込めなかったです。


March 08, 2016

ガブリエル・ガルシア=マルケス「誘拐」336冊目

面白かった!
手に汗握った!
これ実話なんですよ。コロンビアの大規模コカイン密輸業者のドンが、ジャーナリストを多数誘拐して、自分が逮捕されても家族や自分の安全を保証させるための司法取引を政府にもちかけます。実際に誘拐された人たちや家族、関係者へのインタビューを通して描く誘拐状況や監禁生活のようすが生々しい。長期の交流生活のなかで看守と被害者のあいだに不思議な友好関係が生まれていったり、司法取引という明文法的世界より"大岡裁き"に近い解決方法のために敵も味方もやっきになったりと、やけに犯罪が身近に感じられる不思議さがあります。


南米の熱い人間性と、この作家=ジャーナリストの緻密さが噛み合うと、ゾクゾクするような生が描かれます。すごく惹かれます、この世界。


ガブリエル・ガルシア=マルケス

March 04, 2016

カレル・チャペック「絶対製造工場」335冊目

「ロボット(本のタイトルは「RUR」)」や「ダーシェンカ」、「山椒魚戦争」といった日本でも人気の作品を多数残したチェコの作家、カレル・チャペックの未読の小説をタイトル借りしました。


作家のフルネームを冠した吉祥寺の可愛い紅茶ショップやそのグッズが有名ですが、私とカレル・チャペックの出会いは、昔生物部のときに飼っていたサンショウウオ・・・という話は長くなるのでやめておきます。


この小説は、エンジンのようなものを開発していた時に、物質のエネルギーを極端に効率的に取り出せる装置を発明してしまった、というところから始まります。効率的すぎて、灰も残さずすべてをエネルギー化。物質の芯にある「絶対」、つまり汎神論でいうところの“神”ともいえる部分まで取り出してしまうので、この装置のある家の人はみんな陶酔状態。しかしそこからトラブルが起こり・・・。


“絶対”っていう言葉にはロマンがありますよね。絶対、絶対なんてないから。
こういう、歴史に残るほどの新語、今までに存在しなかった概念を創造する才能が天才的。
ただ、この小説はちょっと読みづらかったです。通りすがりの配達人が電報を届けるだけのくだりとか、議会の白熱した空疎な議論にまるまる1章使っていたりして、ストーリー構成上どうしても必要ではない描写が多い。楽しめるっちゃ楽しめるのですが、年を取ってくるとつい先を急ぎたくなってしまうのかもしれません。「山椒魚戦争」や「RUR」もそうだったかも。


チェコってどんな国なんだろう。不思議と自由なイマジネーションと、どこか堅いイメージがアンバランスで、興味が出てきました・・・。