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December 2015

December 19, 2015

デービッド・アトキンソン「イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」」327冊目

1冊目の続編ではなくて、焼き直しみたいな本だ。
同じことが繰り返し語られてて、ちょっと飽きる。


繰り返し語られることを聞いているうち、日本人の働き方について、この人には心情的に理解できないことがあるんだな、ということがわかってきました。


勤勉で優秀な労働者と、ろくに働かない経営者・・・というのはその通りだけけど、私たちの多くは”いい仕事をすること”が何よりの喜びで、レジャーで海外旅行に行っても、ビーチで1週間のんびりというのが苦手で、細かい予定をたてて忙しく出歩いてしまう。人がほめる史跡やレストランに行って、「本当に素敵ね」と確認することで喜びかつ安心する。いつか偉くなってのんびりしようと思うくせに、本当にそうなってしまうとなんだか寂しくなる。そういう性格なんだから、合理的な無駄のない手法、つまり、楽して儲けるということに共感できない。


デービッドさんは、もっと楽して儲けろと言ってるんだけど、はなからそんなつもりはないわけなので、みんなで集まってわさわさと仲良く仕事をしていたいし、お前だけ楽して儲けやがってと言われるくらいなら、安心を選ぶ。なんとなく、ゴールがちょっと違う気がする。楽して儲ける方法を教えてもらって、初めて、いままで苦労しすぎてたなと気づくけど、ちょっと悪いことをしてる気もしてるんじゃないかな、部下の人たちは。


仕事のしかたや生き方は変わらないと思うけど、そうやってえんえんと暮らしている間は、本当に成果をあげることが必要な場面で結果を出す方法が身につかないのは確かだ。文化財をちゃんと守る方法を、デービッドさんに教わらずに確立することはできなかった。(そうなったら、まったく残念だとか、政府は何やってるんだとか文句はいうけど、反省もしないし、どこかそれをすでに受け入れてる)地震や台風の来る国で、木と紙でできた家で暮らしてるからには、はなからそういう覚悟で生きてる。それが外国から見るとじれったくてたまらないのかもしれない。


 


本全体として見ると、あまりまとまりがなく、前作より言葉がきつく?なった感じの本でした。
銀行の偉い人とかじゃなくて、もっとまともな議論のできる日本人と親しくなって、もう一段上の鋭い批評をしてくれるのを待ってます!


December 17, 2015

デービッド・アトキンソン「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る ~雇用400万人、GDP8パーセント成長へ の提言~」326冊目

これは経済の本?日本人論?どっちでもあり、どっちにも寄らないような本です。
著者は、イギリス出身でオックスフォード大学で日本学を学んだあと、数社を経てゴールドマン・サックス証券在籍時に日本に長く滞在し、今は日本の文化財を修復する会社の経営者として京都の町屋で暮らしている人。


ゴールドマン時代から統計に基づいた正確な予測で、精神論を振りかざす日本の経営者たちに煙たがられていた(笑)のが、茶道をきっかけに日本の本来の良さに気付き、以来、本当に良質で、大きな収入を生む観光施設の整備を推奨し続けているそうです。


かなり耳が痛いなぁというか、別に自分の耳が痛いわけじゃなくて痛んでほしいおじさんが500万人はいるよなぁと感じました。自分のことを棚に上げるつもりはないけど、外資に20年以上勤めたあとに日本の会社に転職して、おじさんたちの感情というのがどれほど重要視される組織か思い知って、すごく不思議だしなんとなく気分が悪いなとずいぶん思ったので、この人に共感できる部分はかなりあります。


日本中を観光で回っている身としても、観光地によって外国人はおろか日本人にも不親切でわかりにくい施設が多いと感じてるし、表記なんかが日本中バラバラ、交通手段のルールもバラバラで、過ごしづらいのはわかる。イギリスはもっと文化財の保護にお金をかけていると聞いて、かけていいんだ!だったらもっとかけなきゃ!とも強く感じました。


ただ、日本の観光地の施設、たとえば高級ホテルにおもてなしの心がないというのは、とてもつまらないし的外れなコメントだなと思う。この人が行って幻滅したような超高級ホテルや高級ホテルじゃなくて、安くて親切で融通がきく民宿やら安宿が日本中にゴマンとあるよ。高いところはお高く止まってるもんだ、という意識から、高級なところでは店員が気取ってみせるという不思議な勘違いが蔓延してるのかもね。
でも、観光地以外のところで日本の人たちの良さにも気付いてくれて、よかった。


観光立国というと、猫も杓子もやってきて荒らして帰るみたいなイメージがあったけど、ちゃんとお金をかけて最高の状態を作り出して、要はお金持ちが来てお金を落としたくなるような観光地にすればいい・・・というのはそうなのかもしれない。でも、観光地でそれほどお金を落としたことはないので、彼の言うことが自分でイメージできているかどうかは疑問です。そのため、この部分は共感できてません。


続編を読めば、もう少しわかるかな・・・。



December 13, 2015

小野正嗣「水死人の帰還」325冊目

この作家の一番初期の、学生時代のちょっととんがった短編などが収められています。
これは面白い。
どろっとしたイメージが渦のように回りながら混じり合っていく、というのがビジュアル的な印象。
押し込めていたエネルギーが、どっと放出されるています。

なんとなく、この人の描く「暗黒」の描写があまりぴんとこないんだ。
擬態語として「どろどろ」とか「ぐちゃぐちゃ」のような一般的なものがよく使われていて、いまひとつ感覚的というか音楽的・美術的じゃない。私は自分の母が、田舎のおばちゃんが笑う様子を「ヒーダラ、ヒーダラ」って言ってたのを感動をもって記憶していて、プロの人にはそれを超える表現をしてほしいと思っています。

平らだったところが「ぐちゃぐちゃ」になるというのは、どこがどうなっているということなんだろう。描くならもう少し詳しく書いてほしい。説明じゃなくて、感覚をそのまま伝えてほしい。

物足りないのは擬態語だけなのかな、どうなんだろう。いずれにしても、この作家は一番得意な部分(ワクワクさせるストーリーテリング?)をあえて避けたような文章が多い気がするので、どかーんとハッピーな大作を書いてほしいです。

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December 09, 2015

小野正嗣「森のはずれで」324本目

エキゾチックで、妖精がいそうな森での不思議な気持ちを描いてるんだと思うけど、実際以上に薄暗く描いている気がしてあんまりぐっとこなかったです。


December 07, 2015

小野正嗣「浦からマグノリアの庭へ」323冊目

これはすごく良かった。
子どものような素直な気持ちで、この人が素晴らしい本や素敵な人たちに触れてさまざまなことを感じるのが、熱く伝わってきました。


どうしてこういう小説を書かないのかな?小説はどれも、うすら不幸な感じで、暗くはないけどちっとも明るくないのに。このエッセイは、熱く語られた本を何冊も図書館で予約してしまったし、マグノリアの庭に自分も招かれたみたいにうっとりとしてしまった。


ぜひぜひ!これを小説でもやってください。まじで。


December 05, 2015

小野正嗣「獅子渡り鼻」322冊目

せつなく深い小説だったけど、行き着くところがなかった。
漂ったまま終わった。
あまり手の入ってない昔ながらの漁港があって、昔から住んでる人たちには彼らなりの思いがそれぞれあるし、都会へ出て行った人たちにも、都会から戻ってきた人たちにも。
何も深く考えないで楽しく暮らしてる人って、いるのかな。そういう人がいじめっ子になるんだろうか。
ちょっと羨ましい気もする。


 


December 04, 2015

小野正嗣「九年前の祈り」321冊目

ふーむ、こういうのを書く人なのか。
時間が行ったり来たりするし、ビジュアルがないとすぐには想像できないおばちゃんたちのバリエーション、主人公の個性の薄さ、などなど、簡単に入っていける仕組みになっていない小説です。そこの部分に手を加えて読みやすくしようとしない人なんだな。


でも、描写が深掘りしていくにつれて、ぐっとその彼ら彼女らの中身に入り込んでいって、さまざまな心の痛みを共感している。本当にね、ちっちゃくて優しいおばあちゃんに、愛欲の過去があったりするんだと思うよ、実際。こういう風に、一見地味な人たちを深くえぐるのが、九州の作家の特徴か?村田喜代子とか。。南国なのに割合くどい。(褒め言葉です)


しかし難解ではあった。私がバカだからかもしれないけど、おばちゃんたちおじちゃんたちの区別をつけながら読むのが難しい。映画でも見てみたいです。いちどでもビジュアルで見られると、その後の小説も読みやすくなるんだがな・・・。