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November 2015

November 29, 2015

岸恵子「わりなき恋」320冊目

女優の岸恵子が書いた、70歳の女性の60歳の既婚男性との恋。
実話に基づくという噂も気になるし、女性のほうが10歳年上というのもかなりレアだし、70歳の女性の恋愛、とくに性愛は聞いたことがないので、科学的?興味も募ります。

恋の始まりって、細かく書かれると、妙に納得してしまう。
相手が既婚に違いないと思って構えたり、自分の年齢を考えて引いたり、ということを、読者は自分奈良すると思いながら読むだろうけど、これは小説なので(そして書いてるのが今も美しい大女優だし)、特別にこういうハプニングもあるのかもしれない、などと心の門戸を広めにして読み進んでいきます。

著者がテレビのドキュメンタリーで、こんな年齢の人の恋愛なんて読んだことないでしょ、だから書いたんです、というようなことを言ってたけど、そうなんだろうなと思う。女優は自分をさらけ出す勇気がある。渡辺淳一の小説って好きではないけど、医師として中高年の恋愛を促したくて書いている気持ちもあったんだろうなと思う。それとこの小説の意図は似てる。

将来その年齢になったときの自分に向けた恋愛マニュアルとして読むと、女は(人によっては)70になっても恋ができるけど、男はいくつになっても現実と憧れを分けて考えて、現実の女も憧れの女も傷つけて結局孤独になるもんだ、となる。女性が書く悲恋はたいがい男が不幸になる、というのはいつものこととはいえ。

逆にいうと、主人公があまりにもナイーブで・・・まるで小娘みたいにやすやすと年下のプレイボーイに抱きとめられて恋に落ちてしまう。自由な世界でずっと仕事をしてきたから、世間のルールなんて関係ないわ、、でも家庭には敵わない。そういう恋愛の成り行きは、10代だろうが70代だろうが同じなんだと改めて思いました。家庭を守りながら恋愛するなら、たぶん既婚者どうしでないと続かないんじゃないでしょうか・・・・(既婚者どうしでも、まったく同じ条件どうしってことはないだろうけど)

なんというか、ためになりました。

November 28, 2015

ジョージ・オーウェル「1984年」319冊目

これがあのディストピアの伝説の小説か〜。
すごく面白くて、そしてなんともいえない終末観。
小説の半分くらい、体制に取り込まれるための自己改造に割かれてるのが衝撃でした。読んでいて、書いてる人が反体制なのか体制派なのかわからなくなってくる。
世界観に隙がないからか、本にずぶずぶと入り込んでしまって、自分が主人公ウィンストンになったように追い詰められて、しまいにビッグ・ブラザーを崇拝しなければいけないような気持ちになってくる。
といっても、思い浮かべるウィンストンは「未来世紀ブラジル」のサムの姿をしてる。

ディストピア・・・本当に夢を打ち砕く未来だ。

November 21, 2015

三島由紀夫「音楽」318冊目

三島由紀夫が大衆雑誌に書いたこういう小説って、ほんと面白い。
人間の心より奥の体の芯みたいなところに眠ってる、性というものを深く掘り出してきます。
いつものように、若干上から目線。読者が非インテリであることを前提として、読後感は軽く抑えてあります。しかしそれが読んでて心地よい。私はMか?いや、作者がくやしいくらい頭が良くて、人間を転がすことに慣れすぎてる。
こんな調子で、百発百中のヒットを飛ばし続けてたんだろうな。
その一方で、読者も雑誌も小説そのものも、どこか馬鹿にしてる。何もかもが自分の思い通り(ノーベル文学賞以外は)・・・という中で、何が彼を最後の瞬間へ駆り立てたのか。・・・やっぱり随筆とかも読んでみようかな。

November 20, 2015

三島由紀夫「三島由紀夫レター教室」317冊目

なんて面白い本なの!
三島由紀夫という人を誤解してました。
彼は頭でっかちの天才マッチョなんじゃなくて、人間の裏も表もすべてわかり尽くして、贅沢も思いのままもやりつくした人だったんだ。。。
彼が読者にお手紙指南をするという体裁で、架空の5人の人物のあいだの手紙のやりとりを提示して、よいところ悪いところを指摘しつつ、物語としても成立しています。これを女性雑誌に連載したそうで、若干読者はどうせ女だとかどうせ学がないと見切って上から目線で書いているからこそ、彼の考えがよく出ていて実に実に面白みが深い。

やっぱり昔の巨匠って天才だなぁ。

November 19, 2015

「手塚治虫クロニクル 1946~1967」316冊目

どうしても「ロスト・ワールド」「メトロポリス」「来るべき世界」が読みたくて、図書館で借りました。
しかし、1冊にずいぶんいろいろ入ってると思ったら、どの作品もごく一部しか載せてません。プレビュー版です。トライアル版です。あ〜あ。

といっても、あまりのすばらしさ・・・面白くてワクワクして美しい、という感動でいっぱいです。
しかも、こういった未読の傑作だけじゃなくて、「リボンの騎士」や「鉄腕アトム」といったよーく知ってる作品も、うわぁっと思うくらい美しくて感動的。形容詞が見つかりません。初めて見るものに出会った驚きと喜びです。この次はフルバージョンを読み直してみたいと思います。

想田和弘「日本人は民主主義を捨てたがっているのか?」315冊目

著者はドキュメンタリーを撮っている映画監督で、彼の「精神」という映画を見たことがあります。
マイケル・ムーアの映画とか見てると、ドキュメンタリーって結局フィクションだな、気を抜いて見ていると監督の考えが刷り込まれるようになっている・・・と思うのですが、その映画は撮影対象に極力手を加えず、主義主張やテーマを加えず、あくまでも視聴者に考えさせる作りになっていました。

その監督の著書が、書店の民主主義フェアに選出されたあとで外されたと聞いて、読んでみました。
書かれていることは至極まっとうで、第二次大戦後に制定された現在の憲法に込められた平和と平等志向を守り抜かなければいけない!ということが熱く、感情を込めて語られています。

なぜこの本が外されたのか?
もし、フェアの趣旨が、「民主主義って何ですか?」がわからない人のためのやさしい本を紹介することなら、それとは趣旨が違うかもしれない。一般論ではなく、いまの日本とくに橋下さんと安倍さんと彼らの政党を糾弾する内容だからかもしれない。不偏不党ではなく持論を展開している。・・・でもフェアってひとつの書店が、自分がいいと思う本を売る場所だから、外すのも勝手。外されたからこそ興味をもって読めたので、私のほうはそれでよかったです。

ただ、私は、民主主義というのが自分たちで考えて責任をもって代表を選ぶことだということは、いままで日本人がちゃんと理解していたことなんてなかったんじゃないかなという気がしています。捨てるというより、いまだかつて手に入れたことがなかった。なぜならそういう社会の仕組みは上から与えられて受け取るものじゃなくて、自分たちで獲得しなければ手に入らないから。

何人も大切なスタッフを殺害されても、なお特定の宗教の風刺をやめないどころか、ますます過激に続ける
シャルリー・エブドを見て、フランス革命をなしとげた国ってすごいなぁ、と思います。日本の感覚で見るとやりすぎ、悪趣味とも思える風刺画を、出し続けることが自分たちの大事な役割だと信じてる。日本の会社だったら、彼らの発行物に載っているイラストなんてひとつも載せられないんじゃないかな。
そういう戦いを日本はやったことがない。ユダヤ人やシリア人が逃れてきて作り上げたアメリカが作ってくれた憲法を、ありがたみもわからずに受け取っただけだった。あんな戦争を経験してもまだ本当にはわかっていなかったということが、今頃やっとわかったんじゃないか。。。。

日本はもう一度、徹底的に壊滅させられてしまうのかな。もうしそうなったところで、その後に民主主義を立ち上げられるかどうかは相当怪しいと思う。・・・

November 14, 2015

三島由紀夫「命売ります」314冊目

紀伊國屋書店新宿本店に立ち寄ったら、なんかすごく一押ししてたので読んでみました。
確かに面白かった。いまどきのエンタメ小説(伊坂幸太郎ものとか、「悪夢のエレベーター」とか)のような軽快なトーン、先が読めない展開とどこか厭世的な主人公で、1968年、50年近く前に書かれた名作って感じがありません。その辺が帯に「隠れた改作小説発見!」と書かせて、紀伊國屋に一押しさせるゆえんでしょう。読ませる文章力がやけに力強いのと、主人公が自信家でマッチョなのが、よくよく見ると三島由紀夫的なのかもしれなません。

それにしても、三島といえば「金閣寺」とか「仮面の告白」くらいしか読んだことがなくて、むしろ市ヶ谷事件の人というイメージが圧倒的だったので、過激な天才だと思っていたので、こんな大衆エンタメ小説をプレイボーイに連載していたという事実がすごく新鮮なのでした。

とても面白かったので、改めて他の作品も読んでみたくなりました。本の帯には「読み終わったら次は『三島由紀夫レター教室』」とおせっかいな推薦文があるので、おせっかいだけど読んでみるかな・・・。

November 12, 2015

ジョージ・オーウェル「パリ・ロンドン放浪記」313冊目

ブレードランナー等の映画のベースとなったと言われている「1984年」などを書いた作家のジョージ・オーウェルは、実は若い頃パリとロンドンで困窮の限りを尽くした底辺生活をしていました。そのときの生活を詳細につづったドキュメンタリー作品です。

とにかく面白い。今はどうなっているのかわかりませんが、1927年、日本は昭和になったばかりのこの時代のパリとロンドンには、ホームレスの若い人があふれていて、政府の対策は後手後手です。これって戦争と戦争の谷間だからかな。レストランの厨房は狭くてきわめて不潔。今はもっと清潔担っていると思いますが、それにしてもすごい。

バックパッカーの宿みたいなのじゃなくて、救貧院とか救世軍とか。「放浪記」ではあるけど旅行記ではなく、できるだけ長く一つのところに滞在してちゃんと仕事に就こうとしています。レストランのヒエラルキーのかなり下のほうにある皿洗いの仕事につくのも相当な苦労です。着るものも次々に質入れして、シケモクを拾い、お金を拾い、単発の仕事につき、17時間労働に耐えて・・・

でも悲惨さを感じさせない、巧みで生き生きとした語り口。この人が語れば、どんな事実も面白くなるんじゃない?登場する人たちは教養がない人が多いけど、個性的で根拠のない自信にあふれていて、こちらまでなんだか明るい気持ちになります。

同じような状況でも、ロンドンのほうがパリより若干清潔だったみたいですが、日本はそれよりもっと清潔・・・と思いたいなぁ。

November 05, 2015

本谷有希子「幸せ最高ありがとうマジで!」312冊目

面白かった。
戯曲は読み慣れないので最初読みづらいかなと思ったけど、サラサラ読み進めました。
舞台化された後の書籍化で、キャストやスタッフのリストも巻末についているし、舞台写真までそこここに挟み込まれているので、イメージしやすいのです。

いろんなことを差し引いたり付け足したりしても、この本は面白かった。彼女の作品にはハイパーなビッチとメンヘル女子が必ず出てきます。この戯曲にも出てきますが、その境目がはっきりせず、役割が入れ替わったりもします。そこがなかなかスリリング。安易に人が死なないところも、なんとなく成熟した感があります。かといって「自分を好きになる方法」は枯れすぎて物足りない。この作品あたりがいまのところ、私としてはトップかも。。