カズオ・イシグロ「遠い山なみの光」347冊目
すばらしい小説だった。
たぶん原文も良いんだけど、翻訳がとても自然で(少し古めかしい日本語。それこそ小津安二郎の映画みたいな)、なんの違和感もなく読めた。
池澤夏樹の解説もすばらしい。作品も深いけど解説はさらに深い。
池澤は、イシグロの作品は普遍的な「人と人との思いのずれ」を普遍的な主題としている、といいます。名画の監督のように、自分の姿を完全に見えなくしている、とも。
戦後とか娘の破滅とか、いろいろな事象がからむのですが、そういうものを積み重ねて読む人を興奮させるのがこの作家のゴールではないのです。最後の最後まで、主人公は長崎でしばらくお隣さんとして過ごした女のことを、共感するでもなく、明確に反発するでもなく、当時こんなことがあったという第三者のような視点で思い出しています。凡人の私は、もやもやした気持ちで読み終えるしかないのですが、池澤夏樹の解説ですべてのピースが一つにまとまって全体像が見えてきました。
作家が作り上げようとした世界の普遍性もすごいけど、それを読み解いてきわめて簡潔に言い表す解説者はもっとすごい。
図書館で借りた文庫本で、ここまではっとすることができるなんて。
やっぱり、日本人or日系人でいまノーベル文学賞をとるとしたら、村上春樹よりカズオイシグロなんじゃないか〜〜?なんて思ったりしました。
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