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August 2014

August 30, 2014

塚本邦雄「十二神将変」316冊目

友達に勧められて読んだ。
不思議な感触だな。
耽美的、退廃的なようで、どこか健全で図太く生命力がまっすぐとしている。
言葉は美しくなくもないんだけど、声に出して読んだときの音がきれいでない。口ずさんで鈴のようにコロコロと流れる文章ではない。
クラシック音楽は聴くのかもしれないけど、日本語を楽曲に載せるイメージを持たない人だったのかな、と思う。印象だけでいうと、左脳的。今生まれてもシンガーソングライターにはならなかっただろう、と思う。

美しいものを描くときに、言葉遊びを使ったり、いちいちブランドを引く(舶来のものだとか、何にしても)あたりも、文学部的、左脳的なんだ。右脳系、芸術系じゃない。だいいちタイトルの語感が悪い。
そういう意味では、宮沢賢治のほうがずっと感覚的で耽美的、と思う。

予想よりずっとかちっとした小説でした。なかなか珍しい、面白いものを読みました。紹介してくれてありがとう!

August 27, 2014

ボリス・ヴィアン「墓に唾をかけろ」315冊目

思ったより後味の悪い作品でした。
仕返しのしかたが残虐。
一見白人に見えるほど白人の血が濃い(8分の7)人のアイデンティティが、わずか8分の1だけを占める黒人であるということが不思議に思える。

リズミカルに手当たり次第に白人の女を抱くこんな生活がジャズなのかな?
意外とわからない、それほど単純には楽しめない作品でした。

もう少し考えてみよう。

August 20, 2014

エルヴェ・ギベール「ぼくの命を救ってくれなかった友へ」314冊目

先日「楽園」という本を読んだ、その同じ作家の作品。

HIV感染が発覚する少し前から、エイズ発症、徐々に数値が悪化していく中で書かれた自伝的手記。フィクション化されているのは人名だけと言ってもよさそうです。

当時20カ国語以上に翻訳されたけれど、今は渋谷区立図書館の「保存書庫」で、久々にこれを読みたいという私のような人間を何年もじっと待っていたのだと思われます。
こっちの方が当時は売れただろうに、開架の書架に置かれているのは「楽園」のほうだけ。明らかにあっちの方が普遍的名作という印象が、正直いってあります。

この本を読み終えて改めて、このあとにあの美しい小説を書くに至ったこの作家の、魂の昇華のようなことを想像して、崇高なものに触れたような気持ちです。

エデンの園のようなところで奔放に仲間たちと愛し合う美青年が、突然追放の通告を受ける。残された時間をどう生きるか。
エルヴェ・ギベールの生はなんだか夢のように美しかった、ように思えます。
こんな風に生きてこんな風に死んだ人に出会えてよかったです。

August 17, 2014

アメリー・ノートン「愛執」313冊目

この人の本はだいぶ前に「殺人者の健康法」「午後四時の男」「畏れおののいて」と読んで、私自身も畏れおののいたものですが、久々に読書を再開するにあたって、この人のその後の作品を読まねば!と探してみたらやっぱりありました。そしてやっぱり美醜がせめぎあう、迫力たっぷりの怪作でした。
こんなに可愛いベルギー人の女の子が…。…なんていうコメントはまさに俗物的で低俗の極致なのでしょうが。

たいがいの人が、自分は「とても美しいわけではない」と思い、見た目のコンプレックスを抱えている人も多いと思いますが、「世界の誰よりも醜い」というのは「世界一美しい」と同じくらい遠い存在でしょう。この小説家は、極限状態を好むのです。彼女が取り憑かれているのは多分、世界一醜かったりする事実ではなくて、世界一醜いことに苛まれている精神的状況で、つまりこの人はけっこう病んでいると思うけど、それが彼女の才能でもあるのです。
そして胸くそ悪くなるような彼女の作品は、今回も妙なカタルシスをもたらすのも事実です。
読者は自分の中の信じられないほどの醜さと向き合い、醜い欲望が成就することで絶望のような安堵のようなため息をつくのでしょうか。

August 11, 2014

ウィリアムズ・バロウズ「ゴースト」312冊目

なんだろう、ひとつも面白いと思えなかった。
ストーリー展開があまりなく、一貫して「ミッション」氏の心の中の物語が進行します。露悪的?な脚注が延々と続きます。ブレードランナーは原作も映画みたいに賑やかでストーリー進行がしっかりしたものだったんだろうか。
うーむ。すみません。

ガブリエル・ガルシア=マルケス「愛その他の悪霊について」311冊目

これも、うるさいというか、忙しく人が行き交い大騒ぎする小説でしたが、やはりテーマはどこまでも深い。
純真無垢な少女の気まぐれな意地悪や霊感の強さ。それが「悪霊の仕業」なのか否か?
悪霊を祓うよう命じられてやってきた30代の司書が、彼女の奔放な美しさに魅せられてしまったのは、「愛」という「悪霊」のせいなのか?
よくわからない悪霊とやらに取り憑かれたと決めつけて少女を捨てた、父とその愛人のやっていることは何なんだ?
ガルシア=マルケスは善悪を決めつけることはしない。むしろ、善のためであれ、悪のためであれ、愛のためであれ、神のためであれ、頭の中のなにかの狂騒に追い立てられて人を追い詰めようとする人間の性を憂慮する。

若い頃よく思ったんだ。あの人が好き、会いたい、というのは「愛」なのか、それとも「欲」なのか?って。
人を抱きしめる気持ちが愛だとすると、ストーカーになる気持ちも愛の一種だろうし。
そう考えると「何事も中庸がよろしい」という結論に達してしまいそうだけど、そう単純でもなかろう。
人は何かを単純に信じたり頼ったりすることで、心の平穏を得たい生き物だと思うけど、人の利害はいろいろなものが拮抗しているし、思い通りにならない外部要因も多いから、妄信するに足る世の中の法則など存在しない。宗教にどっぷり浸れる人たちは幸せなんじゃないか。
…そういう、生き物であることの深い苦悩をじっと見つめて、目をそらさない勇気がこの作家にはあるのだと思います。

映画にしてしまったら、すごく薄っぺらくなってしまいそうだ、という気がするけどなぜだろう。
描こうとしていることが、出来事ではなく、登場人物の心の中の動きだからかな。
(心の中の言葉なんてほとんど書いてないのに、なんでそう思うんだろう?)

さらさらと面白く読めるのに、心の中に楔のように深く食い込んでずっと残る、なにか大きなものにまた触れた気がします。

August 04, 2014

ピート・タウンゼンド「四重人格」310冊目

The Who昔から好きなんで読んでみた。
ギタリストというかバンドの屋台骨であるピート・タウンゼンドの散文集。書かれたのは、The Who甲斐さん語の1985年。解散してからそんなにたつんだな。

ごつごつして読みにくいと最初は思ったけど、何の枠にもとらわれないイマジネーションがとてもユニークで、才能の豊かさを改めて感じました。

詩と呼べそうな想像の広がり。その中にぽつぽつと浮かんでは消えるのが、馬のイメージと母のイメージ。「自分」は思春期の、劣等感の強い若者。(Whoの歌って元々そうだよね。にきび薬のCMの写真とかジャケットに使ってたもんな)性的なイメージと、憧れを打ち砕かれるイメージ。
その後30年間、彼はどんなイマジネーションを展開してきたのかな。

原題「Horse's neck」を「四重人格」にしちゃうのはかなり無理があるけど、それで本を手に取ったのも事実。この本も、書店の店頭には今はもうないと思うので、図書館があってよかったです。

August 02, 2014

テリー・ケイ「白い犬とワルツを」309冊目

やさしい小説でした。しかも、ほぼ実話らしい。
かんたんに言うと、アメリカ南部で頑固に家族を守って生きてきた老人が、愛妻に先立たれてから自分が亡くなるまで、徐々に弱っていく彼をどこからともなく現れた不思議な白い犬が支える、という小説。

アメリカ文化講義の副読本として読めば、古きよき南部の、息子に牧師が二人もいるという敬虔なクリスチャンの家庭で、「母のようにして育てられた」ニーリーという黒人女性の使用人との関係が、本当に親しい親戚のようなのが興味深いです。口うるさくて、誰も彼女に逆らえません。

「結婚してほしい。…子どもは何人欲しい?僕はたくさん欲しい。にぎやかな家庭を作りたいんだ」
「ええ。結婚しましょう」(正確な文章はうろ覚え)
これがいいな。そうやって二人は結婚してたくさん子どもを生み育て、老人になって妻に先立たれたときに、毎日何人も子ども達が押し掛けるという、にぎやかで愛にあふれた家庭をつくったのだ。
ひとつの幸せの典型だなぁ。

決して前面には出てこないけれど、とても宗教的な小説でもあります。白い犬も神様がもたらした奇跡のよう。きれいに正しく、人に親切に、家族を愛し、という人として至極真っ当なこの人々の生き方は、実際すばらしいです。

この作家はその後数冊、宗教的な美しいストーリーを書いたあと、“魂の救済”をテーマとした犯罪者の小説も書いたりしているらしいです。