平野啓一郎「空白を満たしなさい」295冊目
「SWITCHインタビュー」に出演したときに、平野啓一郎が野口健と、「死とは?」という対話のなかで触れたのがこの本。
人は、場や相手によって違う自分を無意識に使い分けている。それを「分人」と呼ぶ。ゴッホを殺したゴッホと、ゴッホに殺されたゴッホは、多数の自画像の中の、どれとどれなのか?という会話はとても刺激的でした。
でも、「ドーン」に続いてこの本も、小説のかたちをとった論文って印象でした。メフィスト的な、虚無キャラが独白を延々と続けるのが、熱いんだけど、できればこっちで想像させてほしいなぁと思います。
山口雅也「生ける屍の死」ってのも、死んだ人が生き返る世界っていう設定の小説でした。あれは1回しか使えない、そういう世界観でだけ成り立つミステリーで、こっちもミステリーと言えば言えなくもないと思うけど、謎は「死」と「生」という遠大なテーマなので、解決のカタルシスはありません。
メフィスト佐伯そのものが、主人公の分人だ、っていう読み方もできるんだろうけど、思うに、分人を区別してたくさん使いこなせる人ほどフィクションを書く力も高いのかもしれない。平野啓一郎がこの小説の中に作り出した分人たちは、作家の特徴がすごく強く出ていて、芸術家の森村泰昌みたいに、作家が紛争して各キャラを演じてるみたいな濃さがあります。好みだと思うけど、私はもっと作家色が薄いほうが好きかな…。