« August 2013 | Main | October 2013 »

September 2013

September 20, 2013

乾くるみ「イニシエーション・ラブ」293冊目

人が死んだリ恐ろしいことが起こったりするわけじゃなくて、普通のラブストーリーなんだけど、ジャンルとしてはミステリーと言うほかありません。

<以下ネタバレ>
マユちゃんに他に男がいること、夕樹をタッくんと呼ぶ時点でほかにタッくんと呼ぶ男がいることはわかった。けど、まさか途中から入れ替わってるとは。。。特に遊んでるわけでもない、冷たくなった男を忘れたくて合コンに出て、誠実そうな男と知り合ってつきあい始めた、という、よくある物語。この小説のすごいところは、ストーリーテリングの力ですね。ファニーフェイスでチャーミングで、ちょっと計算高い、一見少女のような女の子。「マノンレスコー」なんか読んでるところが、すでに意味深だけど、悪人というわけでもなく、傷つくのを恐れてるだけにも見える。

最後から2行目で大どんでん返し、必ず二階読みたくなる…というのは事実でした。おもしろかったです。

September 10, 2013

デイヴィッド・ミーアマン・スコット&ブライアン・ハリガン「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」292冊目

友達からもらって読みました。
日本ではあまり知られておらず、全然聞かれてないアメリカの大人気バンド「グレイトフル・デッド」。
「デッドヘッド」と呼ばれるきわめてロイヤリティの高いファン層や、独特の “ヒッピー”文化が知られています。
この本は、自らもデッドヘッドである二人のビジネスマンが、いわゆる音楽ビジネスの王道と対極的な行動をとってきたこのバンドが、なぜちゃんと利益を上げて存続してこられたのかをマーケティング的な観点から書いた本です。

このバンドは昔から「コンサートは録音、撮影OK」としていて、逆にそうやって録音されたカセットテープがファンの間で広まって、オリジナルアルバムもちゃんと売れたしコンサートはいつもいっぱい。ファンを大切にして、ファンクラブを通じて情報発信するし、チケットも直販。録音や撮影を禁止して、チケットをエージェント経由で売る従来の音楽ビジネスは、結局のところチャンスを狭めて、エージェントを儲けさせているだけだ、といいます。

読んでみた印象は、「いかに彼らが、知らず知らずのうちに本当のマーケティングを実践してきたか」を、最近のマーケティング本にあるような指標を使って例示した本、という感じでした。
メンバーや関係者に対するインタビューはなく、ファンとしてどういう体験をしてきたかを、公になっている事実を元に述べています。
つまり、新しい情報はとくにないです。
本の作りはファンブック的で、コレクターズアイテムと呼べるくらいカラフルで神秘的な、このバンドのアルバムジャケット等のビジュアルに満ちています。

どんな音楽をやる人たちだっけ?と思って、YouTubeに乗っかっているライブ映像を視聴しながら読んでみたのですが、なんとなく心地いいけど特徴や盛り上がりのない音楽だなぁ・・・。ずーっと流れていても嫌じゃない。でも本に書いてあったほど、どんどん新しいことに挑戦している感じはない。

日本で言えば何だろう。ライブバンドとして定評があって、ファンのロイヤリティが高いってところだとアルフィー?スターダストレビュー?・・・といっても彼らだって「録音自由」とか「チケット直販」とかではないので、そうやって比較してみるとグレイトフルデッドの特異性が実感できます。

なにも新しいことをしなくても、地道にお客さんがやってほしいことを続けていれば、道は続いて行くんだよ。という話でした。以上。

September 08, 2013

武田百合子「犬が星見た」291冊目

実に痛快で面白い、感性のままに記された、ソ連(当時)〜北欧の旅行メモ、でした。
エッセイと呼ぶにはあまりにも箇条書き。

旅に出るときに持って行く本は、旅行記にしています。
自分の行き先とまったく違う場所でも、なんとなくしっくりときて、いい気分で読めるので。

この本はたまたま以前友達から「古本で買ったら面白かったので、あげる。読んだら捨てていいよ」といってもらったもの。さっそく次の旅行に携えて行きましたが、意外にボリュームがあり、読み終わったのは戻ってきてからとなりました。

武田泰淳は著名な小説家、武田百合子はその妻だと言われれば「ああ、あの」と思うけど、夫のほうの作品もひとつも読んだことはありません。妻が書いたこのエッセイの中の泰淳氏は、外国では空いばりで気の小さい、日本のおじちゃんです。百合子さんのことを「ポチ」などと呼んで愛でています。ポチはそれを受けて、思ったまま感じたままをメモっていきます。彼女のこどものような、少女のような感受性が愉快です。

泰淳氏も、同行した竹内氏も、銭高老人も、この本が発売されたときにはすでに亡く、私がこの本を読んでいるときにとっくに百合子さんも亡く、天国のエッセイのようなのですが、それでもやっぱり旅のもつ切ないような懐かしいような楽しみを満喫させてくれる秀作に間違いありません。

この本、次は誰にあげようかな。