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August 2012

August 31, 2012

鹿島田真希「冥土めぐり」281冊目

芥川賞受賞ってことで・・・(以下略)

直木賞受賞の辻村深月を読んだときも思ったけど、読後感がしっとりとしていて、むかしの「フォークミュージック」みたいに人肌のぬくもりが残ります。描いている人々の心のなかはみんなどろどろで、疑ったり思い込んだり、執着したり、でもその自分との確執に最後は勝ち始める、人の姿を描いています。

それにしてもこっちは読みづらい。芥川賞と直木賞を分けるものは、読みやすいかどうかなのか?「自」意識の流れ、主人公の内面世界だけが息苦しいくらい狭い世界にぎゅうぎゅうと詰まって流れてくような文体です。メスの匂いがむんむんとしてる。
主人公の目はアイドルの一挙一投足、触ったものやゴミまでも愛するようなマニア的な愛、または、その逆の嫌悪に満ちています。

ヤだなぁと思いつつも、さらさら読めてしまうのは、自分にも(たぶん、たいがいの人たちにも)同じ部分があるからかなぁ。

両方ともよくできた、きちんと推敲された作品だと思うけど、また読もうと思わないのは、私が作家と同性だからかしら。

それにしても、ときどきは文学作品を読まなきゃね。知識を得るための本とは、使う脳の部分が違います。さて、また違うジャンルの本いきます~。以上。


August 26, 2012

松倉秀実「黒船特許の正体」280冊目

副題は「Apple、Amazon、Googleの知財戦略を読み解く」。

この本は電子書籍と紙の同時発行。もともとは、impressの電子“雑誌”である「OnDeck」に連載された記事を、EPUB3とプリント・オンデマンド(注文に応じて即座に印刷・製本)の形で発刊したものです。そんな発行形態からして新しい、松倉さんらしい新時代の書籍!です。

タイトルの「黒船」については、「はじめに」で以下のように書かれています:「本書では、電子デバイスメーカーとしてのアップル、インターネット上の情報管理企業としてのグーグル、インターネット上の物販システムの変革者としてのアマゾンの3社を平成時代の「黒船」ととらえ、これら3社のビジネスモデルを分析し、それぞれのモデルに対応した知財戦略(特に、特許戦略)があるはずだという仮説のもとにこれらを検証・分析してみました。」

誰でも毎日のように使っているアップル、グーグル、アマゾンの機器やサービス。日本国内には、彼らに匹敵する商品やさーびすはまだ存在しません。誰もが知りたい、この3社のビジネスモデルの強みを、著者お得意の知財分析から読み解くという、専門的かつ知らなかった情報たっぷりの本です。

ぶっちゃけ薄い本です。70ページで、電子版だと680円、紙だと1080円。私が買ったのは紙ですが、印刷や製本は市販の書籍と同じ高品質だし、下手なメルマガや「この記事の続きが読みたかったらxxx円」と比較して高いと感じないのは、内容が濃いからでしょうね。

具体的には、各社のビジネスの根幹と思われる特許出願の内容、その査定や変更の経緯をたどって、戦略とその修正の経緯を読み解きます。同じ特許庁に対する出願である限り、特殊なやり方は通用しないことから、特許戦略というもののあり方自体は、専門家がきちんと読み解けばそれほど実体とかい離しないのではないかと思われます。この本、今後新ビジネスを始めようと思う人にはけっこう得難いヒントになるかもしれませんよ?

もっと続きが読みたいんだけど、書いてくれないかなぁ・・・。
以上。

辻村深月「鍵のない夢を見る」279冊目

直木賞受賞ってことで、「オール読物」買うより転売しやすいくらいの理由で単行本を買ってみました。

感想:面白い。とても達者な作家さんです。向田邦子ほど暗くないけど、人間の心のどろっとしたところをとても良くすくい上げていると感じました。

立場も性格も違う女性たちが、ろくでもない男やねたましい女と出会って、心がざわざわしてきたり、つい一歩踏み出しそうになったりする場面を5編の短編としてまとめています。最近は血も涙もない殺人鬼の“絶対悪”を描いたり、普通の人がどこまでも落ちていく姿を描いたりする小説が多い気がするので、そういうのと比べるとこの作家が描く人たちは「普通」です。

きっと息の長い作家として、年を経て深みを増していくんじゃないかな、と思います。楽しみにしてます。以上。