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January 07, 2012

NHKスペシャル取材班「日本海軍400時間の証言」325

重ったい本を読んでしまいました。
2009年8月9~11日に「NHKスペシャル」で同名の番組を3回シリーズで放送しました。副題は「開戦 海軍あって国家なし」「特攻 やましき沈黙」「戦犯裁判 それぞれの戦後」。この本は、シリーズ制作に携わったNHKのスタッフが、番組だけでは伝えられなかった番組製作のきっかけ、取材の経緯、個人として感じたこと・考えたこと、等を丁寧に、努力して客観的に記述した本です。

番組を見た頃は家に帰るとまずTVをつけて、NHKを流しっぱなしにして、なにか興味をひかれたらTVの前に座る…という感じだったので、この番組も見てショックを受けた覚えはあるのですが、恐ろしいと思っただけで詳細をほとんど記憶していません。

実はたまたまこの直後、とあるゼミ合宿で8月28日-29日に呉市に行きました。潜水艦基地や「呉市開示歴史科学館」大和ミュージアムを訪ねて、特攻兵器「回天」の実物も見てきたのですが、今考えると惜しいことをした…もっとちゃんと勉強してから行けばよかったと思います。もともと歴史が大の苦手で戦争のことも全然知らない私に呉の海軍関連施設から感じ取れたものは、なにか高いプライド、閉鎖性、それから本当に使われた兵器にしか感じられない、暗くて重い凄みといったものでした。行かなければ感じられないことがあるので、行けてよかったのですが、背景知識がもう少しあればもっと違っていたはず。

この本は、第5章前半に「全く」「唐突に」「唖然と」「衝撃」といった大げさな表現が多い(この部分を執筆したのが若いディレクターだからでしょうか)のを除くと、執筆者たちが感情や先入観、思い込みや思い入れを抑えて抑えて書いています。自分たちの感じたことに共感を促すのでなく、同じ事実に平面的に接して同じ驚きを感じてほしいという意図が伝わってきます。それほど、抑えきれない衝撃を与える自信があったんでしょうね。

内容については触れません。どの章も良い文章で、こんなに重い内容の本なのにわかりやすく読みやすく、先を追ってどんどん読み進んで2日ほどで読めました。

放送法という法律で縛られた公共放送のTV番組は、子どもからお年寄りまで、常にマスに向けて作られるのがその本分。本ではそれを超えて、1700円の本を買って390ページを読み切る覚悟のある人だけに向けて、もっと深い記述をしています。それでもこの組織に所属しているかぎり、自分の考えで断言はできないんですね。海軍OBや中国の方々に直接聞いた話、見てきた証拠から確かそうな情報でも断言はしません。

上司の命令が絶対で、組織を守ることが至上である組織…
それは命令を下す側も、手を下す末端の人間も同じで、もっと言うと必ず命を失う攻撃命令に従って飛び立つ人も実は同じなのです。「死ぬのは嫌だ!」「殺すのは嫌だ!」と現場が反乱を起こすことが、他の国ではもっと起こっていたのかもしれません。
執筆者たちが繰り返し「自分はどうなんだろう」と自問したあと、最後に一様に「生命にかかわることだけはどんな命令でも空気でも流されてはいけない」と締めくくるのがなんとなく心に引っ掛かります。それは裏返すと「生命にかかわらない命令なら従うしかない、従っている自分をよしとしよう」ということに他ならないから。

いまあるNHKという組織の問題がこの本のトピックではないので、別の機会に振り返ってもらうことにして。日本に公共放送の報道番組というものがあって良かった、今と同じ組織や形態がベストかどうかはわからないけれど、存続させたいと私はずっと思っています。その時の政治家や役人が直接手を下せない、税金でなく視聴者が直接支払う受信料によって成り立つ組織があって、その組織の本分をまっとうしようと真剣に、かつ時間とお金をかけて取材することでしか、この本に書かれたことは暴きだせなかったわけなので。

この執筆者の中の一人に会って話を聞いたことがあります。このような番組にかかわるようになったのは偶然、と素直な驚きを語ってくれて、特別でなく私たちと同じ感覚の普通の人が、自分たちの身を削って、本当のこと、大切なことを届けようとしてくれていることが痛いほど伝わってきました。あなた方のおかげで、私は部屋でこの本が読めるのです。苦しい仕事をやりとげてくれてありがとう・・・という気持ちになりました。

以上。

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