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January 2012

January 29, 2012

北野武監督「あの夏、いちばん静かな海」333

1991年作品。
90年代といっても、80年代バブルの名残のくりくりソバージュと太眉、巨大なイヤリングなどがさびしく健在。飽食に疲れたバブルの民が求めたせつないファンタジーというかんじの映画です。

聴覚障害者どうしの恋愛なのに、実際に町で見かける人たちのような、手話で盛大におしゃべりするシーンがなく、ひたすら沈黙しています。リアリティじゃないってことでしょうね、監督が求めたのは。

問題は主役の二人のキャスティング?
真木蔵人はサーフィンを始める前から、明らかに身体を完成させている本物のアスリートだし、大島弘子は地方出身で短大に通っているオシャレ大好き少女にしか見えません。
真木に対してもっと野性的な、もうすこし不幸な雰囲気のある女の子をあてれば、もう少し実感できたかも。
大島に対してもっと頼りない、荒んだ雰囲気のある男の子をあてれば(以下同じ)
この主役の二人の間に、ことばにならない愛とか絆とかがあったということが、ひとつも実感できないのです。
マンガかアニメにしたほうがよかった。実写で作るのに実在しない人たちを並べるのって、なんか変だ・・・。
この映画が興行的に成功する理由は、ファンタジーへの郷愁を強く起こさせるからだと思うけど、それはこの映画の完成度と直結してるわけじゃない、と感じます。監督に、これが「実験」でなく「自分にとって一生に1つだけの映画だ」という覚悟があったと思えないのです。すこしだけ、ろうあの人たちに失礼な感じもします。彼ら彼女たちはろうあであるという以外はそうでない人たちと同じであって、せつなさを演出するために身体の不便さを利用するのは安易だと感じます。

1991年以降のわたしたちが心の中に持っていた、なにか本当のものへの憧れを描こうとして、それを掴むことに成功した作品でした。黒澤明の作品にもよく感じるけど、マスで当たる作品ってそういう「ツボ」を突いてるってことなんだなぁ。・・・以上。

January 28, 2012

渋谷実監督「本日休診」332

1952年作品。井伏鱒二原作(読んでないや)。

東京といっても郊外、平屋の家もまばらで、ドラム缶ばかりが打ち捨ててあるどぶ池のそばに「三雲病院」は建っています。
今日は開院記念日で休診。だけど、上京したてで迷っているところを騙されて傷つけられた女性や、刺青をとってほしいという学生や、いろんな人たちが次々に訪れて、休む暇がありません。・・・

いいお医者さんだな~~。ほのぼの。
貧しくて小さい世界の中で、少ない人たちがじっくりと暮らしてる。助け合う心があることの価値を、この人たち自身は意識してないのかもしれません。

若い三國連太郎が演じる、兵隊の意識が抜けない青年につきあって、みんなで兵隊さんごっこをやるところでこの映画は終わります。オチはありません。でもこういう映画ってふしぎと後を引くんだな。あのお医者さん、その後どうしたかな、とか思ってしまう。

こういう「群像もの」映画は、昔のをみると当時のことがよくわかってほんとに面白い。
ポリス、マニア、ロマンチックといった言葉の使い方も楽しいです。
ロマンチックというのは、女性的な意味ではなく「冒険心」のような意味で使われています。
「手紙マニア」の青年は、職場のタイプライターを使ってローマ字で手紙を書いてきて、自分は病院の外で待っている。
先生の身の回りの世話をしている「ばあや」という人が出てくるんだけど、お手伝いさんなのかな。

先生を演じたのは柳永二郎という役者さん。作ったかんじのない、人間の大きさや太さを感じさせる、すばらしい演技です。脇役的な看護婦に岸恵子(ぜいたく!)。襲われる若い女性は角梨枝子という女優さんで、かなりの美人ですがその後の活躍のことを私は知りません。淡島千景と鶴田浩二が若いチンピラとその女なのですが、二人とも上品すぎる・・・。

1950年代の映画で、いま見ることができるものって、どれくらいあるんだろう?どれくらい見れば、「見たぞ!」って気になれるかな・・・。

以上。


January 19, 2012

久松静児監督「神阪四郎の犯罪」331

1956年作品。
いやーー面白かった!すごい映画です。

神阪四郎(森繁久彌)はある出版社の敏腕編集長。女好きでお金に節操がない彼の周りには、偉そうなくせに手癖の悪い作家や、男に遊ばれつつ自分もうまく利用している事務員や、貞淑を絵に描いたように見えるけれど計算高いところもある妻(新珠美千代)…。彼が使い込みで会社から訴えられた後、愛人(左幸子)と心中事件を起こして自分だけ生き残り、彼を裁くための裁判が始まる…。

この映画の評判を見ると、「羅生門のように、誰もが自分に都合のいいことばかり言って、真実は闇の中だ」というようなことを書いてる人が多いけど、そういう普遍的なテーマを何を使ってどう料理するかが映画です。このテーマ自体はほかにもいっぱいあるよ。
「12人の怒れる男」とか。(←これ「リーダーシップ論」の授業で見た)「鍋の中」とか。(←これ、映画化された「八月のラプソディ」より原作が好き)。

若いころの森繁ってほんとウサン臭い敏腕営業マン…というよりデパートの包丁売りみたいで最高ですね。凄みのなさが、たとえばヒットラーみたいな独裁者って現実にはこんな人だったんじゃないかなと思う。彼と、左幸子だの新珠美千代だのが平然と演じてるから見応えがあるんじゃないですか。この監督もすごいですね。人間のイヤらしさ、面白さを徹底的に公平に撮っています。役者さんたちも、ノリノリで演じてます。

森繁のすごさってのは…どんな場面でも…詐欺師でも誠実な男を演じていても、生き延びるために必死なんですよって顔に書いてあるところだ、と思う。嘘かもしれないけど真剣なんですよ、って。本当かどうかなんてどうでもいいじゃないですか、こっちは真剣なんですから。って感じ。

人間、大御所になんかなってしまったら、これほどつまらないことはないです。(極論ですか?)こういう軽みって身につけようとして着くもんじゃないから、一生インチキジジイでいてほしかったです。

左幸子のイっちゃってる神経症的な演技もすごいけど、むしろもうちょっと抑えてくれてもよかったです。

しかしこの年代の日本映画って、本当に面白いものが多いですね。黄金時代といっても過言ではなさそうです。
以上。

January 18, 2012

私立探偵 濱マイク 10 竹内スグル監督「一分700円」330

かつてマイクが世話になった牧師が人探しを依頼してくる。ある人間的な感情をもてない少年の行く末を案じてのことだった。彼は殺し屋になっていた。殺そうとする相手とロシアンルーレットをやって、まだ負けたことがない。スピード写真のブースで、人を殺すたびに神様に「僕はまだ許されてますか」と話しかける。・・・という男のストーリー。

絵よりストーリー重視で作られている作品だと思いましたが、描きたかったのは起承転結のある物語ではなく、上記の設定なのかな、という印象です。浅野忠信が演じる、スピード写真のブースを懺悔室の代わりにして神様に話しかける、若くて美しくて心を失った殺人者。それだけで1本作っちゃった、という。十分に魅力的な設定ではあります。でも、薄いというより、掘り下げる気がそもそもないのかな、とも感じます。見ている人に対して背景や詳細を提示しないだけではなくて、設定そのものがひとつの人格として生きるところまで作りこまれてない、役者さんたちもそこまで深く理解しないまま演じている、という感じもあります。人間を描いた「ドラマ」というより、イメージビデオのつもりで見ればいいのかな。。。
私としては、中村達也が赤いシャツでバーカウンターにいる姿にびりびり来ました。

・・・あ、わかった。この作品を作った人は、浅野演じる殺人者に遠くから恋をしてる人だ。深く知らない、知りたくもないけど、素敵すぎてずっと見ていたい・・・という。小説じゃなくて肖像画なんだな。だから「イメージビデオ」で当たり。方法論自体にはいいも悪いもないと思うし、このシリーズはいろんな実験があって本当におもしろい、学べる、と改めて思います。 ・・・以上!

January 15, 2012

松本人志監督「さや侍」329

2011年作品。

これで、今までに公開された松本人志作品は全部見たことになります。
NHKでやってた「松本人志のコントMHK」スペシャルで、この作品をヨーロッパで上映した時の観客の感想インタビューをやってましたが、絶賛する人たちにまぎれて「大好きだったのに、がっかりした。もう見ないと思う」という人もいました。
この結末は確かに・・・・。

松本人志の笑いって、イジメとスレスレですよね。(欽ちゃんもそうです)不器用な人にわざと戸惑うようなタスクを与えて、うまくやれない様子を笑う。そこには、人間ってダメだよね、切ないよね、はかないよね、そこがおかしいんだ。…という無常感があります。その無常感がこの映画の結末では強く出すぎているような気もします。それはサムライとして、男としてのプライドでもあるのかもしれません。彼の考えを突き詰めていくと破壊的な方向に向かっていかざるを得ないのかもしれないけど、もう少し肩の力を抜いて見られる娯楽作品でいいんじゃない?という気もします。

日本には自分の命を軽くみる文化がある…ということは戦争だけでなく、歌舞伎とかを見ていても思います。愛する人の命は何が何でも守るけど、自分の命を差し出すことを厭わないのが美である、という。
そんなことを考えたりしました。

次の映画は、人を殺し続ける宿命を背負った座頭一とかゴルゴ13のような殺し屋が主人公の血なまぐさい映画なのでは?などと思いつつ今日のところはこのへんで。


January 13, 2012

私立探偵 濱マイク 9 中島哲也監督「MISTER NIPPON~21世紀の男」328

これおもしろい!
この回のこともよく覚えてるけど、あらためて見直して、作りこみの素晴らしさに感動さえおぼえます。この監督、「告白」とか「嫌われ松子の一生」とか、この作品(2002年)のあと最近になって大活躍してますが、そりゃ当然だ。

ファッションブランドのCFのパロディみたいな濱マイクの世界をよく完成させています。松方弘樹、ペー&パー子…黒幕には、いまやサラリーマンNEOや「カーネーション」の母親役でコメディの真骨頂を演じている麻生祐未!大どんでん返しに次ぐ大どんでん返しの果ての光浦靖子、ひるがえって杉本彩!そういった味の濃い有名タレントを、知られているキャラクター込で生かしています。このやり方だと、視聴者がすでに持ってる知識を引き出せる分、説明の時間が要らない。ひっくり返すだけで面白い絵が作れる。このやり方はまさにCMの作り方ですね。

ここに来て濱マイクTVシリーズが完成形に近づいてきている…ような気さえします。

あと、音楽のセンスも大変良いです。ミスターミュージック所属音楽プロデューサー、渡辺秀文という人ですね。覚えておきます。

ファッションセンスは、あくまでもオーソドックス。役者さんの外から色をつけようとしないで、すでにその人がもっているイメージを生かすoutfitを貼り付けてます。永瀬正敏に「ど根性ガエル」のピョン吉Tシャツは似合いすぎ。

たいがいの回に出てくる、みずみずしい美少女が今回は派谷恵美という人です。ほんとに素敵。悪くて勝手でうるさいけど、ガラスみたいに透明。このシリーズに出た人がその後どういうふうに成長していったかを見るのも楽しみです。

うーん、ほんとにこの回いいなぁ。自分で作るならこれがいい。(←かってに言ってろ)

今日のひとこと(ひさしぶり):「超がつくほどのね!」

January 07, 2012

久松静児監督「警察日記」327

これも1955年作品。
会津磐梯山近くの町の警察署にやってくる人たちを日記のように描いた、生活感と人情あふれる映画です。起承転結があるわけではなくて、ロードムービー・・・というより定点待ち受けムービーです。

戦後の貧しい生活に耐えて生き延びようとする人たち、それをなんとか助けようとする人たちの姿があたたかいです。子どもを何人も抱えて夫に出ていかれて、働くこともできず困り果てて無銭飲食をしてしまう母親や、心中寸前まで追い詰められて子ども二人を棄ててしまう母親。料亭が二人の子を引き取って可愛がって面倒をみたり、若い警官が売られていく若い娘にそっとお金を渡したり。…助けられた人ばかりじゃなかったんだろうけど、こういうオープンで血の通った付き合いっていいなぁと素直に思います。なんか前にCSで見てた「マクベス巡査」の世界。(あっちは最近の映画で、スコットランドの片田舎のマクベス巡査を演じてたのは映画「トレインスポッティング」でアクの強いベグビーを演じたロバート・カーライルです。)

これにも森繁が出ていて、棄て子をなんとかしようと奔走する警官役です。まだ若い警官の三國連太郎や宍戸錠のイケメンっぷりも見どころ。棄て子のお姉さんの方を演じているのは、まだ6歳くらいの二木てるみで、せつなげな演技が泣かせます。

とても地味な作品なんだけど、こういうさりげないものほど、細かいシーンが心に残って、何かの折に思い出したりするんですよね。

ところで、この頃の映画を見るときに楽しみにする人がだんだん決まってきました。
千石規子のちょっとワルな魅力、三木のり平の芸達者さ、加藤大介のどこか上品な上役ぶり、いつも悪者の親玉を演じる三島雅夫の貫録…。三島雅夫の演じる大物は、ヒッチコックみたいに重厚なんだけどなんとなく陰があって、複雑な人間性を感じさせて、実在しそうな感じがあります。「スラバヤ殿下」ではペテン師をうまく利用する芸能ゴロみたいなのを演じてましたが、この映画では闊達で剣道大好きな警察署長という屈託のない役です。明るいのになんとな~く裏表がありそうに見えるところが魅力。

この頃の映画ってほんとどれも面白いですね。当時ノリに乗ってた大衆娯楽だったんだろうなーと感じさせます。だんだんマニアックになってきましたが、引き続き追っかけて行きます。以上。


佐藤武監督「スラバヤ殿下」326

1955年作品。とっても楽しい娯楽映画です。
なぜか手塚治虫のアニメを思い出しました。
原作は「君の名は」で有名な菊田一夫。
スラバヤというのはジャワ島にあるインドネシア第二の都市だそうで、同名のインドネシア料理店がいくつも検索でヒットしたりします。その名前を使ってインドネシアふうの酋長に扮する日本人の映画を作るというのも大胆な話です。

主演は森繁久彌、兄弟を一人二役で演じます。兄は原子力の安全利用開発で名高い博士、弟はビキニ海域や北海道の原子力実験のペテン師。兄の開発した技術を狙う各国のスパイから弟がまんまと情報料をせしめて逃げたり、ペテンがばれて追ってきた人たちから逃げ切れなくなった弟が南洋の種族の長に化けたり、バタバタと楽しい映画です。

1948年にインドネシアの有名な楽曲「ブンガワン・ソロ」「ラサ・サヤン」も有名なインドネシア民謡なのですが、日本では松田トシという歌手が1948年に売り出してヒットしたそうです。森繁扮するスラバヤ殿下が歌を口ずさむ個所で「ラササヤン」が混じっているところがあり、当時のインドネシア人気がうかがわれます。…といっても第二次大戦中、日本が占拠していたということで、日本のほうにはいい思い出があるのかもしれませんがインドネシア側はどうなんでしょう。

森繁のシリアスな部分とコミカルな部分を、この映画では二役で演じ分けているので、それぞれの持ち味が楽しめます。森繁久彌vs三木のり平ののインチキ外国語のやりとりが最高。

森繁がしのび足で歩く時の身のこなしの軽さが好きです。本当に器用な人の身体のやわらかさ、という感じ。

エンディングの前に殿下&オールスターズのダンスステージがあります。男の人の踊りは「スパリゾートハワイアンズ」にそっくりですね。

楽しかったです。こんな映画ならいくつでも見たいな~と思いました。以上。

NHKスペシャル取材班「日本海軍400時間の証言」325

重ったい本を読んでしまいました。
2009年8月9~11日に「NHKスペシャル」で同名の番組を3回シリーズで放送しました。副題は「開戦 海軍あって国家なし」「特攻 やましき沈黙」「戦犯裁判 それぞれの戦後」。この本は、シリーズ制作に携わったNHKのスタッフが、番組だけでは伝えられなかった番組製作のきっかけ、取材の経緯、個人として感じたこと・考えたこと、等を丁寧に、努力して客観的に記述した本です。

番組を見た頃は家に帰るとまずTVをつけて、NHKを流しっぱなしにして、なにか興味をひかれたらTVの前に座る…という感じだったので、この番組も見てショックを受けた覚えはあるのですが、恐ろしいと思っただけで詳細をほとんど記憶していません。

実はたまたまこの直後、とあるゼミ合宿で8月28日-29日に呉市に行きました。潜水艦基地や「呉市開示歴史科学館」大和ミュージアムを訪ねて、特攻兵器「回天」の実物も見てきたのですが、今考えると惜しいことをした…もっとちゃんと勉強してから行けばよかったと思います。もともと歴史が大の苦手で戦争のことも全然知らない私に呉の海軍関連施設から感じ取れたものは、なにか高いプライド、閉鎖性、それから本当に使われた兵器にしか感じられない、暗くて重い凄みといったものでした。行かなければ感じられないことがあるので、行けてよかったのですが、背景知識がもう少しあればもっと違っていたはず。

この本は、第5章前半に「全く」「唐突に」「唖然と」「衝撃」といった大げさな表現が多い(この部分を執筆したのが若いディレクターだからでしょうか)のを除くと、執筆者たちが感情や先入観、思い込みや思い入れを抑えて抑えて書いています。自分たちの感じたことに共感を促すのでなく、同じ事実に平面的に接して同じ驚きを感じてほしいという意図が伝わってきます。それほど、抑えきれない衝撃を与える自信があったんでしょうね。

内容については触れません。どの章も良い文章で、こんなに重い内容の本なのにわかりやすく読みやすく、先を追ってどんどん読み進んで2日ほどで読めました。

放送法という法律で縛られた公共放送のTV番組は、子どもからお年寄りまで、常にマスに向けて作られるのがその本分。本ではそれを超えて、1700円の本を買って390ページを読み切る覚悟のある人だけに向けて、もっと深い記述をしています。それでもこの組織に所属しているかぎり、自分の考えで断言はできないんですね。海軍OBや中国の方々に直接聞いた話、見てきた証拠から確かそうな情報でも断言はしません。

上司の命令が絶対で、組織を守ることが至上である組織…
それは命令を下す側も、手を下す末端の人間も同じで、もっと言うと必ず命を失う攻撃命令に従って飛び立つ人も実は同じなのです。「死ぬのは嫌だ!」「殺すのは嫌だ!」と現場が反乱を起こすことが、他の国ではもっと起こっていたのかもしれません。
執筆者たちが繰り返し「自分はどうなんだろう」と自問したあと、最後に一様に「生命にかかわることだけはどんな命令でも空気でも流されてはいけない」と締めくくるのがなんとなく心に引っ掛かります。それは裏返すと「生命にかかわらない命令なら従うしかない、従っている自分をよしとしよう」ということに他ならないから。

いまあるNHKという組織の問題がこの本のトピックではないので、別の機会に振り返ってもらうことにして。日本に公共放送の報道番組というものがあって良かった、今と同じ組織や形態がベストかどうかはわからないけれど、存続させたいと私はずっと思っています。その時の政治家や役人が直接手を下せない、税金でなく視聴者が直接支払う受信料によって成り立つ組織があって、その組織の本分をまっとうしようと真剣に、かつ時間とお金をかけて取材することでしか、この本に書かれたことは暴きだせなかったわけなので。

この執筆者の中の一人に会って話を聞いたことがあります。このような番組にかかわるようになったのは偶然、と素直な驚きを語ってくれて、特別でなく私たちと同じ感覚の普通の人が、自分たちの身を削って、本当のこと、大切なことを届けようとしてくれていることが痛いほど伝わってきました。あなた方のおかげで、私は部屋でこの本が読めるのです。苦しい仕事をやりとげてくれてありがとう・・・という気持ちになりました。

以上。

January 02, 2012

スティーブン・スピルバーグ監督「インディ・ジョーンズ最後の聖戦」324

1989年作品。ということは私の分類でギリギリ「古いほう」ですね。
BSでやってたので見ました。インディ・ジョーンズシリーズは何作か見た覚えがあるけど、これはあんまり覚えがないなぁ。

最近の冒険活劇系の映画としては、ハリポタものなら全部見てますが、それと比べると実に単純な作りだなと、改めて思います。考古学者で武術の達人のインディ、敵はナチスというわかりやすい悪役。ブロンドの悪女に翻弄されながら、未開の地の奥の神殿に隠された秘宝を探す。ナチスが馬やラクダや戦車に乗ってきて銃やライフルやミサイルを撃ってくるのをヤリで蹴散らしたり、考古学者だけどバンバン反撃して殺戮しちゃったりするけど、いいの相手は悪者だから。…という、TVゲームかディズニーアトラクションのような世界観。(映画がベースだから当然なのか)

それに比べて、いまの映画は友情と愛と裏切りと尊敬と憎しみと疎外とむなしさと…もう複雑。CGのエフェクトがすごくなったり、3Dになったりしたことより、そういう違いを如実に感じてしまうのが面白いですね。やはり映画は時代を映すんだなぁ。…映画としてはあまり楽しめなかったけど、どんな映画も面白いなぁと思います。以上。

岡田斗司夫+福井健策「なんでコンテンツにカネを払うのさ?」323

これも、twitterでいまフォローしている福井健策氏の新著。というか"オタキング"岡田斗司夫氏との対談です。
二人ともかなーり異端な意見の持ち主で、突っ込みどころも多いが思い切りのいい持論を気持ちよく展開してくれます。
副題が「デジタル時代のぼくらの著作権入門」。といっても入門書では全然ありません。むしろ大学院課程を終えたくらいの人が、思考実験サンプルとして読む本だと思います。
福井氏が、本だけでなく映像や音楽のすべてをアーカイブ化して、著作権者からオプトアウト方式で許諾をとる(これを有効にするにはまず法改正)という「全メディアアーカイブ構想」をぶちあげると、岡田氏は日本の全国民が株主になる「株式会社日本コンテンツ」を語りはじめる…。あるていど制度上の難しさがわかる人のほうが、壮大な夢であり大言壮語のこの話が思い切り楽しめるのでは?と思います。

この二人は、立場は違うけれど意外と考えもアプローチも似ていて、日本人にはむずかしい"大きなシステムをデザインして構築する"力のある人たちだと思いますが、意図的に人間の心理に触れてないからか、な~んとなく、自分が彼らの提唱する世界にぴたっとはまる気がしません。具体的にいうと、売上トップ100のすぐれた作家やミュージシャンと同じくらいすばらしいアマチュア作家やミュージシャンがたくさん存在することは知ってるけど、一般の人はいちいち1万人の本を読んだり音楽を聴いたりして選択するより、誰かが適当に選んでくれたものの中から選べれば十分なんだと思います。"キュレーターの時代″でも"目利きの力"でもいいし、それが中村とうようでも芥川賞でもロッキングオンでもいいんだけど、膨大な横並びのアーティストの中から、数個を選び出して提示してくれるものがふつうは必要な気がします。全アーカイブスができると、その中に「目利き」が必要に迫られて登場して、やがてそれがレーベルに似た役割を果たすようになって、それをマネタイズする必要が生じてきて、そのうち意外と今とかわらない世界になっていく気がします。

お金を稼ぐための仕事をしながら音楽を続ける…ということを、私もよくミュージシャン希望の人に薦めますが、実際のところは、2つのことに真剣に取り組める人ばっかりではないとも思います。聴く側はもっとそうで、もうダンスミュージックのコンピレーションCDで十分だと思ってる人もいるくらいです(私はとってもpickyなので、うそ~と思ってしまうほうですが)

多分わたしは何においても、「一般の人は、たいがいのことはどうでもいいと思っている」という考えなんでしょうね。私自身、ウルサイのは音楽くらいで、それ以外のことは割とどうでもいい人間だからでしょうか…。

いろいろ言ってますが、言いたくなるくらい面白い本で、考え方のヒントや著作権制度のOK/NGスレスレが見えてきて、考えるきっかけにもなります。なんでもかんでも、プラットフォームをアメリカのしかも一企業が決めてしまう世の中はイカンという二人の意見には、couldn't agree moreという気持ちです。以上。

January 01, 2012

フランク・カペラ監督「ヤクザvsマフィア」322

1993年作品。

原題は「American Yakuza」…このままでも十分わかりやすいし、実際ヤクザ対FBIが闘いのメインの映画なのでこの邦題はおかしいのですが。
ロードオブザリングのファンには、若きヴィゴ・モーテンセンが主役を演じた映画として知られているでしょう。私は、最近音楽活動を再開した元ARBの石橋凌で検索して見つけました。

ひとことで言うと、80年代ファッションやロックの影響を色濃く残した、ハリウッド製B級ヤクザ映画…です。
ところどころアクションシーンをはしょってコストを浮かせているっぽいところがあるし、全編B級の香りただよう、Vシネマな感じの映画なのですが、ヴィゴと凌が出会い、友情をはぐくんでいくという部分はよく描けています。刑務所から出てきたばかりのヴィゴも、アメリカで一旗揚げようとしているヤクザの凌も、義理堅く汚いことが嫌いなのは同じ。わざわざアメリカでヤクザ映画を撮るだけあって、この監督はおそらく親日派でヤクザ映画がお好きなのではないかと思います。FBIを裏切ってヤクザにくみしていいのか、と良識が問いかけてきますが、命を助けたもの、助けられたものどうしの友情は素直に胸にひびきます。

といってもやっぱりB級だなぁ…そんな元旦、今年最初の記念すべき映画がこれでした。以上。