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January 2012

January 18, 2012

私立探偵 濱マイク 10 竹内スグル監督「一分700円」330

かつてマイクが世話になった牧師が人探しを依頼してくる。ある人間的な感情をもてない少年の行く末を案じてのことだった。彼は殺し屋になっていた。殺そうとする相手とロシアンルーレットをやって、まだ負けたことがない。スピード写真のブースで、人を殺すたびに神様に「僕はまだ許されてますか」と話しかける。・・・という男のストーリー。

絵よりストーリー重視で作られている作品だと思いましたが、描きたかったのは起承転結のある物語ではなく、上記の設定なのかな、という印象です。浅野忠信が演じる、スピード写真のブースを懺悔室の代わりにして神様に話しかける、若くて美しくて心を失った殺人者。それだけで1本作っちゃった、という。十分に魅力的な設定ではあります。でも、薄いというより、掘り下げる気がそもそもないのかな、とも感じます。見ている人に対して背景や詳細を提示しないだけではなくて、設定そのものがひとつの人格として生きるところまで作りこまれてない、役者さんたちもそこまで深く理解しないまま演じている、という感じもあります。人間を描いた「ドラマ」というより、イメージビデオのつもりで見ればいいのかな。。。
私としては、中村達也が赤いシャツでバーカウンターにいる姿にびりびり来ました。

・・・あ、わかった。この作品を作った人は、浅野演じる殺人者に遠くから恋をしてる人だ。深く知らない、知りたくもないけど、素敵すぎてずっと見ていたい・・・という。小説じゃなくて肖像画なんだな。だから「イメージビデオ」で当たり。方法論自体にはいいも悪いもないと思うし、このシリーズはいろんな実験があって本当におもしろい、学べる、と改めて思います。 ・・・以上!

January 13, 2012

私立探偵 濱マイク 9 中島哲也監督「MISTER NIPPON~21世紀の男」328

これおもしろい!
この回のこともよく覚えてるけど、あらためて見直して、作りこみの素晴らしさに感動さえおぼえます。この監督、「告白」とか「嫌われ松子の一生」とか、この作品(2002年)のあと最近になって大活躍してますが、そりゃ当然だ。

ファッションブランドのCFのパロディみたいな濱マイクの世界をよく完成させています。松方弘樹、ペー&パー子…黒幕には、いまやサラリーマンNEOや「カーネーション」の母親役でコメディの真骨頂を演じている麻生祐未!大どんでん返しに次ぐ大どんでん返しの果ての光浦靖子、ひるがえって杉本彩!そういった味の濃い有名タレントを、知られているキャラクター込で生かしています。このやり方だと、視聴者がすでに持ってる知識を引き出せる分、説明の時間が要らない。ひっくり返すだけで面白い絵が作れる。このやり方はまさにCMの作り方ですね。

ここに来て濱マイクTVシリーズが完成形に近づいてきている…ような気さえします。

あと、音楽のセンスも大変良いです。ミスターミュージック所属音楽プロデューサー、渡辺秀文という人ですね。覚えておきます。

ファッションセンスは、あくまでもオーソドックス。役者さんの外から色をつけようとしないで、すでにその人がもっているイメージを生かすoutfitを貼り付けてます。永瀬正敏に「ど根性ガエル」のピョン吉Tシャツは似合いすぎ。

たいがいの回に出てくる、みずみずしい美少女が今回は派谷恵美という人です。ほんとに素敵。悪くて勝手でうるさいけど、ガラスみたいに透明。このシリーズに出た人がその後どういうふうに成長していったかを見るのも楽しみです。

うーん、ほんとにこの回いいなぁ。自分で作るならこれがいい。(←かってに言ってろ)

今日のひとこと(ひさしぶり):「超がつくほどのね!」

January 07, 2012

佐藤武監督「スラバヤ殿下」326

1955年作品。とっても楽しい娯楽映画です。
なぜか手塚治虫のアニメを思い出しました。
原作は「君の名は」で有名な菊田一夫。
スラバヤというのはジャワ島にあるインドネシア第二の都市だそうで、同名のインドネシア料理店がいくつも検索でヒットしたりします。その名前を使ってインドネシアふうの酋長に扮する日本人の映画を作るというのも大胆な話です。

主演は森繁久彌、兄弟を一人二役で演じます。兄は原子力の安全利用開発で名高い博士、弟はビキニ海域や北海道の原子力実験のペテン師。兄の開発した技術を狙う各国のスパイから弟がまんまと情報料をせしめて逃げたり、ペテンがばれて追ってきた人たちから逃げ切れなくなった弟が南洋の種族の長に化けたり、バタバタと楽しい映画です。

1948年にインドネシアの有名な楽曲「ブンガワン・ソロ」「ラサ・サヤン」も有名なインドネシア民謡なのですが、日本では松田トシという歌手が1948年に売り出してヒットしたそうです。森繁扮するスラバヤ殿下が歌を口ずさむ個所で「ラササヤン」が混じっているところがあり、当時のインドネシア人気がうかがわれます。…といっても第二次大戦中、日本が占拠していたということで、日本のほうにはいい思い出があるのかもしれませんがインドネシア側はどうなんでしょう。

森繁のシリアスな部分とコミカルな部分を、この映画では二役で演じ分けているので、それぞれの持ち味が楽しめます。森繁久彌vs三木のり平ののインチキ外国語のやりとりが最高。

森繁がしのび足で歩く時の身のこなしの軽さが好きです。本当に器用な人の身体のやわらかさ、という感じ。

エンディングの前に殿下&オールスターズのダンスステージがあります。男の人の踊りは「スパリゾートハワイアンズ」にそっくりですね。

楽しかったです。こんな映画ならいくつでも見たいな~と思いました。以上。

NHKスペシャル取材班「日本海軍400時間の証言」325

重ったい本を読んでしまいました。
2009年8月9~11日に「NHKスペシャル」で同名の番組を3回シリーズで放送しました。副題は「開戦 海軍あって国家なし」「特攻 やましき沈黙」「戦犯裁判 それぞれの戦後」。この本は、シリーズ制作に携わったNHKのスタッフが、番組だけでは伝えられなかった番組製作のきっかけ、取材の経緯、個人として感じたこと・考えたこと、等を丁寧に、努力して客観的に記述した本です。

番組を見た頃は家に帰るとまずTVをつけて、NHKを流しっぱなしにして、なにか興味をひかれたらTVの前に座る…という感じだったので、この番組も見てショックを受けた覚えはあるのですが、恐ろしいと思っただけで詳細をほとんど記憶していません。

実はたまたまこの直後、とあるゼミ合宿で8月28日-29日に呉市に行きました。潜水艦基地や「呉市開示歴史科学館」大和ミュージアムを訪ねて、特攻兵器「回天」の実物も見てきたのですが、今考えると惜しいことをした…もっとちゃんと勉強してから行けばよかったと思います。もともと歴史が大の苦手で戦争のことも全然知らない私に呉の海軍関連施設から感じ取れたものは、なにか高いプライド、閉鎖性、それから本当に使われた兵器にしか感じられない、暗くて重い凄みといったものでした。行かなければ感じられないことがあるので、行けてよかったのですが、背景知識がもう少しあればもっと違っていたはず。

この本は、第5章前半に「全く」「唐突に」「唖然と」「衝撃」といった大げさな表現が多い(この部分を執筆したのが若いディレクターだからでしょうか)のを除くと、執筆者たちが感情や先入観、思い込みや思い入れを抑えて抑えて書いています。自分たちの感じたことに共感を促すのでなく、同じ事実に平面的に接して同じ驚きを感じてほしいという意図が伝わってきます。それほど、抑えきれない衝撃を与える自信があったんでしょうね。

内容については触れません。どの章も良い文章で、こんなに重い内容の本なのにわかりやすく読みやすく、先を追ってどんどん読み進んで2日ほどで読めました。

放送法という法律で縛られた公共放送のTV番組は、子どもからお年寄りまで、常にマスに向けて作られるのがその本分。本ではそれを超えて、1700円の本を買って390ページを読み切る覚悟のある人だけに向けて、もっと深い記述をしています。それでもこの組織に所属しているかぎり、自分の考えで断言はできないんですね。海軍OBや中国の方々に直接聞いた話、見てきた証拠から確かそうな情報でも断言はしません。

上司の命令が絶対で、組織を守ることが至上である組織…
それは命令を下す側も、手を下す末端の人間も同じで、もっと言うと必ず命を失う攻撃命令に従って飛び立つ人も実は同じなのです。「死ぬのは嫌だ!」「殺すのは嫌だ!」と現場が反乱を起こすことが、他の国ではもっと起こっていたのかもしれません。
執筆者たちが繰り返し「自分はどうなんだろう」と自問したあと、最後に一様に「生命にかかわることだけはどんな命令でも空気でも流されてはいけない」と締めくくるのがなんとなく心に引っ掛かります。それは裏返すと「生命にかかわらない命令なら従うしかない、従っている自分をよしとしよう」ということに他ならないから。

いまあるNHKという組織の問題がこの本のトピックではないので、別の機会に振り返ってもらうことにして。日本に公共放送の報道番組というものがあって良かった、今と同じ組織や形態がベストかどうかはわからないけれど、存続させたいと私はずっと思っています。その時の政治家や役人が直接手を下せない、税金でなく視聴者が直接支払う受信料によって成り立つ組織があって、その組織の本分をまっとうしようと真剣に、かつ時間とお金をかけて取材することでしか、この本に書かれたことは暴きだせなかったわけなので。

この執筆者の中の一人に会って話を聞いたことがあります。このような番組にかかわるようになったのは偶然、と素直な驚きを語ってくれて、特別でなく私たちと同じ感覚の普通の人が、自分たちの身を削って、本当のこと、大切なことを届けようとしてくれていることが痛いほど伝わってきました。あなた方のおかげで、私は部屋でこの本が読めるのです。苦しい仕事をやりとげてくれてありがとう・・・という気持ちになりました。

以上。

January 02, 2012

岡田斗司夫+福井健策「なんでコンテンツにカネを払うのさ?」323

これも、twitterでいまフォローしている福井健策氏の新著。というか"オタキング"岡田斗司夫氏との対談です。
二人ともかなーり異端な意見の持ち主で、突っ込みどころも多いが思い切りのいい持論を気持ちよく展開してくれます。
副題が「デジタル時代のぼくらの著作権入門」。といっても入門書では全然ありません。むしろ大学院課程を終えたくらいの人が、思考実験サンプルとして読む本だと思います。
福井氏が、本だけでなく映像や音楽のすべてをアーカイブ化して、著作権者からオプトアウト方式で許諾をとる(これを有効にするにはまず法改正)という「全メディアアーカイブ構想」をぶちあげると、岡田氏は日本の全国民が株主になる「株式会社日本コンテンツ」を語りはじめる…。あるていど制度上の難しさがわかる人のほうが、壮大な夢であり大言壮語のこの話が思い切り楽しめるのでは?と思います。

この二人は、立場は違うけれど意外と考えもアプローチも似ていて、日本人にはむずかしい"大きなシステムをデザインして構築する"力のある人たちだと思いますが、意図的に人間の心理に触れてないからか、な~んとなく、自分が彼らの提唱する世界にぴたっとはまる気がしません。具体的にいうと、売上トップ100のすぐれた作家やミュージシャンと同じくらいすばらしいアマチュア作家やミュージシャンがたくさん存在することは知ってるけど、一般の人はいちいち1万人の本を読んだり音楽を聴いたりして選択するより、誰かが適当に選んでくれたものの中から選べれば十分なんだと思います。"キュレーターの時代″でも"目利きの力"でもいいし、それが中村とうようでも芥川賞でもロッキングオンでもいいんだけど、膨大な横並びのアーティストの中から、数個を選び出して提示してくれるものがふつうは必要な気がします。全アーカイブスができると、その中に「目利き」が必要に迫られて登場して、やがてそれがレーベルに似た役割を果たすようになって、それをマネタイズする必要が生じてきて、そのうち意外と今とかわらない世界になっていく気がします。

お金を稼ぐための仕事をしながら音楽を続ける…ということを、私もよくミュージシャン希望の人に薦めますが、実際のところは、2つのことに真剣に取り組める人ばっかりではないとも思います。聴く側はもっとそうで、もうダンスミュージックのコンピレーションCDで十分だと思ってる人もいるくらいです(私はとってもpickyなので、うそ~と思ってしまうほうですが)

多分わたしは何においても、「一般の人は、たいがいのことはどうでもいいと思っている」という考えなんでしょうね。私自身、ウルサイのは音楽くらいで、それ以外のことは割とどうでもいい人間だからでしょうか…。

いろいろ言ってますが、言いたくなるくらい面白い本で、考え方のヒントや著作権制度のOK/NGスレスレが見えてきて、考えるきっかけにもなります。なんでもかんでも、プラットフォームをアメリカのしかも一企業が決めてしまう世の中はイカンという二人の意見には、couldn't agree moreという気持ちです。以上。

January 01, 2012

フランク・カペラ監督「ヤクザvsマフィア」322

1993年作品。

原題は「American Yakuza」…このままでも十分わかりやすいし、実際ヤクザ対FBIが闘いのメインの映画なのでこの邦題はおかしいのですが。
ロードオブザリングのファンには、若きヴィゴ・モーテンセンが主役を演じた映画として知られているでしょう。私は、最近音楽活動を再開した元ARBの石橋凌で検索して見つけました。

ひとことで言うと、80年代ファッションやロックの影響を色濃く残した、ハリウッド製B級ヤクザ映画…です。
ところどころアクションシーンをはしょってコストを浮かせているっぽいところがあるし、全編B級の香りただよう、Vシネマな感じの映画なのですが、ヴィゴと凌が出会い、友情をはぐくんでいくという部分はよく描けています。刑務所から出てきたばかりのヴィゴも、アメリカで一旗揚げようとしているヤクザの凌も、義理堅く汚いことが嫌いなのは同じ。わざわざアメリカでヤクザ映画を撮るだけあって、この監督はおそらく親日派でヤクザ映画がお好きなのではないかと思います。FBIを裏切ってヤクザにくみしていいのか、と良識が問いかけてきますが、命を助けたもの、助けられたものどうしの友情は素直に胸にひびきます。

といってもやっぱりB級だなぁ…そんな元旦、今年最初の記念すべき映画がこれでした。以上。