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November 10, 2011

黒澤明「野良犬」303

今日のキーワード「野良犬って結局誰のことだろ?」

1949年作品。
新米刑事(若き日の三船敏郎)が満員のバスの中でピストルをすられてしまう。彼はとりつかれたように、すられたピストルを探して裏世界をさまよう。売人が捕まった後も、ピストルを借り受けた男は逃げ続けて犯罪を重ねていく。先輩刑事が自分のピストルで撃たれたことでさらに執念を燃やし、新米刑事はやがて犯人を追い詰めていく…。

感想:とても面白い映画でした。
映画の楽しみがたっぷり味わえる、という意味で。

まず役者さんが輝いてます。世界のミフネ、カッコイイ!当時まだ29歳、初々しく精悍な好青年です。ハリウッドスターみたい。志村喬は重厚で実が詰まってます。淡路恵子はまだ16歳とは思えない大人っぽさ。(しかしどうも黒澤監督の女性の描きかたは歌舞伎の女形みたいに非リアルだなぁ。よよよ、って言って倒れる、みたいな)
売人の女を演じたチャーミングな女優さんは誰だろう?と思って調べたら、うそ!!千石規子ってあのお婆ちゃん!?真剣に孫が出てたのかと思いました…が、そういえばちょっとエラが張った感じの輪郭とか、投げやりで気ままな感じとかが本人です。いやー驚いた。

それから、発展途上の匂いのする東京の風景がエキゾチックでゾクゾクします。
ちょうど今日テレビで、1949年の笠置シヅ子「ヘイヘイブギー」っていう曲をやってたのですが、底抜けに明るくて、そうかこういう歌がはやった時代だったんだ、と思いました。この映画の中にも野球場で実況中継をするシーンがあり、ちょうどそういう、テレビやラジオを通じて日本中のあちこちの隅っこで荒んでいた人たちが夢や憧れを育てていった時代なんだなぁと感じました。

黒澤映画って、時代を表すアイコンというか小物がたくさん入ってる気がします。言い換えると、監督って実は新しいもの好きの、流行を意識する人だったのかな?
「拳銃」でなく「ピストル」、それも「俺のコルト」というこだわりはルパン三世とかゴルゴ13とか、そういう西洋ふうの日本作品の匂いがします。ホテルに追い詰められた犯人が階段を下りていく足元だけの画面や、雨の中を逃げたために汚れた白い背広が振り返る画面は、ヒッチコックっぽいと思いました。そういうのは”西洋かぶれ”とは感じられなくて、監督が観客を楽しませようとしていろんなものをどんどん取り込んでいく努力だと感じます。

DVDのボックスセットが数万円で売られる「巨匠」とそれ以外の名監督を区別するものは何なんだろう?黒澤作品をちゃんと見直す前は、「それは三船敏郎というすごい俳優や、三船敏郎的な、血を吸って黒光りする悪党のギラギラ感では?」と思ってたんだけど、こういう高いエンターテイメント性も重要なのかもしれません。

ちなみに…ピストルを盗んで行う犯罪は1970年「裸の19歳」にも出てくるし、1961年の今村昌平「豚と軍艦」でもライフルを撃ちまくるシーンがあるけど、銃が自由を奪取するためのブレークスルーの象徴だった時代はそのあたりまでだったのかもしれません。今はむしろ、どこにでも手に入るもので人を殺める事件のほうが目につきます。もうピカピカの武器を手にすることに誰も夢を見なくなって、道具を使ってあっさり目的を果たしている。そういう時代も映すんですよね、映画は。

野良犬ってのは、飢えたように盗まれたピストルを追う新米刑事?根っこがなく、強い自分になれる夢をみてピストルを手にしたけど、迷走するだけの犯人?などと考えながら見るのも面白いかと思います。以上。

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