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September 2011

September 27, 2011

小津安二郎監督「小早川家の秋」287

1961年作品。日本って美しい国だな。と日本人でも思う映画。
3姉妹(未亡人の長女に原節子、次女に新珠三千代、縁談を断りつづける末娘に司葉子)とその父(中村鴈治郎)をめぐるひと秋のできごとを、テレビのホームドラマのようにさりげなく描いた作品です。

鴈治郎さん「浮草」の続きみたいに、この映画でも愛人宅に通います~。この映画でも、ニカ~ッと笑う、人の善さそうな笑顔がステキです。

小津作品の女性は、ほかの男性監督の例にもれず、ステキすぎてリアルじゃないのですが、"女性から見て好ましい品の良さ"があるんですよね。玉三郎的。「司葉子いいわね。あのワンピース、素敵」なんて会話を当時の女性たちもしたんじゃないかな、と思います。(この映画はカラーです。)彼の映画の女性たちは、前向きでまっすぐです。賢く、毅然としています。

ここでふと、「女性が描く、ステキすぎなくてリアルな女性」ってたとえば?…女性監督の映画はまだ一つも見てませんが、女性が原作の「もう頬づえはつかない」の主人公まり子とか?                                        
今村昌平の「豚と軍艦」は同じ年に作られた映画なのですが、並べてみると、古き良き美しき日本に対する思いが対照的です。
アメリカ人と遊びにでかける娘やその家族のシーンが、どちらの映画にもあって、どちらでも家族はそれを止めないんだけど、「小早川」では現代的で冷たい娘として描かれているのに対して、「豚と軍艦」ではしたたかに生き延びていく道の一つだと感じます。

本筋とは関係ないけど、原節子ってゲルマン系だよなぁ。男顔でいかついけど圧倒的に美しい。いつも、この人がもっと腹から声を出したらもっと迫力があるのかなと思う。力を出し切ってないような印象がなんとなくあります。優しいけど本当はきっと力が強いんじゃないかなぁ、とか。wikipediaによるとご健在のようですが、引退して久しいので、いまどんなに美しく年を重ねられているか、見てみたいなぁと思ったりします…。以上。

September 19, 2011

デイビッド・イェーツ監督「ハリー・ポッターと死の秘宝パート2」286

私だってこういうのも見るんです!
というより、かつてはこういうのばっかり見てました。
このシリーズはほとんど劇場で見てます。
公開が7月15日、今日は9月19日だからもう2カ月以上、しかも3D上映を続けてるわけですね。すごい。

私こどもの頃から特撮もの好きでSF好きで、スターウォーズの最初のも劇場で見て大いに盛り上がりました。ハリポタシリーズはさらに私の好きなイギリスが舞台で、私の好きな魔法や妖怪の世界ですから。

キャラクターも魅力的だしストーリーにヒネリもある。ただ、この最終回に関しては、もはやストーリーはあと最終決戦と大団円を待つだけなので、キルビル2よりも期待はありませんでした。見たいのは3DCGのすごい画面。そして、この子どもたちが非情で厳しい戦いから解放されるところ。感情移入しすぎかもしれないけど、選ばれし者として試練にさらされ続ける彼らがふびんでふびんで…。
最後まで見届けることによって、自分がやっと解放された感じです。でも、こういう「絶対悪」をやっつけてセイセイした気分で映画館の外に戻っていって、なんとなく同じような巨悪に見えた大きな組織の人たちを糾弾したりしないように気をつけたいと思う…。現実の世界は、自分たちと同じくらい弱虫な人がたくさん集まって虚勢を張って形作ってるんじゃないかと思います。ピンポイントで攻撃するより、バラしたほうがいいのでは……なんて…

ともあれ機会があったらシリーズ全部通しで見てみたいな。あまりがっかりすることなく最後までハラハラドキドキ楽しませてもらいました。

って感想にも紹介にもなってなくてすみません。今日はこの辺で。

September 18, 2011

斎藤光正監督「戦国自衛隊」285

なんでこれ借りちゃったんだろう?思い出せません。何か別の映画と間違えたのかしら。

なんか…仮面ライダー見てた子どもが大人になったような映画でした。(おっと、私も見てたけど)
とにかくバイオレントでエロでメカニカルで、男の人のそういった欲望をもっとも純粋な形でそのまま形にしてしまった映画のひとつ。自衛隊が怒っても無理はないし、原作の半村良も驚いたんじゃないかと思います(いや、半村良ってち密だけど荒唐無稽が嫌いじゃなさそうなので、意外とうけたかも?)。

むちゃくちゃな映画の良さとか楽しみってのもありますが。この映画はそういう、個別の戦闘とか欲望のぶつかり合いとかのシーンを楽しむ分にはいいのかもしれませんが。

自衛隊側の千葉真一と戦国武将の夏八木勲には、人を殺すたびに迫力を増していく肉食獣的なギラギラした魅力がたしかに感じられます。

しかし戦国時代ってのは確かにこの国に過去にあったことで、この人たちの子孫の多くが今「草食系」とか言われているのが嘘のような気がしてきます。大多数は農民で、サムライの子孫は少ないのでしょうか。どの時代にも、できるだけ大物になりたいと思う若者はいるわけで、今の時代はそのような人たちはITとかバイオとかで一攫千金とか言ってるのでしょうか。

音楽の当て方がなんかすごく変。昔のテレビドラマみたいです。
さっきまでバタバタ音を立てて戦っていたのに、戦闘シーンの途中で急に静かな音楽が流れ出したりします。歌のある曲もあるし、ない曲もある。曲調に一貫性は感じられません。
うう~、あまり感動しなかった映画の感想を書くのってむずかしい、というかつらいですね。
今日はそういうわけで、このへんで。

September 17, 2011

今村昌平監督「うなぎ」284

1997年作品。そのとき監督71歳。
カンヌ映画祭で最高のパルムドール賞を受賞した作品です。すげ~。

この映画前に見たことがあると途中で思い出しました。TVでやってたのかな?たぶん10年くらい前に、特に見ようと思わずに見たのではないかと思います。
あらすじ:妻の不倫を告発する手紙を受け取った男が、その現場を目撃してショックの中で妻を殺害する。出所後男は保護司のもとで床屋を始めるが、妻に似た女が近所で自殺未遂をして、そのままそこにいついてしまう…。

主役は役所広司と清水美砂。カラーだけど色がうるさくない映画です。いくつか印象に残る色があるだけ…女が睡眠薬を飲んで横たわっている場所の花の薄紫と赤いコート、彼女が摘む桃色の花、母親がフラメンコを踊るときの赤い衣装。病院みたいに白一色の床屋の、ペパーミントグリーンのペンキを塗った椅子や窓枠…くらい。それ以外は色が識別できるくらいの色づけ。白黒ではない程度の色味。音もうるさくないです。全体的に昼寝のあとのような静かな幸福感があります。人殺しの話なのに。なんか高齢の監督の作品にこういう空気があるものがありますね。エンディングを見ながら、円熟の作品だなぁと思いました。らせんのようなひもが、丸くつながって、回りながら続いていくような感じです。

この、役所広司が住んでる小さい家や、真っ白い床屋が、なんかすごく好きです。ここに住んでこの床屋で暮らしたい。つつましく身の程を知った暮らし。

だけど、今村昌平の映画ではみんな、「人は自分のなかに化け物を飼ってる」のが前提のような気がします。
映画を見るのはテレビドラマを見るのと同じくらい楽だけど、映画のほうが人の生き方を責任をもって描ききろうという気概があるので、見ている自分も真剣になります。
そうやって見ているうちに、自分のなかの超自我=スーパーエゴが、化け物を押さえつける手をゆるめて、少し化け物が楽な表情に変わってきます。

今村監督が人を見る目が「温かい」とは思いません。好奇心でギラギラしていて貪欲です。でも食い入るように見つめていると、人の奥からは生温かいものがあふれ出してきます。大真面目になればなるほど、どこか滑稽でもあります。

この映画は「殺人犯が、出所後出会った女性とふれあうことで人を愛することを思い出す」みたいな教訓めいたところが何もないところが魅力です。役所広司があまりに生真面目で、「殺人は悪いことだ」という印象すら持たせません。凄惨な殺害場面もあるのに。いいことも悪いこともすべて、ゆるやかで温かい川の流れに乗って流れていく…。つまり、これはもう教訓を必要としない、人生を一回あきらめたり投げ出したりしたことのある大人が見る映画ってことですかね。

清水美砂の声が今日もカラっとあかるいです。男性監督の描く女性像は単純でいいですね。あんな風に疑わずに人を愛せたらどんなに楽でしょう。
この映画で印象に残る役者さんは他にもたくさんいて、常田富士男の住職さんは単純で善良な感じがいいし、柄本明のイヤったらしい小悪党っぷりも最高だし、田口トモロヲのバブルな感じも気持ちいい。

さて。3連休だし、今日もでかけます。以上。(←映画ばっかり見てるひきこもりじゃないよ、というアピール)

September 16, 2011

中島徳至「ほんとうのエコカーをつくろう」283

既存の自動車を電気自動車に改造して販売する事業をやっていたベンチャー企業が、郵便事業会社から契約を打ち切られて破産した、という事件を覚えていますか?これは2011年3月4日に自己破産を申請したその「ゼロスポーツ」の創業者社長である中島氏が、一番希望に燃えていた2010年11月に書いた本です。郵便事業会社から1000台の電気自動車の発注を受けていたのですが、契約を解除されたのが1月、その後解決策を探すのを断念して全社員を解雇したのが3月1日、そして4日に破産。3月はじめにはネットのあちこちで議論されていましたが、その直後の大震災で、あっという間にネットからこの話題は消えました。

ゼロスポーツは自動車部品の販売、オリジナル部品の開発製造などを経て、電気自動車の製造販売を始め、その分野では先進的な技術も持っていたようです。私が初めて買った車、日産マーチはちょうど100万円でしたが、最新最速のノートPCが25万という時代に、あれほどよくできたコンピューターが、しかも車つきで100万円とは安い!と妙な感慨をもったのを覚えています。…それくらい、今の車は電子制御されているってことです。しかしコンピュータの世界の人間から見ると、熱や振動や揮発物など、あれほど苛酷な稼働環境はありません。さらに、ハイブリッド車となると電気自動車+ガソリン車+発電機の機能をすべて制御しなければならないわけで、そこまで複雑なシステムになると、いくら垂直統合型で販売後一切いじらないとしても、かなりの危険性をクリアしなければならないことになります。

一方、中島氏によると、ガソリンを使わない電気自動車は構造が簡単で、ガソリン車とは全く別ものだそうです。そう聞いて、子ども用のゴーカートとかゴルフ場のカートのようなものかなと思いました。あれは極端に単純な例かもしれませんが。…とにかくガソリンという揮発物を積まなければ爆発炎上のリスクはかなり減るし、エンジンがいらなくてモーターだけなのでシステムはシンプルです。あとはバッテリーの問題なのかな…。ノートPCやスマートフォン用のバッテリーは1年もたたずに容量半分になっちゃうし、重量もかなりあるので。えーと、システムの詳細はともかく、電気自動車はエンジンが心臓の従来のクルマではなく、走るためのモーターを制御する大きな電気器具である。そのため、今までの自動車業界とはまったく違う業界のしくみや社会インフラが生まれてくる。…と私はこの本で理解しました。

そこまで理解した上で、この会社の成長と破産をどう見ればいいのか?
ネットでは、郵便事業会社の横暴だとか、既存の自動車業界の圧力だとか、さまざまな意見が飛び交っていました。このベンチャーには注文に応える実力がなかった、と言う人もいました。どちらの意見も極端でした。実のところ中島氏から直接話を伺う機会もあったのですが、コチラ側からの情報だけなので、見えそうで見えないことが多く、いったい本当のところ何が起こったのか?ということが全体としてはつかめません。本当のことが洗いざらい表に出てくる日は来るのでしょうか…自分から暴きにいくしかないんでしょうか。5年くらいは待たないと誰も本当のことは話してくれないでしょうか。

日本にベンチャーを育てる実効のあるシステムがないのは事実で、地位を確立した会社や人が、自分より若く小さいものを育てたり取り込んだりするより、自己保身に走ることによってつぶしてしまうことがあるのも事実だと思います。

でも、あきらめてほしくないな…。自分としても、日本はダメだ、シリコンバレーで改めて起業したほうがいい、みたいな逃げの結論に走ってしまいたくないです。ううむ。むむむ…と歯切れ悪く今日はおわります。以上。

September 11, 2011

篠田正浩監督「乾いた花」282

ほんとは今日こそハリポタを見るつもりだったのに、行ったら入れなかったので、帰ってきて今日も日本映画を見ます。

1964年作品。
加賀まりこが演じる、シャネルかディオールでも着込んだ怖いものなしの美少女が、唐突にとばく場にいる。一切の背景説明なし。で、刑期を終えてきたインテリやくざの池部良が、そこに現れる。彼は彼女に強く惹かれる。彼女は刺激に飢えていて(「もっと大きな賭けができるところに連れて行って」)、やがて麻薬にも手を出し…。

けっこうリアルな感じの賭場やうらぶれた街とかが舞台なんだけど、人間関係がタイトル通り乾いていて、なんかとてもクールな映画です。乾いているというのは、義理人情の話があんまり出てこなくて、人と人がみんな距離を置いている。主人公の二人が非常に強い自我を持っていて誰にも流されない。乾いているから怖いという感じもない。・・・という感じです。

乾くというのはドライでクールということでもあるけど、満たされない激しい渇望のことでもあります。この映画の主人公の二人は、その両方の意味で乾いています。2回見たら、二人の虚無感がもっと強くひびいてきました。守るものが何もなく、空洞しか持ってないから、より強い大きい刺激が必要になってくる。空っぽだから、外から刺激を受けて反応する自分しか実感できない。

男はやくざというわかりやすいバックグラウンドなんだけど、女の方は、あれだな。パリス・ヒルトンだな。まだ20歳そこそこだけど、お金で買えるものはもう何でも持っていて、欲しいのはお金で買えない何かだけ。…そう考えると稀に現実にも存在する人物だと思えてきました。

ちなみに原作は石原慎太郎。この人の書くものって登場人物が強い人ばっかりなんですよね。現実にいたら人の言うことをきかない大変な石頭だろうな、という。文章は短く断定的で、はなから人の批判なんか聞くつもりナシ、という感じ。でも心にひびくものを書く人だと思います。しかし…人間にはこういう退廃の部分もぜったいにある、ということをわかった上で都知事なんて仕事をするのは、裏と表の両立不可能で無理が生じたりしませんか?

ところで賭場ってほんとにあるのかな~。このお客さんたちはいったいどこから来たんだろう?カタギに見えるけど、どっかのお金持ちなのかな~。スリルを求めて生き急ぐのってちょっとうらやましい気もします。

それにしても池部良はステキですね。母が昔ファンでした。知的で分別もある、大人です。でもどこかナイーブで、真っ当なゆえに胸の中にからっぽなものを抱えている。…この映画のときすでに50歳近いのですが、私の中のイメージはその後もこの映画の姿の通りなのが不思議です。

そういえば、私は70年代の東京やロンドンの都会の遊び場ってのに、小さいころずっと憧れてたのを思い出しました。退廃ってカッコいい、みたいな。だんだん現実に追われて退屈な大人になってしまいましたが、老人になったら無茶してみたいなー(←ハタ迷惑もいいとこ)。
ってとこで、今日はこの辺で。

September 10, 2011

今村昌平監督「豚と軍艦」281

1961年、今村監督35歳のときの作品。ジャケットが秀逸で、ジャケ借りしました。
長門裕之演じるチンピラやくざの欣太は、ひと稼ぎして恋人の春子と所帯を持とうと考えています。でもヤクザの世界は裏切りに次ぐ裏切り。…春子は一人、街を出ていく。

ってなストーリーです。しかし2回見ても巻き戻しながら見ても筋がわかりにくい。解説サイトをいくつも見て、やっとだいたいのことがわかりました。私は2回流し見ればわかるくらいの簡単なのがいいです…。

ところで、私「私立探偵 濱マイク」の世界が好きで、世の中に背を向けて堂々と好きなことをして生きる感じに憧れてシリーズ全部レンタルして見たものでした。もう10年以上前の話。この映画にもあのような世界観を期待してたところがあります。でもなんか根本的に違うのは…
多分、儲からなくても自分で探偵事務所をやってる「濱マイク」と違って、長門裕之は会社員と同じように上の言うことをきいて陰で悪だくみをして、女の前でカッコつけて…と、要はカッコよくないのです。

でも、カッコ悪い欣太が逆上してライフルを撃ちまくるシーンは、熱い。豚の群れの中で、撃たれても撃ちまくるカッコ悪い彼が急に輝きだします。50年前も今も、若者はちょっとばかで、カッコつけたいけどつけきれずに、エネルギーをもてあましたりしているんだな。

豚の大暴走に巻き込まれた怪我人と一緒に、タンカに載った豚が運ばれていくのがおかしいです。しかしこんな映画、今なら動物愛護なんとかで撮れないだろうな、というか、ベイブみたいにCGで撮るんだろうな。

ラストシーンで、米兵たちにシナを作って手を振る女たちの反対側に向かって一人で歩いていく春子がすがすがしいです。昔の映画を見ていると、女たちやその親がお金目当てに米兵のオンリーになることを勧めていたり、宿でおかみが普通に泊まり客に「女の子呼びます?」って訊いたりするシーンが出てきます。意に沿わない人も多かったんだろうけど、今の感覚で彼女たちを被害者とするのって正しいのかしら、と感じたりもします。。

恋人の春子を演じた吉村実子は17歳、この映画がデビュー作。(このあと「鬼婆」では若い娘を演じました。)今なにやってる人?というと、NHK朝ドラ「おひさま」で主人公陽子の嫁いだ「丸庵」の近所に住む、ケンカばっかりしてるおばさんの一人です。
ふーん、というくらいのプチ情報かもしれませんが… 今日はこの辺で。

September 06, 2011

ジョナサン・サフラン・フォア「ものすごくうるさく、ありえないほど近い」280

前作「エブリシング・イズ・イルミネイテッド」で強烈な印象と、一生忘れられない痛みを私の中に残してくれた若いアメリカのユダヤ系作家のことを、ずっとwatchしていました。
ずっと待ってた新作が出るというので、発売前から予約してたけど、届いてみたら前作にも増して読みにくくて、旅行中の時差ぼけや待ち時間のおかげでやっと読み終えました。(トム・ハンクスとサンドラ・ブロックというありえないほどハリウッドスターなキャストで映画化されるらしいので、読むのが辛い人はそっちを見るといいかも。でも、どうなんだろう)

表面的ななぐさめなどでは絶対に解決できない、ほんとうの深い痛み。戦争や災害の被害者を、たとえば「合計100万人」と呼ぶのでなく、「xx村のxxさんは、このように生きてこのように思い、そしてこのように死にました」と描いてほしかった、という想いが前作を書かせたのかな、と今は思います。津波で流される街を何度も何度もテレビで見せつけられた後だから。(新藤監督も「一枚のハガキ」でそういう思いを映画にしてましたが、まったく違う方法論が興味深いです)

そういう痛みをどうすればいい?解決はできないけど、寓話にすることで、思い出したときの痛みを少しやわらげることができるのかもしれません。

今度の本では・・・
911で父親を亡くした少年が、心に深い痛手を負ったまま母親と二人で暮らしています。母親に言えない秘密を胸に隠したまま、父が残したなにかの鍵にぴったりの鍵穴を探して、ニューヨークじゅうを歩き回ります。その中でたくさんの大人たちに出会い、自分の祖母や祖父にも出会い、母とも出会いなおします。彼の心の旅はどんな結末を迎えるのでしょう…。

著者はまだ34歳。恐ろしい若手、と呼ばれてますが、改めて考えてみると、若い人が書くものが未熟だと決まってるわけじゃありません。25年なら25年生きて考えてきたすべてを力いっぱいぶつければいいわけで、50年の作家が慢心して手すさびに書いたもののほうが未熟である可能性もあります。自分の持てるものに不満を言うひまがあったら、未熟なりの100%を出せばいいんだ…と気付きました。

本が読みにくいのは、かなりユニークで感受性の強い少年が一人称で語るから。語り手がどんどん入れ替わるから。(前作と同じように、少年の祖父母が彼らの若いころからのことを一人称で語る章が交互に入ります。)少年が置かれている状況を理解するのが難しいから。(鍵って何なのか。出会う人たちは誰なのか。なにか伏線があるのか、ないのか。)etc.

前作よりは結末に救いがありますが、それは本当に未来が明るいからなのか、それとも絶望が深すぎて光のようなものを置いてやらないとだめだと著者が思ったのか。

解説するのが非常に難しい作品なので、よかったら読んでみてください。500ページ近くありますが。。。

「エブリシング…」との共通したメッセージは、「受け止められる限界を超える痛みをもってしまったときに、救ってくれるのは想像力なんだ」ということなのかな。と、私は受け取りました。次の翻訳書も出たら買います!以上。

September 02, 2011

伊藤俊也監督「女囚701号 さそり」279

和製KILL BILL。…うそです、あっちがアメリカン・サソリ。
(ご存じない方へ:この映画はクエンティン・タランティーノのFavoriteで、キル・ビルでもこの曲のテーマ曲「恨み節」が流れてるくらい。自分を裏切った男への復讐が中心になっているところも、眼光鋭い美女が切りまくるのも、この2つの映画には共通点がいっぱいあるのです)

1972年作品。新藤作品ばっかり見てて、すっかりマジメになった頭にドカン!ときました。合成着色料で舌が真っ赤になる氷イチゴを一気に食べて脳天にキーーンと来た、みたいな。

70年代の劇画と聞くと「怖い、暗い、大人の男の人の読むいやらしいマンガ」という印象です。小さいコドモの頃、病院の待合室とかで本がそれしかなくても手をつけなかったジャンルです。こんなに好奇心の固まりの私でも。…だから、KILL BILLは全部見たのにこの映画をみる勇気がなかなか出ませんでした。

始まったら、やっぱり「ひどいなこれは」。(こんな言い方で本当にごめんなさい)
だってものすごく美人で若い女囚たちがみんな裸で歩かされたりしてて、警官たちがマジメな顔して叩いたりするの。まさにあの頃の恐ろしげな劇画の世界です。

でもこの映画には、三流の部分もあるけど、超一流の部分も確かにあります。中間がない。このバランスの悪さはいったい何なんでしょう?

女優さんがみんな良くて、囚人服も絞り染めでとってもオシャレなのですが、なにより梶芽衣子が世界映画史上に残るヒロインなのです。タランティーノが夢中になったのも、なるほどです。細い少女のような体つき、顔立ちもあどけなさ半分だけど、眼にこもった恨みの炎が、ときに真っ赤に燃え盛り、ときに真っ白く冷え切って、この美しさといったらありません。

終盤の「恨み節」だけをバックに、黒いつば広帽子、黒いコートワンピースのようなものをぴったりと着込んだ「さそり」が、必殺仕事人のように仕事を片付けていく絵は本当に秀逸で、MTVアワードが取れそうなくらいです。

最初は男の欲望の映画のようなので、DVDを借りても最後まで見ない女性も多そうだけど、むしろ最後だけ見てください!カッコいいから!

しかし本当にKILL BILLってまんまですね。めちゃくちゃでありえなくて暴力的でおもしろい、という性質からして。日本のマンガ文化ってなかなかすごい気がしてきました。この映画はタランティーノ好きの日本人ならmust seeといっても過言ではありません。タランティーノは何本か見たけど、KILL BILLに関してだけ言うと、「さそり」のほうがずっと素晴らしいと感じる箇所がたくさんあります。

この映画の監督ってどんな人なんだろう。忘れられそうになっている原作のマンガはどんな絵だったんだろう。…もうちょっとググってみたいと思います。以上!