« August 2010 | Main | October 2010 »

September 2010

September 23, 2010

藤田紘一郎「パラサイト式血液型診断」226

血液型でみる性格判断とか運勢って、いい加減で信用できない!と思う一方、「アメリカの先住民のほとんどがO型」なんていう統計上の事実があるところをみると、科学的に分析しうる分野なのかも?とずっと思ってました。

著者は寄生虫学、熱帯医学、感染免疫学を専門とする医学博士。だから話はその分野に限定的なんだけど、その範囲内では実験や経験に基づいた、それなりに確からしい自説が展開します。

そもそも血液型って何?というと、いわゆるABO分類というのは赤血球の表面の糖鎖の種類による分類で、その糖鎖ってのは実は人間以外の動植物にもよく見られるものらしい。そしてその糖鎖は、同様の糖鎖をもって人間の体内に入ってくる細菌や寄生虫によって影響を受けるものらしい。そこから著者は、「人間はもともとすべてO型だった。体内に入り込み、増殖した細菌によって、A型、B型、AB型ができた」と仮説をたてます。その立証までは行っていない、というか、過去のことなんで証明しようがないのかもしれません。

で、血液型によって性格にちがいがあるかどうかを検証する前に、血液型による感染症のかかりやすさを検証した記録をみると、これは有意な差が実際にあるらしいです。たとえばA型はさまざまな感染症にかかりやすいが、ペストとコレラはO型がかかりやすい。そのため大流行があった国々ではO型の比率が減っている、といいます。

そこまではいい。しかし、「A型は感染症に対する恐怖から、用心深い性格になった」というのはちょっと飛躍があります。感染症以外の病気の罹患率等々、MECEなかんじのデータがもっとあったら面白いんだけどなぁ。そこまでこの著者に求めるのは無理だと思うので、学際的な研究を誰かやってくれるよう望みます。

ところでB型ってインドで一番多くて40%もいるらしいです。日本や韓国は多いほうだけど、南北アメリカとオーストラリアではかなり少ないらしい。著者は血液型と民族移動の相関性を立証しようとして、しきれなかったそうです。それは人口比率は後天的に(前述の感染症とかで)変わるから、という事情もあるんでしょうね。

あまりその後進んでないようでもありますが、血液型の科学的な分析は、今後もWatchしようと思います。以上。

ジョージ・ソウンダース「パストラリア」225

だいぶ前に書評で読んでから、いつか図書館で借りて読もうと思ってました。やっと行けたので借りてきた。

感想:
入り込むのに時間がかかった。文体は伝統的なアメリカ文学スタイルなので、これから読まされるのがポーみたいにペシミスティックなのか、Good old America風なのか、つまり覚悟して読むべきか安心して読んでいいのかがわからなくて。

登場人物はみんな伏字寸前の悪態をついてばっかり。文体は端正なのに登場人物は下町っぽい。それが不自然に感じられないのが不思議。あとがきによると、作者は労働者階級のコミュニティで育ったらしいというので、ちょっと納得。

40過ぎても親と暮らしている風采の上がらない独身の中年で、貧しくて生活に追われていて、人をうらやんだり恨んだり。・・・というのが典型的な主役像。彼らは悪態をつきながら、かわいいけど大きすぎる女の子を好きになったり、そんな自分や彼女にまた悪態をついたりしながら、それでも心のなかに温かいものをちゃんと抱えて生きている。”そんな彼らを見つめる作者の目は、かぎりなく温かい”。・・・あれ、どこかで聞いたようなことば。これは日本の時代小説の帯に書いてあったことばかしら。

登場人物は、逆玉の輿に乗ったり、心を入れ替えて聖人君子になるわけでもなく、仲間に囲まれていままでどおりの暮らしを暮していく。照れながら恋をしたり、失ったやさしい叔母を思ってみんなで泣いたり。。つられてちょっと涙ぐんだりする。舞台がまったくちがうけど、視点が山本一力とかに近い気がする。これが現代アメリカ文学の注目株なんだねぇ。いまの日本の新進気鋭の作家はみんな、おそろしく虚無的で無機質だけどね。(アメリカ文学もそういう時期あったと思うので、日本文学もそのうち流れが変わるのかな。

あまり刺激はなかったけど、よい短編集だし、国と文化を知るのにも良い本でした。

September 03, 2010

石井裕之「ダメな自分を救う本」224

人からもらって、帰りの電車で読んだ。

セラピストの著者が、目の前の誰かに向かって話しかけるようなトーンで、自分や自分がセラピーをした相手がどのように自分を好きになり、大きな心を持てるようになったか、語る本です。

著者の思いやりが伝わってくるあったかい本です。ありきたりのテーマの自己啓発本、なのかもしれないけど、書いてあることは正しいし、軽く読める分、ドツボから抜け出せない人が第一歩を踏み出す機会を広げてるかも。

「人は、その考え方の通りの人生を生きることになる」。ダメな自分をイメージしている間はダメでない自分にはなれない。心が凝り固まってしまって、抜け出し方がわからない人には、よい本かもです。

しかし心地よい引きこもりの心から抜け出すのは、朝布団から出るのと同じくらい難しいもんだ。ぱっちり目覚めた自分をイメージできるよう、がんばってみよう。

以上。