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August 2010

August 31, 2010

鹿毛丈司「最新音楽著作権ビジネス」223

一口に著作権と言っても、モノが違えば法律も違う。

テキストデータやコンピュータープログラムなんて、単純なほうだったのです。
原盤権って何よ?なんで著作者以外のレコード会社や放送局が、著作権法で特別に定められた権利を持ってるのよ?もうその辺、オリジナルをクリエイトした人に対するリスペクトとか当然の対価とかの世界を超えて、商売としてやっていくための規定になってるんですね。流通に関してはすべて契約で好きなように決められるようにしてくれればよかったのに。

その程度の知識と意識しかない私にとって、こういう本はまず入口に立つために必須という感じです。ただ、この本はヤマハから出ていて、著者もレコード業界の人なので、インディーズとかCreative CommonsとかGPLとかの人が読むと、”この業界ってなんか搾取してるっぽい”などと感じてしまうのかもしれません。

搾取というよりは、規定しすぎて自分たちの首も締めてるかもしれない。流通コストがゼロに近くなっていって、楽曲の著作者=著作権者=実演家=レコード会社=放送業者になった暁には、まったく違った権利が主張されるようになるのかもしれません。

その道の権利処理で食っていくためには、この本の事例だけでは全然足りません。場数&知識を増やす努力を続けていきます。以上。

August 14, 2010

村上憲郎「村上式シンプル英語勉強法」222

いま、社会人の英語学習法に興味を持ってるので、参考に買ってみました。
思い返せば私自身、小さいころは自転車にも乗れないし雷が怖いし、泣き虫で人見知りで大変な臆病者でした。大きくなってからも飛行機苦手で外人大嫌い、仕事で外国行くなんて冗談じゃない、とわだかまってる娘でした。

でも、そのわだかまりがバネになる。非常に負けず嫌い(わだかまっちゃう人にありがちな性格)だったので、なにくそパワーでむちゃくちゃやってるうちに、いつの間にか平気になったこともたくさんある。今はもう雷も飛行機も英語もなんともありません。

この本は、これだけ読んでも語学力は身につきませんが、社会人の先輩が、自分にとって英語を学ぶ上で本当に大事だったことをもったいぶらずに親切に後輩に教えてあげている本です。時間をかけて苦しい思いをするしかないんだけど、苦労のしかたにはポイントがある。それを説明してます。

印象に残ったポイントをいくつか。
・300万語、小説にして約30冊読めば、英語が英語のままで読めるようになる。(p32)
中学の頃、子ども用の英語教材を買ってみたけど、ぜんぜん読み進めなかった。・・・いつちゃんと読めるようになったんだろう。大学は英文科だったのでかなり読まされたはずだけど、やっぱり就職して、仕事として翻訳をするようになってからじゃないかな・・・。私が心がけてたのは、「話すスピードで訳す」こと。時間制限がないからゆっくりできるなんて思ってやってると、いざ会話や通訳をするときに間に合わないと思って、訓練のつもりで「速訳」(いま考えた)をやってました。自慢か私。

・英文の出だしは12種類しかない(p49~)
これ私わかんないです。なんでわざわざそんな数えかたするんだろう。12個も覚えるの面倒じゃないのかな。SとVを探して読むのがキモなのはわかるけど。理系の人にはピンとくるのか。

・自信のないやつは中学の教科書を読め(p58)
基礎英語をやり直す、というのはこれに近いかもしれません。基礎英語は分量が多すぎるかな?

・1万語覚えるなら、1日50個でなく毎日1万語を眺めろ(p64~)
極端にも見えるけど、これ共感します。単語って使わないとすぐ忘れちゃうから。(人の名前とかもそうでしょ。)

・『英絵辞典』を使え(p74)
単語にすべてイラストがついている辞典を眺めろ、といいます。これも良いですね。「毎日出会う」のは効果ありそうです。

・リスニングのほうの閾値はトータルで1000時間(p92~)
単語の暗記や読解とリスニングは別物、というのもその通り。仕事で使うにはリスニングとスピーキングも必須です。

話すほうについては、ビジターアテンドを進んでやったとか、自己紹介文を100個作っておいた、という話だけで、コミュニケーション力アップについては触れてません。相手から真意をくみ出す、といった部分は興味がないのか、語学力ではないとして触れていないのか。ここを切り捨てるやり方も一つの手法としてチェックしておくことにします。

・エンタメ英語、ゴマスリ英語を恥ずかしがらない(p138~)
これ共感するなぁ。下手な英語でなんとか受けようとしている自分って、これほどみっともないことはない。そんな自分が嫌いで、どんどん落ち込む。でもみんな同じなんですよね。そこをあまり気にせずに、それでいいからどんどん話そう!・・・先日とある勉強会で、自分が以前英語ですごく苦労した話をしたら、いつもとってもエラそうで自信満々だった人が「そうなんだよ!俺も死ぬほど苦労したんだよ!」ってすごく共感してくれたのが、私はとっても嬉しかったのを思い出しました。語学に必要なのは、仲間の励ましとか慰めなのかもしれません。。。。

とりあえず、以上。

August 11, 2010

桂歌丸「極上 歌丸ばなし」221

この本は渋いよ。新宿末広亭で入手したサイン入り本を人にいただいたものです。発行元は「うなぎ書房」(笑)。私は特別な落語ファンでもないし、ちゃんとした噺を聞いた経験は数えるほどしかないけど、歌丸さんは私の一番好きな落語家です。(その前は桂枝雀さんが好きだったなぁ。)

この本で歌丸さんは、聞き手を相手に自分の生い立ちから落語家としての修業、今に至るまでの道のりを語ります。「軽妙洒脱」という表現は歌丸さんのためにあると思う。粋で清潔で軽くて色気がある。知的で紳士的。

彼はとある歓楽街の遊郭の家の子として生まれ育ったのだそうです。「遣り手ババア」と呼ばれた祖母と彼と遊郭に出入りする人々の生き生きとしたエピソードが、まずかなり面白い。

落語家になるのを決めたのは14歳のとき。1年後にはもう入門し、わりあい師匠に可愛がられたけれど、ちょっとした行き違いからそこを飛び出してやがて別の新しい師匠につく。最初は新作ばかりやっていたけど、その後は古典の面白い話を発掘してアレンジすることに専心するようになる。・・・落語の団体は複数ありますが、老舗のひとつ「落語芸術協会」の会長を2004年から務めている・・・というのが、この道に進んでからのあらまし。

聞き手の山本進氏は、歌丸さんのファンでもあるのかもしれないけど、つとめて彼を客観的に噺家のひとりとして語ろうとしている印象です。だから私も、珍しく「大好きな歌丸さん」ではなく「歌丸という一人の噺家」として離れてみている。

そうして見ても、やはり彼は清潔であかるい人だ。たぶん家で家族といても、仕事で人と会っていても、あのあかるい目をしていて、きたないことなど決してしないんだろう。・・・でもそんなことどうでもいいのだ。ミュージシャンも俳優も自分たちとあまり距離を感じなくなってきているいまの時代だけど、落語家ってちょっと特別な感じがする。今でも長屋に住んでるんじゃないか、なんて思ってしまう距離感がある。

だからこの本は読んでも読まなくても、私の歌丸さんの芸に対する気持ちは変わらない。ただね、近いうちにまたライブで聴きたい!とやけに強く思いました。
以上。

August 08, 2010

道尾秀介「向日葵の咲かない夏」220

「トップランナー」にこの著者が出てるのを見て、こういう人が書くのはどんな小説なんだろうと思って読んでみました。

感想:
なるほど。辻褄が合っている。と思う。人間の心の弱さ、いまの世の中の生きにくさ・・・人間の身勝手さ、流されやすさ・・・。切ないし苦しいし、涙ぐんだり身につまされたりしながら読んだけど。

でもどうなんだろう。あれだけビッグマウスな青年が我を張って「作家が作家を批評するなんて、これほど非生産的なことはない」「自分が読みたいものを自分だけのために書く」と言って書ききったというので、出来がいいだけじゃなくてもうすこし熟成された、突きつめたものかと思ってたんだけど、ちょっとばかり意外でした。

ダメだとか青臭いとか言うつもりはないけど、達観した強さではなくて若い人らしいトンガリ方の感じられる作品でした。彼の作品を批判する気持ちも想像できるし、それを拒絶する気持ちもついでに想像できる。誰がどう批判しようと、自分がリアルと感じられるものを作家は書き続けるしかないと思う。彼のやり方はまちがってない。

ところで私は最近、人は生まれつき人なんじゃなくて、たくさんいろんな経験をして人になるんだ、と実感してます。男の人と女の人が出会ってすぐに感じる愛情と、長年連れ添って家族になってから感じる愛情は違う。子どもが虫や動物に残酷なことをするのは、まだ人じゃないから当然想定されることだし、若い人が年齢相応のミステリーを書くのも当然のことだと思います。つーわけで、私はもう年をとってしまったので、好みとしてはもっと大きな人類愛が感じられるようなものがいいなぁ。うん。

August 07, 2010

林信行「iPadショック」219

iPadの発売に合わせて書かれた本、つまり、日本で発売される前に書かれた本なので、”日本でどのように使われているか”は書いてありません。また、感動とかすごいとか未来とか、割り引いて読むべき表現も多いです。でも知らなかった情報がたくさん得られたので、読んでよかったと思います。

たとえば。
USではiTunes Storeで動画が売られてるが、日本では売られてないので、動画機能の印象が異なる(p49)。TV番組なら1本200円、1シーズン2500円くらい。映画は24時間でデータが消えるiTunes Movie Rentalなら1本300円くらい。・・・この違いは日米の著作権法の違いにも起因してるのに違いない。最近初めて音楽著作権の処理に関わるようになって、システムの複雑さ、自由のなさにヘキエキしてます。どうしてこう複雑怪奇なシステムをみんな鬼のように使っているのか。このシステムのせいで、坂本龍一作の起動音がWindowsに入らなかったのか・・・なんて思ってしまいました。

「iPadは出版、ラジオ、テレビが融合するメディア」という章では、iPad上でインターネット上のサイト、テレビチャンネル、書籍を同じレベルでザッピングできると書いてあります。PC/ケータイ側から攻めるのがiPadで、TV側から攻めるのがGoogle TV? 私は今でも小説は紙で読みたいけど、「読む」んじゃなくて「引く」ための本、つまりレポートやペーパーを書くための参考書籍は、テキスト検索ができたほうがいい。新聞はちょっとかさばりすぎると思っている。チラシはいますぐ全廃して配信してほしい。etc、使い分けが必要だと思ってます。USには著作権切れの本を読めるiBooksってサービスもあるらしい。

ほかに、恥ずかしながら私はHTML5とかWebKitのことをほとんど理解してなかったので、シロウト向けに簡単に書いた章があってよかったです。(ご存じない方は、wikiなどをご参照になるとよいと思います。)iPadと関連してIEやWindwosのことを悪く言う人がいるけど、改めてマイクロソフトって会社はユーザーが欲しいと言ってくるものを愚直に作り続けてしまったように思います。これから開発されるであろうWindows上のアプリがすべて動くプラットフォームを作るとか、いままでのバージョンのWindowsで動いていたアプリがすべて動く新バージョンを作るとか・・・。Appleの「俺(Jobs)がいいと思うものしか作らない」というやり方なら、一貫性とイメージを保てて、意外とそれで商品が嫌われることは少ないのかもしれません。

iPhoneのハードウェア原価についても書いてありました。(p202)2008年の3G モデルの原価は172.46ドル、約1万7千円(アイサプライ調べ)だそうです。これを約8万円で売る。これと同様の「原価が安い」話をiPodが出た時からずっと聞いてるってことは、Appleはトランジスタラジオみたいに小さいiPodを皮切りにガジェット市場を切り崩してきて、iPhoneで携帯、iPadでそろそろネットブックあたりの市場が崩れてきそうになってるのかな、と思います。

さて、もうすぐ「iPadビジネススタイル(仮)」って本が発売されるらしいので、出たらそっちも読まなきゃ~♪
以上。