道尾秀介「向日葵の咲かない夏」220
「トップランナー」にこの著者が出てるのを見て、こういう人が書くのはどんな小説なんだろうと思って読んでみました。
感想:
なるほど。辻褄が合っている。と思う。人間の心の弱さ、いまの世の中の生きにくさ・・・人間の身勝手さ、流されやすさ・・・。切ないし苦しいし、涙ぐんだり身につまされたりしながら読んだけど。
でもどうなんだろう。あれだけビッグマウスな青年が我を張って「作家が作家を批評するなんて、これほど非生産的なことはない」「自分が読みたいものを自分だけのために書く」と言って書ききったというので、出来がいいだけじゃなくてもうすこし熟成された、突きつめたものかと思ってたんだけど、ちょっとばかり意外でした。
ダメだとか青臭いとか言うつもりはないけど、達観した強さではなくて若い人らしいトンガリ方の感じられる作品でした。彼の作品を批判する気持ちも想像できるし、それを拒絶する気持ちもついでに想像できる。誰がどう批判しようと、自分がリアルと感じられるものを作家は書き続けるしかないと思う。彼のやり方はまちがってない。
ところで私は最近、人は生まれつき人なんじゃなくて、たくさんいろんな経験をして人になるんだ、と実感してます。男の人と女の人が出会ってすぐに感じる愛情と、長年連れ添って家族になってから感じる愛情は違う。子どもが虫や動物に残酷なことをするのは、まだ人じゃないから当然想定されることだし、若い人が年齢相応のミステリーを書くのも当然のことだと思います。つーわけで、私はもう年をとってしまったので、好みとしてはもっと大きな人類愛が感じられるようなものがいいなぁ。うん。
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