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March 2010

March 28, 2010

村田喜代子「ドンナ・マサヨの悪魔」206

娘がイタリアに留学して妊娠した。青い目の夫を連れて帰った娘のふくらんでいく腹から、「おれは長い旅をしてきた・・・・」と声がする。自分にしか聞こえないその声は、地球に生命が誕生してから生物がたどってきた進化の歴史、何度も何度も食われて死んだ痛みの記憶を語る。・・・という筋。

新聞か雑誌のの書評で見て買った本です。ずっと読んでる作家だから、書評を見てなんとなく想像してた通りという印象。上記のあらすじを読めば、本そのものを読まなくてもいいかも、という気もします。(この作家の本をたくさん読んでる人には、それほど意外な展開や事件は起こらない、くらいの意味です。)

それでもどうしても読みたかったから買ったんだけど、がまんして図書館で借りてもよかったかなぁ、とも思う。表紙の絵(Mark RydenってアーティストのCreatrixって絵、たとえばここhttp://crfranke.files.wordpress.com/2009/10/the_creatrix.jpg)がちょっと魅惑的で、所有欲をソソる部分はあるのですが。

以上。

March 07, 2010

伊園旬「ブレイクスルー・トライアル」205

書店の店頭でなんとなく買った。
Amazonのレビューは星1つから星4つまでキレイに分かれてます。しかし最もよく「一般的な読む価値」を表してるのは古本の値段であって、文庫本がもう2刷なのに1円から売られているところをみると、この本は一般的に、軽い気持ちで読みたいけど保存するほどの思い入れはない、という評価なのかもです。

それにしてもミステリーの判断基準ってバラバラだよね。要はエンターテイメントだから「面白きゃいい」と思うんだけど、深く狭い道を突進しちゃって、トリックが新しいかどうか、現実的にありうるかどうか、という点だけに執着する人もいる。読者としてそういう狭い道を行っちゃってる人(xx大ミステリ研、みたいな)が作家になったりすると、つじつまを合わせることだけが至上命令のようになってしまって、読み始めるとすぐにトリックと犯人が透けて見えてしまうこともあります。

ミステリーを暇つぶしに読む私としては、この本くらいでもいいんじゃないかと思うが・・・。
確かに、建物の構造図なんてあってもなくても関係ないくらい、この本に謎解きの要素は少ないけど、3つのチームや大企業が入り乱れて進む構成は楽しめたし、人物描写も十分生きてると思いました。このくらいのミステリーでいちいち人が何人も死んだり、必要もないのに死体切断とか加工とかのエグい場面が頻出すると、いつも悪趣味だなーと思ってたので、誰も死なないこの小説はリーズナブルで好感が持てました。・・・という感想を持つのは女性が多いのでしょうか。作者も実は女性なんですね。

名探偵コナンや土曜ワイド劇場よりは面白かったです。ツジツマと謎解きに完全さを求める人は、ぜひ純文学の棚にある佐藤正午を読んでほしい。

以上。

March 03, 2010

内田樹「日本辺境論」204

この本は面白かった。わたしの理解したところを要約すると・・・

「中華思想」というのは文字通り、自分たちは世界の真ん中にいて栄えていると考える思想であり、「日本」というのは「中華」から見て「日の出る方角にあたる国」という相対的な名前。しかし同様に中華に自治区と認められた朝鮮が中華に敬意を払ったのに対し、日本は「日出ずる国の天子が日の没する国の天子へ」というトボけた手紙を出したりする。これは、”ぼくたち端っこにいるから、よく知らなかったんだよ~”と無知を装うという日本特有の態度であり、この日本人の”辺境性”が自分たちをその後周辺アジア諸国の支配へ向かわせ、そして今も他の国との比較でしか自分の立ち位置を認識できない、リーダーシップのとれない態度を続けさせている。

しかしその辺境性がもたらしたのが、漢字(表意文字)とかな(表音文字)の両方をもつ他に類をみない「日本語」であり、この言語では表意と表音を理解する脳の別の部分を同時に使うことができるため、日本ではマンガ(表意する絵と表音する文字)が発達した。
あるいは、自己主張のない分、外からの文化がすんなり入ってきて、学習能力には優れている。といった特徴もある。

結論として、辺境人は辺境人として、自分たちのことをとりあえず知って、やっちゃならないことはできるだけやらず、それなりにいい点も認識して暮らしていこう。

・・・そんな感じ。

私が思ったこと 「私は身に覚えがあるけど、国家レベルでもそうなのか」。
会社レベルでもよく、アメリカの会社で日本の会社と交渉してたときによく、(どうしてこの人たちは対等にビジネスをしようとしないで、下から目線で嘆願してくるんだろう)と不思議に思ってました。一方自分自身は、周囲の人は自分よりスゴイと思いがちで、誰かを見ながらそのレベルを目指すってことを気が付くとやっているちっちゃい人間なんだけど、それが日本の歴史の最初から今までずっと国家レベルで続いてきたという指摘には、はっとさせられました。

もう十分長く書いちゃったので引用はしませんが、どういう考えの日本人も一度読んでみると面白いと思うよ。ほかの人の感想も聞いてみたいです。
以上。