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December 2008

December 23, 2008

宮永博史「顧客創造実践講座」148

「セレンディピティ」「ひらめきを生む発想術」に続いて3冊目に読んだ同筆者の著作です。今までの2冊はセレンディピティとひらめきという、時間をかけて徐々に感覚を身につけていくものについてまるごと1冊ずつかけて書いてありましたが、今回はひとつの事業の計画段階から事業部の立ち上げまでを取り上げてみっちりと解説しています。いわば実践編。ある企業の研究開発部門から企画部門に異動になった青年が、自社の新規事業として海底探索用ロボットを事業として立ち上げる過程を取り上げています。とはいっても、事業部の立ち上げまでで終わっているので、続きが読みたい!という気もします。(実際にあったことの記録じゃないんだから、しょうがないか)サラっと読み流すのでなく、自分が主人公になったつもりで追体験すべし。

本を書く人の中には、ケチな人と気前のいい人がいます。ちびっとずつネタを小出しにして、薄めて薄めて何冊も本を出す人とかね。この著者は気前がいいと思う。半期分くらいの授業のコンテンツを入るだけ詰め込もうとしてる分、読む方も時間をかけてきっちり読まないと、見落としがありそう。特にSWOT分析の解説は実用的!誰もがやってるつもりで全然できてないというあのSWOT分析を、どうすれば本当に役立てられるか、ということを1章まるまる使って説明してます。これだけで新書が1冊書けると思う・・・。多分いままでの自分の仕事で実際にこうやって使ってきたのでしょう。どんな道具にも正しい使い方がある。ちゃんと使えないのに道具の悪口を言うのは、とってもつまらないことだ・・・と思う。

私は事業の立ち上げってのをやる立場ではないけど、そのうち会社をやめていつか自分で商店??でも始めるときに、またひもといてみたいと思います。以上。

December 14, 2008

東野圭吾「殺人の門」147

4冊目。
感想。・・・夏目漱石「こころ」を思い出した。「殺人の門」ってくらいなんだから、「青春の門」とかを思い出すべきなのかもしれませんが、読んでないので、ごめん。
頭から最後まで、Stream of consciousness、男の内面の独白。そして「こころ」で男は自殺へと、「殺人の門」では殺人へと向かう。

東野圭吾の小説の主人公たちは、人をよくできた機械であると認識できるタイプの知性をもった人たちであり(整形外科医とかには必要な才能。)、人間の肉体を完璧にまで作り上げることに興味を持ち、それに心身ともに夢中になることをどこかで肯定してる。女性なら自分の肉体を使い、男性なら完璧に近い女性に対して果てしなく入れ込む。現実の人間は美を追求するために人を殺したりしないから、実現できないところをトコトン追求したのがこの人の小説・・・というのが私が前作までで理解したところです。マッド・サイエンティストの一種だな。

そしてこの作家は、ひとの肉体や行動だけでなく心の動きに対しても、そういう解剖学的な興味を深く持ち続けられる。善より悪に堕ちていく心の動きを知りつくしたいという強~い好奇心が、今回の小説を書かせたのかな。

ファム・ファタールは今回は小粒で脇役。整形やなんかで自分の外見を磨きを続けて年を経てますます美しく・・・という女性像は、美しい系のニュー・ハーフさんのようです。

ああ、それにつけても、読中感最低。もうこの作家の作品は読まない・・・と思ってAmazonのコメントを見たら、この本以外は面白いと書いてる人も多かった。やっぱそのうちまた読んでみるかな・・・。

December 11, 2008

東野圭吾「幻夜」146

連続3冊目だ~。
この「幻夜」は「白夜行」の続編的作品らしい。パラレルストーリーのようでもあります。
読み応えはあるけど、読中感がすごく悪いところはどれも同じ。今回の解説者、黒川博行も書いてるけど、ディテールがよく書けてて自然なので、「え~~」とか突っ込みを入れたくなったりせずに、ずぶずぶと深入りして読めます。きっとこの作家はとても好奇心旺盛で物知り、かつ凝り性ではないでしょうか。

毒花のような女のために命の限りつくして燃え尽きる男、というのがまた出てくるわけで、思うにこれって男性の夢でもあるんでしょうか。この世のものとも思えないような、美しく賢く冷徹な女性にもてあそばれてだめになりたい、みたいな。どうなんでしょう。歌舞伎や能の世界で、女たちがご主人やお家のためにアレ~と死んでいく、という快感にも似た、騎士願望のような。

さて、記録によるともう1冊あるはずなので、探してみよう・・・。

December 08, 2008

東野圭吾「悪意」145

「白夜行」にすぐに続いてもう1冊。なかなかaddictiveな作家です。
今回は体裁が凝っていて、容疑者と刑事の手記を章ごとに交代で見せていくという展開がスリリング。何度も何度もどったんばったん「大どんでん返し」を繰り返しつつ、真相に迫っていきますが、犯罪の「動機」をテーマとしたという割に、最後の最後に行き着いたその「動機」に拍子ぬけしてしまって、「え、もう終わり?」と思いました。他の人はどう思ったのかしらん・・・とAmazonを見ると、だいたいは絶賛で、苦言を呈してるものもあるけど少数。ふぬー。

犬を保健所に「殺された」といって、保健所に連れて行った父親への恨みを官僚への恨みへと転嫁して、用意周到な犯罪を行ったという事件。仕事上のストレスで無差別殺人へと向かった犯罪も最近いくつも見ました。積年の悪意やウラミツラミによる犯罪って、現実にはああいう風に、どこかストレートではなく全然関係ないところに向けられるという印象があります。現実に耐えられない人の逃避先としての犯罪は、重すぎる身の回りの現実じゃなく、まったく関係のない仮想現実の中のワルモノの退治という形をとる、ってのが人間におこりがちな心の動きなんじゃないかと。

ちょっと納得できないまま、続けてさらにもう1冊読んでみます・・・。
(父親がもっと直木賞受賞作とかも買う人だとよかったんだけど、家にあるのはどれも若干マイナーな作品ばかり・・・。)

December 07, 2008

東野圭吾「白夜行」144

はー、重かった。
手が疲れた、だって文庫本1冊で854ページもあるんだよ・・・
じゃなくて、内容が。(←長い)

思えばこの人気作家の本を読むのは初めてでした。この本も表紙が綾瀬はるかと山田孝之で、なにやらトレンディなイメージも少し持ってたんだけど、じわぁっと重い小説でした。たまに、なにか日々のストレスがたまってるときに、過去に人を殺したことがある・・・という夢をみることがある。被害者が誰かは夢の中では明かされず、ただ自分は過去のことを封じ込めて淡々と生活をしているんだけど、何かの拍子にそのことを口走ってしまいそうになって、嘘の上塗りをしてる。目が覚めて、ああ夢でよかったと思うんだけど、1度2度じゃなく、けっこう時折みるレギュラーな夢のひとつ。それが現実だったらこんな人生なのかもしれない。

馳星周が解説で、この小説は自分の作品よりノワールだ、冷徹だ悪だと、しきりにうらやんでるのがちょっとおかしいけど、確かにすごい小説でした。主人公のふたりが徹底して悪なんだけど、とてつもなく純粋で崇高にすら感じられる。上品な作家です。

毎晩飛びかかってくる子猫と闘いながら(←比喩とかではなく)読むのはちょっと怖かったけど、またこの作家の作品を読みたい!と思います。トレンディ俳優でドラマ化される作品にも名作ってたくさんあるのね。

こんどまた殺人者の夢を見たら、もうちょっと自分や過去をよく観察してみたいものです。怖いもの見たさ・・・・。