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October 2008

October 31, 2008

エヴァン・I・シュルツ「発明家たちの思考回路」139

教授からの借り物です。いつ借りたか思い出せない、、、
この本は「発明家」と呼ばれるビジョナリーをたくさんピックアップして、彼らの発明のひらめきがどうやって生まれたか、どうやってそれを育てていったか、ということを、分析というより逸話として収集したかんじの本です。ちなみに序文をマイクロソフトを辞めて特許ライセンス会社をやっているネイサン・ミルボルドが書いています。(ものづくり系の弁理士さんが、この会社のこと悪く言ってたっけなぁ)

西洋式プラグマティズムがむんむんしてる本です。未完成というか、まだネタでしかない発明をたくさん紹介しているんだけど、どうもそのうち多くが失敗しそうな気がする。10年後に読んだら、ぴんと来ない本になっているかもしれません。

たとえば。p58-
薬の飲み忘れを防ぐには?と聞かれてMBA保持者は患者に1日3回メールを送るというが、それは人間の習性を無視している、という。で、飲むたびに当たりが出るスロットマシンを考えて特許を出願したという。私は、ここで着目すべき人間の習性ってのは、射幸心ではなくて「薬を飲まなくていいようになりたい」ところの方だと思うんだが・・・。貼りっぱなしで1週間効くプラスター状の薬とかさ。

p192
ある発明家は、5分あれば目を閉じて空想の世界に入り、あっと言う間に月の表面にも立てるし、自由の女神の目の穴から外を見たりできる、という。この本に出てくる発明家は、また一様に楽天家。どんだけ失敗しても借金をしても、毎日けろっとして新しいアイデアをどんどん試していく。・・・この辺リアルで面白いです。ドクター中松とか、初台の発明喫茶(とうとう一度も入らないままだった)とか思いだします。

p243
特許ライセンス訴訟は、この本の中では美談。1982年以前は、発明家が特許をとっても州によって裁判の結果が異なり、大きな範囲で行使するのは無理だった。でもこの年に連邦巡回控訴裁判所が設けられ、全米の特許訴訟を一手に扱うことになった、のですって。そして、電話を通じたサービス関連のビジネスモデル特許で大金持ちになった人の話が続きます。この辺は歴史が見えてきて勉強になります。

p293
出た、私のキライな話:『貧しい国の人たちを理解させるため、学生たちをサハラ砂漠へ連れて行き、戻ってきてから1日2ドルで1週間暮らしてみなさいと言ってみるが、誰もできないのだ』
その2ドルとこの2ドルの価値はたぶん全然違ってて、あっちの2ドルの方がずっと豊かなはず。2ドルの価値を1日の食費に満たないところまで落としてしまっている自分たちの社会の問題点も、おなじ次元で考えてみてほしい・・・とか思う。だいいち何を持って貧しいというのか。

発明が認められて有名に!というのは、確かにステキです。私たちが個人による特許訴訟になんとなく反感を持つのは私たちが企業の人間だから(あと、特許ゴロみたいなのが増えてるから、もあるけど)だ。発明はすごい、かっこいい、楽しい、というのは忘れかけてた事実。その部分のポジティブさが、この本のいいところだな。
以上。

October 25, 2008

諸田玲子「恋縫」138

ううむ、女は怖い!
4つの短編を収めたコレクションですが、どれにもファム・ファタール、妖婦ってやつが出てきます。

性根がよかろうと悪かろうと、騙す気があろうとなかろうと、男を惑わせて奈落の底に突き落とすという点では同じ。男も懲りずに次から次へと湧いて出てきては、引っかかる。まるでセクスィ~部長に出会った女性たちのようです。

しかしよく描けてます。チンピラだろうと極悪だろうと、いかにもいそうで憎めない。常識的な、あるいは高潔な男たちが堕ちていく様子がリアルでぜんぜん不自然じゃありません。とても力のある作家だなぁと思います。女流でなければここまで書けないでしょう。

イヤミもなくすーっと読めて後味も悪くない。ただしひとつ、初出のときから結末を(!!)書き換えた作品が含まれてるそうです。最初は「藪の中」的に、どうともとれる結末だったらしいんだけど、今回すっきりとした結末に書き換えられてるんですって。解説者はそれを肯定的にとらえてますが、私も同感です。江戸ものは、疲れた現代人が読んで、さわやかであったかい気持ちになるようでなきゃ!

という訳で、星4つ。

October 18, 2008

逢坂剛「カディスの赤い星」(上・下)137

大娯楽長編ミステリーでした。上・下で長いんだけど、あっという間に読み終えた。
日西テロリストによるスペインの総統暗殺計画とフラメンコギターを2つの軸に、恋愛あり親子の情あり秘密あり犯罪あり・・・盛り沢山です。映画化したら盛り上がりそう。

ハードボイルドものは主人公の語尾がつねに「xxxなのさ」、みたいな虚構感がありますが、いいんです娯楽だから。男の人はこういうフィクション感が心地いいのでしょうか。

印象に残ったのはヒロインのはかないキャラクター設定。女の私でも「なんでここで泣くか」といぶかるような場面が多いけど、そういう現実感のない、実は里のワラベのように純真なキャリアウーマンというのも実際はいるのかもしれない。なにやらとにかく保護本能を刺激するヒロインでした。

そんなところで。

October 11, 2008

中根千枝「タテ社会の人間関係」136

産業集積論ってのを今年の4月からすこし勉強してたのですが、
伝統的な産業のある地域に大学と大企業とその周辺企業を集めても、産業集積が起こって継続していくとは限らない。条件ではなく、なにか”マジック”みたいなものが必要だとしか思えなくて、そうである限りはgoernmentがいくらお膳立てしても産業集積がうまくいくはずがない・・・と行き詰り、むしろ文化人類学的な検討が必要なんじゃないかという気がしていたのです。で古典的かつ基礎的なこの本を読んでみました。

ちなみにこの本の中では専門は「社会人類学」とされてますが、wikipediaではほぼ文化人類学と同義だとされてます。

この先生のことは、中尾佐助「秘境ブータン」に、自分より先にブータン横断した人として紹介されていたり、講演会に行ったときに「日本の男尊女卑は文献だけで入ってきて曲解されたものだ・・・チベットでは男はみんな入り婿で女は強い」という話を聞いたりしてたので、さぞかし豪傑だろうと期待して読みました。
この本は、日本の社会を、表面からでなくその成り立ちから科学的に分析しているようなので面白そうだと思って読み始めたんだけど、スカっとした歯切れのよさは、本の終盤にいくにつれて「あれ?」となっていきます。
・日本人は理性でなく感情で人間関係をとらえる、と何度も書いてるけど、終盤は学会や探検での序列に対する批判が若干筆者自身、感情的に感じられる(理論の正しさを裏付けているわけではあるけど)
・海外経験がたくさんあるのに、日本と類似の例が一つも出てこない(英国やインドと対比するだけ)
・MECEじゃない感じ

日本人は同質な単一社会で、タテ(組織の在籍期間、nearly equalls年齢)につながる人間関係をきわめて重視し、ヨコ(同じ「資格」を持つものどうし)どうしは激しく競争するが、英国やインドではヨコのつながりを重視する。というのが趣旨で、1967年にこの本が書かれて以来、いまやタテ社会という言葉をこの人が作ったことなど知らなくても困らないくらい誰でも使ってます。40年たって日本の社会は変わったのかしらん?それほど変わってない部分も多そうだけど、日本人は外からの影響を受けやすいというのもこの本に限らずよく言われることで、外国帰りとか外資系とかでは、表面的な行いは少なくとも「イギリス・インド」に近い部分も生じてるかもしれない。かつ、そういう外国めいた人たちが従来の社会で気を使う or 孤立するのは変わってない。

以下、思ったこと。
下辺がつながってない二等辺三角形の図が日本。タテ関係を重視し、ヨコのつながりが薄い。思い出したのは・・・ライブで観客がみんなステージだけを見てて、観客同市で友達ができたなんてほとんど聞いたことがない。駅前広場で演奏してる駅前ミュージシャンも、彼らどうしはバラバラでうるさい。なんかセッションでもしてみればカッコいいのに。「クラブ」ってところで、みんながDJを向いて踊ってるのを見たときはちょっと気色悪かった。(いつの話だ)・・・・でもこの本の話とは全然関係ないかも。

日本人とそれ以外のアジア人はどうも一様ではない、と感じることはよくあるんだけど、この本でも常時日本 vs インドと英国(筆者が長く滞在したことから)という不思議な対比が出てくる。アメリカって国はこの人のいう意味ではむしろ日本に近いところがあるんじゃないかな。歴史が浅い国だから資格=身分は極めて流動的。アジア移民の3世や4世が名門大学を出てprestigeousな職業につき、初の黒人大統領が生まれようとしてる。

じゃあインドにも英国にも米国にもない日本だけのタテ社会性の正体はいったいなんだ!?・・・日本人だけ先祖がニホンザルなんじゃないか。
とか言うと冗談でも怒る人がいるかしら。ニホンザルってほんと日本人みたいだよね。あの家族愛、あのヒエラルキー。農村の大家族を見てるようだよ。

女子大(筆者は実は先輩)のクラス会を卒業15年後くらいにやったときに、みんな変わってなくて驚いた。年はとったけど、服装や髪形が同じなのだ。思えば当時から私たちのファッションはバラバラだった。8人グループでお揃いのものを着たり持ったりしてた試しがない。こういう孤立を恐れない日本人は孤立することに慣れるか、外国に行っちゃうんだろうな。

で、産業集積とからめて知りたいのは、「シリコンバレーはタテかヨコか?」
たまたまそこに集まってきた人(タテ・場)なのか。スタンフォードを出てIT業界を経験したアンチ大企業の移民たち(ヨコ・資格)なのか。やっぱヨコな気がするなぁ。MOTは資格(所属業界も年齢もバラバラ)じゃなくてやっぱり場だなぁ。タテ社会の日本の産業集積はシリコンバレーと同じではいかない気がする。どうやって形成すればいいんだろう。

October 02, 2008

藤野仁三「特許と技術標準」135

改めてちょっと標準化のお勉強をすることにしました。で、これが参考書その1。
筆者は知財畑の法律家で、だからなのか、いままでの自分の経験とぴったり重なってうんうんと実感でき、面白かったです。内容はタイトル通り、公共性の強い標準化と独占排他権を付与される特許とのコンフリクトに絞ってあって、まとまりのある内容です。(2800円で146ページ、割高感はあるけど)

特に、特許と標準のせめぎあいによって標準が形骸化していくという懸念について語るときに、「だから難しい」と終わらずに、積極的に特許のJASRACみたいなのを作ろう!という提案をしているところが、なんかポジティブで楽しくなります。

さてもう一冊も読み始めよう。