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June 2008

June 29, 2008

木下半太「悪夢のエレベーター」122

駅ナカの本屋の店頭に平積みにされていて、つい出来心で買って読んだ。
自分でひまつぶしの文庫本を買うのは、ひさびさだー。

偶然エレベータに閉じ込められた?人々が繰り広げるドタバタ劇、どんでん返しに次ぐどんでん返し、どんな人にも秘密あり、とっても怖いのに笑いの絶えないミステリー。という感じです。

帯には「笑いと恐怖の密室劇で、ハリウッドと吉本新喜劇に殴りこみ!?」「あなたの予想は100%裏切られる!面白すぎて、怖すぎて、一気読み確実!」。
まぁその通りですね。いかにも小劇団の劇作家が書いたものらしく、登場人物や場面が少なく、別にライブで出てきてもいい人まで電話やメールでリモートなやりとりが多い。けっこう陰惨な場面もあって、これをミステリーだと思って読むとちょっと夜トイレに行くのが怖い感じだけど、舞台だと思って読むと単純に楽しめます。

若いうちにしか書けない、いいスピード感があります。情景がアリアリと目に浮かぶ、めまぐるしい展開。行間を読むひまもないけど、読もうとしてもそんなことまで書き込んでない。深いとは思わないけどこの作家が目指してるのはじわ~っとくる感動ではなくて興奮だと思うので、今はこれでいいんじゃないでしょうか。といってももう34歳ですが、50、60と年を重ねてくたびれてくる頃には、腹の底にズーンと来る小説だか舞台だかも書けるようになるのでは。

常盤文克「モノづくりのこころ」121

3部作をとうとう読み始めました。まずは1冊目を読破です。

この方の本は、 2年半も前に一冊読んだことがありました。そのときも妙に「気が合った」というか、すーっと入ってきて腑に落ちるところがあったんだけど、今回もするっと入ってきて私の中の床の間のようなところにぴたっと収まりました。自分と考え方が同じだからといって「これこそがビジネス論の極意」だなんて言わないが、誰にでも受け入れられそうなことは断言し、びみょーに反発もありそうなことは「・・・と考えると面白い」といった表現をしているところが、その成功の秘訣では。
断言の例:「大自然の法則から経営についても学ぶことがある」
面白いの例:二進法で四進法の計算が可能だと証明したライプニッツが、数学者である前にアニミズム的な哲学者だったことと、易経を結びつけること。世界は陰陽記号6個(2の6乗=64のバリエーション)であらわされる陰陽コンピュータだ、ってことかしらん。本ではそこまで言ってませんが、面白いので個人的には比喩としてacceptします。

その他印象に残った部分。
p146 漢方では病気でなく病人そのものに目を向けて、どうしてその部分に歪が生じたかを分析して、違う部分を治療することもある。というのを会社に当てはめる。「曖昧なものは曖昧なままで、無理に分析せず、そのまま感じ取り、受け止めることの大切さ」ととらえ、「集団の黙の知をとらえるときに欠かせない。

ところで、暗黙知の次元という本を前に読みましたが、おおざっぱに言うと常盤氏は知を明の知(文字などでビジュアル化、共有できるもの)、暗の知(個人個人が持っている、表現はできないけど知っていること)、黙の知(会社などの内部で共有するもの)と分けています。というのが基本にあります。

p158- 筑波大学の高橋進名誉教授があげた、易に学ぶべき5つのポイントの中に、「個人には個性があり、自分自身になりきることで明日がひらける」、「真理は作為にはない。ものごとはあるべき自然のところにある。不自然は過ちと悪への道である。」といったものがあるそうです。最近ほんとにそう思うんだ。誰かが書いた「立派な行いはかくあるべし」という本を真似ても何の意味もない。そこから学べるのは筆者にとっての真理であって、それを自分にあてはめるのは自分の頭。

例えば、寝たきりの病人に「毎日1000歩歩け」という具体的な指針を示しても、病人は歩けない自分を嘆くことはない。その人にとっての1日1000歩とは何かを考えればいい、ってこと。私は最近やっと、自分はあまり体が丈夫じゃないことを認めるようになって、自分をいたわるようになってから、やっと無理しなくても早起きできるようになってきました。

等々。さっそく2冊目を読み始めます。

June 22, 2008

マイケル・E・ポーター「競争戦略論Ⅱ」120

有名な「競争の戦略」は、じつは買っただけで読んでないので、これが初めて読んだポーター(なんと!)
しかも第1章「国の競争優位」と第2章「クラスターと競争」以外はナナメ読みしただけです。

しかし、この人の書く「ダイヤモンド」っていう図はどうしてこう、字ばっかりで見づらいんだろう。アイテムの名前を四角で囲んで、それぞれの力関係の矢印を引いただけだ。これは表やリストの仲間であって、図ではない。テキストを読んで理解しないと図の意味がわからないから。

本文も冗長でくどい。アメリカの契約書みたいに長くまとまりがない。トヨタ生産方式で推敲すれば、本の厚さが半分にはなると思うんだけどな。なんか立体的じゃないんだ。ベタ打ちのテキストベースなので、章と章の関連もわかりにくい。この本をスライドにまとめる、っていう宿題が出たら泣いちゃうよ・・・って感じです。

すばらしい本を書いたので、挿入する図をわかりやすく作ってください、っていう商売があるのかな。私は難解な本を一生懸命読み説いて理解した!って得意になるのは幼いと思うし、書く側にも「おもてなし」の気持ちがないと思う。

こんな感想でいいんだろうか、とも思いつつ、以上。

June 19, 2008

本多孝好「FINE DAYS」119

表紙はモダンでシンプルなイラスト、一見したところ夏の海が舞台の女子中高生向けの小説のようです。
中身も、目立たないけどちょっと変わった男の子と、カンの鋭い美少女が授業をさぼって屋上でタバコを吸ってたりして、青少年小説の様相がたっぷりなのですが、ミステリです。ほろ苦いというより五臓六腑にしみわたる苦さ。
でも青少年小説でもあります。若さというものの危うさ、後悔、切なさ、美しさ、といったものもちりばめてある。人に見せる顔は醒めていたり愛想がよかったりしても、身体の中にどろどろしたものを持っている、現実の若者の琴線をびみょうに刺激するものがありそう、だけど、結論として暗すぎず全体的にクリーン。で、帯には「掘北真希も共感」。

高校生の夏に、教室の窓からぼーっと校庭を眺めて運動部の掛け声を聞きながら考え事をしてた、みたいなリアルな時間がよみがえってきます。年取ってから懐かしむ「高校生」じゃなくて、先生を逆恨みしたり転校生にオカルトっぽいバックグラウンドを想像したり、狭い学校の中しかまだ知らない少年少女の危うい心理がよく描けてます。

キレないコピーライターなら「青春は、大人たちが思うほど甘くもすっぱくもない」とか表現しそうな感じ。
わりと好きです。以上。

June 01, 2008

今野由梨「ベンチャーに生きる」118

1969年、33歳のときに秘書代行の「ダイヤルサービス」社を創業し、その後も育児相談やセクハラホットラインなど、時代に合わせた新しいサービスを次々と立ち上げてると同時に、若いベンチャー社長の面倒をみたり、ネパールの学校設立に助力したり・・・70を過ぎた今もバイタリティ満載で活躍する今野さんの自伝です。

5月25日にこの人の講演を聞いて、そこで買いました。この本の印税は全額ネパールに行くのだそうです。とっても面白いし、説教ぽいところがまったくない、面白く不思議な本です。

面白いのは、若かりし彼女のハラハラドキドキの冒険譚。不思議なのは、彼女が人生のふしぶしで出会う神がかり的な出来事。女性初の連続8ラウンド半というマラソンゴルフ記録でギネスブックに載っていたり、素人でいきなりグランドティトンという難しい山を制覇したりしたときに、急に空が晴れて光が差したとか、癌の知人の病室に行くと彼女だけでなく同室の他の患者まで元気になったとか。嘘っぽいとは思わないけど、そういうことを引き起こしやすい人っているけど、マネしても凡人では実現しないだろうなぁと感じます。

とにかくひまわりのように明るく屈託がなく、底抜けに人がいい・・・成功した起業家には彼女のような人もたくさんいます。自分は一文無しになってもサービスは辞めない。でも自分が一文無しということは自分の家族もその痛みをシェアしなければならないということ。最愛のご主人が家を出てしまったときのくだりは、もらい泣きしそうになります。。特別ななにかを持ってしまった人の孤独っていうんでしょうかね。

何があっても、まっすぐ前を見て自然に生きていく姿勢に打たれます。私もがんばろう!という気持ちを起こさせる本です。