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May 2008

May 10, 2008

丸島儀一「知財、この人にきく」117

「キヤノン特許部隊」も聞き書きの本ですが、あちらはどちらかというと「経験を語る」、こちらは中小企業に向けてアドバイスをする形になっています。

必ず言及するのが、”ライセンサーが倒産したときに、破産管財人がライセンスを拒むと、ライセンシーは無権利実施を行ったことになり、管財人に訴えられると製品回収、膨大な損害賠償をさせられる恐れがある”の話。USでもEUでもそういう場合のライセンシーの権利を守る法律があるけど、日本にはなく、破産法でやけに管財人ばかりが守られる。(「物権優先で無形の知財が後回しだ」)・・・で丸島氏が働きかけて、そういうのを避けるためにあらかじめライセンサーとライセンシーでライセンス関係を登録しておくことができる仕組みを作ったんだけど、許諾の範囲をきちきち記載しなければならないので、実効が薄いとな。
USのライセンス契約でよくある、「その他関連するもの全部カバーする」みたいな条項は、日本企業は嫌がるけど、この方が現実に即している・・・そうな。うちのライセンス先にも教えてやってくださいよ・・・・、おっと独り言です。

p38 職務発明の対価について、丸島氏の考えをまとめると、
1.会社のビジネスの中で知財というものが持つ効果を評価、知財がビジネス上もたらした利益を算定
2.各知財(たとえば1つの特許)の重要性から配分比率を決めて、1で算出した利益を配分する。
3.各知財について算出した利益について、今度は同様に発明者間の配分比率を決めて、利益を配分する。
となります。あくまでも「トータルでどれだけ事業に貢献したか」。
「日本の技術者はすごく地位が低くて損をしている」という概念がなぜかはびこっていて、金を取れると思ったら、事務の女の子や営業や、その他の人たちに助けてもらったことを全部忘れて、自分こそが利益を生み出したと思いこんでしまう、というケースがある気がする。私は研究者の平均給与を聞いて、高くて驚いたこともある。自分より給料が安い人が会社にどれくらいいるか、自分がその人たちの仕事を全部やれるかどうか、ちょっと考えてみるといいと思う。不満なら辞めるという手もあるし、上司にかけあってもいい。でも会社を訴えるってのはアメリカ人だってみんなやってるわけじゃないと思うよ。

p62 「産学連携は2極分割すべき。国として大事な将来の技術をやるのと、地方や中小企業の事業のサポートをやるの。」正しいと思うけど2つだけじゃなくてもっともっといろいろ考えていいと思う。

p64 標準化。昔はアナログの時代で、自分の技術が良ければ勝てた。今はデジタルの時代だから、世の中の技術の動きと連動しないと勝てない。中小企業にも関係があるので、国をあげて積極的になるべきだ。・・・私もそう思います。基本的に私が仕事を通じて思ったことと、この人が言うことは同じです。だから・・・ビル・ゲイツが楽隠居すると聞いたら早速相談をもちかける、韓国の大統領やヒュンタイみたいに、日本もいいところだけでも学ぶ姿勢が必要なんだよ。でも実際は固まって蔭口を言うばかりだ・・・そういうところには、うんざりしてます。もっとみんな外に出て行こうよ。敵に勝つためには敵を知らなきゃ。
・・・以上。

May 07, 2008

枝川公一「シリコン・ヴァレー物語」116

調べ物のために借りて読んだ。
受け売りもあるのかもしれないけど、この本には私の知識を補ってくれる新情報がいっぱいありました。それに、色々な方面から見てきた半導体業界やPCの歴史を、初めて地図+年表をイメージしながら見ることができて、面白かったです。この本は手元に置いといてもいいかも・・・。

第1章
1849年にカリフォルニアでゴールド・ラッシュ
1885にスタンフォード大創立
スタンフォード大の土地が余ってたので工業団地を作った。
1939年にヒューレットとパッカードがHPを設立。
HPの歴史も読んでみたくなった。「HPウェイ シリコンバレーの夜明け」はどこの図書館にもあるし。

その当時、優秀な学生はみんなハーバードやMITに行くのが普通で、東海岸のestablishmentは西と対照的だったらしい。スタンフォードはその後努力した。
50年代にSRI=Stanford Research Instituteを設立。
HPとスタンフォードの”産学連携”成功例は、HPは社員をマスターにしたくて、学校は就職先が欲しい、という明確な需要と供給の関係だったらしい。研究成果を製品化・・・とは違うのだ。

第2章
半導体の父ショックリーはのちに、遺伝子学に深入りしすぎて、人種によって「悪い遺伝子」のため能力が違うという説を全米で説いて回って嫌われたらしい。ヒューレットとパッカードにベンチャーを立ち上げさせたターマン教授も、スタンフォードを一流の大学にすることに熱心で、それが逆に学歴重視主義としてシリコンバレーに残った、と著者は書いてます。

シリコンバレーでは「バーでもレストランでも、新技術をめぐる会話がつねに沸騰している」という。この本は1980年代以降の取材をもとに、1999年に出版されてるけど、今でもそうなのかな。技術よりビジネスの話が多そうな予感がするけど・・。

東対西というと、どうしても音楽のことを考えてしまう。HPができた1939年はまだ、「1001 Albums」によると世界初のアルバムすら発売されてません。カリフォルニア州Bakersfieldが、ロカビリーの拠点としてやっと50年代から60年代に発展したそうです。一方65年にすでにタコマにThe Sonicsというガレージパンクバンドがあったらしい。スウィート・ソウルのMotownはMotor Town=デトロイトでGMやFordの車を製造してた人が聞き始めたわけだし、音楽と地域色は切っても切れないはず・・・。

ビーチボーイズの結成がカリフォルニア州ホーソンで1961年。ザッパが1965年、Doorsとジミヘン(シアトル出身)は1967年・・・て西ばっかりだ。Haights-Asubury(サンフランシスコ)で起こったフラワームーブメントが下火になった少しあと、1975年から77年にシリコンバレーでHomebrew Computer Clubが活動。

東はディラン、Velvet Underground・・・と、東だと知ってるミュージシャンばかりで、どこだか知らないUSのミュージシャンのうちWhiteはほとんど西のようだ。(FSFのRichard Stallmanが東の人だという事実はちょっとびっくり)

おっと、そんなことはどうでもよくて。

第5章
Xerox PARCも名前のまま、パロアルトです。「アルト」が製品化できなかったのは、そのとき手に入る部材で安く作らなかったから。技術は完成に近かったんだから(機械翻訳やロボットと違って)、やりようがあっただろうと思う。現にAppleはだいぶ安く作れたわけだし。研究所で開発した技術を商品化するための「生産技術部」が組み立て製品やソフトでも必要なのでは?

知らなかったこと:
・IBMがMS-DOSをMSから買う契約をしたとき、IBM役員の一人がBillGママ(慈善活動で有名だった)と知り合いだった。
・Xerox PARCにジョブズが見学に行けたのは、X社が製品化を期待してAppleに出資していた背景もあった。かつジョブズはUIのライセンスを求めたけど、断られたのでアラン・ケイを含めて人を引き抜いたらしい。・・・フェアチャイルド社とインテルの話みたいだなぁ。

終章
元SUNでJavaの名付け親で、その後マリンバ社でカスタネットという、Netscapeで採用されたソフトウェアを開発した、キム・ポレーゼという女性が1997年のTimeの「アメリカでもっとも影響のある25人」に取り上げられてたらしい。Wikiで出てこないのでネット検索したら、2004年のニュースで、Push technologyの開発者としてWeb 2.0カンファレンスで講演というのが見つかった。Pushについてはこの本ですでに(名前は違うけど)触れられてます。今はSpikeSourceっていうオープンソースソフトのサポートサービスをやる会社のCEOに就任して、活躍してるようです。http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071206/288923/

p184 前回「G社にしかできないことが何かわからない」というひろゆき氏の談話について書きましたが、なぜSUNのワークステーションを買うかというと「それはビル・ジョイがいるから」らしい。
なぜ優秀なエンジニアがMSに集まるか、それはビルゲイツがいるからだ、という話を13年くらい前はみんな普通にしてました。人が会社の方針を決める。「色」というか。ThinkPadはLenovoになってから明らかに変わった。・・・「モノではなくて人こそがSUNをSUNらしくしている」。
ホンダはトヨタではない。東芝は松下ではない。創業者のカラーは努力してもしなくても、少しずつ変化しながら受け継がれる。外国の企業は、社員に「互換性」があってあまり色がつきにくいと思ってたけど、そうでもないのかも。日本企業に勤める人より自我が強そうな人が多くて、会社に染まりにくいというイメージがあるだけかも。自分自身は会社員である前に自分だ、と思ってるだけかも。・・・最近そういう方向に考え直しています。

うげ、今回は無駄口ばかりで長すぎますね!失礼。

May 05, 2008

中島聡「おもてなしの経営学」115

この本で私が強い印象を持った登場人物の順番は、1.ひろゆき氏、2.中島氏、3.梅田氏の順番でした。私は違法すれすれなことをする人も、辞めた会社のことを語る人もあまり好きじゃなくて、正直けっこう先入観を持ってたんだけど、いいこと言ってて意外でした。

ひろゆき氏の、”何をすれば大衆に受け入れられるかは本質的に予測不可能なので、いろいろやってみるしかない”と達観してるところが面白くて、そのため彼は利害の偏見なしに真実を見抜くことができる、ような気がします。

たとえば「グーグルにしかない価値がわからない(p132)」とかMSに対する理解とか、みょうに鋭いところがある。ネットを否定する世代の親の下で育つ子供、という世代のギャップを「2ちゃんねる」ユーザーについて語ってるんだけど、これはジャズでもロックンロールでもパンクでも、ありとあらゆる流行のファッションでも、ずっと起こり続けてきたことだ。
つまり・・・自分(子供)は、自分に取捨選択する力、生き延びる力があることを知っていて大人に反抗するんだけど、自分(大人)は次の世代のものが自分と同じ判断力や生命力を持たないと信じて疑わない。

読書は純粋な趣味で、楽しませてほしい!驚かせてほしい!から、私は音楽や絵画と同じように、本にも「珍しいものに初めて出会った驚き」を期待します。そういう意味で、ハーバードの誰誰教授の手法を上手に説明してくれるより、粗雑なオリジナル・アイデアを見たい。と思ってたら、はからずも梅田氏自身が自分の「translator的能力」について言及してました(p267)。

以下メモ。

p27 アップルって本当のところどういう会社なんだろう。ジョブズは嫌なやつだったと聞いてるけど、今は彼がエンジニア(ギーク)に慕われていて、そのおかげでいい製品がどんどん出てくるのか?
病気の後そんなに急にいい人になったのか?・・・今度はJames Brownと比較してみましょう。アクの強いミュージシャンは身近な人たちに迷惑をかけることがあるけど、次のジェネレーションのフォロワー達からは崇拝される。ジョブズは戻ってきたら伝説の人になってたってことなんだろうか。

p111。ギークとスーツの融合の重要性・・・エンジニアももっとMBAを取るべきと言っていて、その意味でR大のビジネススクールは学校としては良いと思います。エンジニアは主体的に目標をもつか(MBAコース)、目標を持ったリーダーに従って努力(融合コース)するのが良い製品への道で、それなしで「好きなことだけやってろ」というのはあまりいいアイデアじゃないと思います・・・。

p236 中島氏は帯にも文中にも何度も、「どうしてソニーはアップルになれなかったか」というフラストレーションを、特に出井さんの施策に対して延べてます。出井さんはどうして中島氏の言う「スーツとギークの融合」ができなかったんだろう?当時のソニーのCTOあたりに直接聞いてみたいものだー。

p240 梅田氏は、日本でインターネットのソフトウェアを作って成功するベンチャーに出てきてほしい、と思っているけど、小規模な開発グループが、大企業にまねのできないものを作るのはとても難しい。大企業がベンチャーを買うのは素晴らしい未知のテクノロジー+ユーザーベース込のことも多いので、買収 or 上場を果たすには、国内じゃなくて世界のユーザーをあっと言う間に手に入れる必要がありそうです。やっぱ、いきなり使える英語力が必須になりますね。みんなまだまだ英語の勉強が足りんよ~。(←お前もだろ)

もう1つ気になったこと。p254で、Googleが広告だけで儲けてるのに、それ以外のR&Dやインフラに資金を投入しすぎてるというようなことを書いてるけど、トヨタみたいなハードウェア企業の投資額と比べても本当に大きな資金投入なのかな?ソフトウェアやサービスの開発は製造設備を開発しなくていいから、全体的にハードウェア企業より開発投資は低く抑えられることが多いはず。インフラに投資するイコール垂直統合というのは早急で、せめて「川下への一部進出」くらいにしとくべきだと思うし、それにこれを読んだだけだと、Googleの目的は自分たちのサービスの補完者の増強くらいのように見える。

May 04, 2008

逢坂剛「裏切りの日日」114

2冊目、読了。
トリックの「How」を解こうと読み進みつつ、2つの事件のつながり「Why」も解かないと全体が解けません。
最近は昔と違って悪徳刑事ってのも普通に出てくるので、人質も刑事も含めて、誰が悪者かわかりませんね。
(最近といっても20世紀以降ずっと、という気もしますが)

たくさんニセの伏線が引いてあって、いかにも悪党な人より一見いい人そうな人が犯人では・・・と思わされるけど、結局のところやっぱり、悪そうな人が悪かったりして・・・(←これってネタバレに当たりますか?)
刑事ものだけど、これ以上泥臭いと私はNG。そういう意味で、私が読むジャンル内ではあります。

なお
文中に「民主党」という党派が出てくるんだけど、現在の民主党の成立はWikipediaによると1998年で、これが書かれた1981年にも、文庫版が発行された1986年にも、まだ存在しなかったので、おそらくこれは「毎朝新聞」のような架空の政党として使われた名前なんでしょうね。新人賞選考委員だった夏樹静子の小説に「逢坂剛」という登場人物が偶然使われていたのを気にして、コトワリを入れたという逸話が「解説」に書かれてます。この文庫本は第24刷(すごい人気!)が結党後の2005年に発行されてますが、実在することとなった民主党にも、作者はなにかコトワリを入れたのかなぁ。

May 03, 2008

今枝由郎「ブータンに魅せられて」113

ゴールデンウィークだ!これから毎日最低2冊、たまりにたまった本を読むぞ。

本の中に「ブータンマニア」という言葉が出てきますが、私も一種のソレで、この本は新聞の書評欄で見てすぐにAmazonで買いました。Amazonで買うとブックカバーがついてこないので、本が微妙に汚れる気がするな。(別に買えばいいか)

そんな訳でブータンものの本は中尾佐助「秘境ブータン」から何から、手当たりしだいに読んでますが、去年第4大国王の王妃のひとりが自伝を出してたことは、この本を読むまで知りませんでした。ドルジェ・ワンモ・ワンチュック「幸福王国ブータン - 王妃が語る桃源郷の素顔」NHK出版だそうです。本買いすぎてるので、これはまず図書館で探すか。

この本で印象に残るのは、元国立図書館の館長で徳の高い高僧のロポン・ペマラという人と、第4代国王という二人の人物と、後者が提唱した「Gross National Hapiness」という考えであり、今枝氏はブータンの「人」について書きたかったんだな、と思った。

GNHについては、第4代国王自身、ことばが独り歩きしてる感があると語ってるそうです。経済基盤は必須だけど、経済発展が究極の目的ではない。ならば何が究極の目的かというと、GNH 言い換えるとむしろ「contentedness=充足感」と言うべきではないか、と。(p165-)たしかに、happinessという、どこかおめでたい言葉とcontentednessという静謐な言葉とは印象が違う。でも、GNPと対立するもっと大切なものを表す意味で、GNHというのは秀逸なコピーだとも思う。あまり否定すると、異なるもろもろのものを許容するブータン的ではなくなる。自分と違うすごいものに出会うと100%感化されてしまって、それ以外のものを否定しはじめるのがブータン人と日本人の違いだと思う。。。

もう一人の偉大なる人物ロポン・ペマラの印象的なエピソードを2つ。

「未だに須弥山の周りを日月、惑星が回るという仏教的宇宙観天動説の信奉者」であり「「時間」は1つしか」ないと思っている彼には、パリとブータンの5時間の時差が受け入れられず、ずっとブータン時間で過ごしたそうだ。あたまが悪いとかあたまが硬いのではなくて、あまりにも真摯に仏教の教えに一生を捧げていて、人生のすべての判断基準が仏教中心なのですね。その物差しを用いて極めて冷静に科学的に考えるのです。(p7-)

そんな彼がネイティブ・アメリカンの霊をなぐさめるというエピソードがあります。(p73-)
車に乗ってる途中で止めてもらって道端で読経を始めた。さまよっている霊を放っておけなかったというので、あとで調べたら、そこがかつて原住民虐殺が行われた地だった・・・という。宗教によいものとわるいものがあるかどうか、私にはわかりませんが、本物の宗教家とそうでない人ってのは、確かに違う気がします。

ところで。
ブータンが鎖国を解いて以来、観光客は何をしてもホテル・ガイド・食事等コミコミの一律料金を支払うシステムになってることはよく知ってますが、そうなった由来は知らなかった。この本によると、第4代国王の戴冠式に国外から来賓を招いたとき、迎賓館や公用車を整えたけど、その後使い道がないので、来賓という形で観光客を限定的に受け入れるようになったのだそうだ。(p14 )

ああ、ブータン(風)料理が食べたくなってきたなぁ・・・。