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April 2008

April 29, 2008

伊丹敬之・松島茂・橘川武郎「産業集積の本質」112

ひととおりビジネスのお勉強をすると、その次にもう少し視野を広げて、企業を群として見ることに興味がでてきます。産業集積というのは、中小企業政策を考える立場の人たちに必要となる、地理的・時間的な広がりをもつ研究領域なので、ビジネススクールを卒業して一息ついた人には新しいいい刺激です。

古くは播州・尾州の繊維工業から、愛知県豊田市のような大企業を中心とした地域、東京の城南地区の工場群、海外では北イタリアの手工業やシリコンバレーと、例をあげればきりがないくらいです。中島飛行機の流れをくむ富士重工、奈良の靴下工場を束ねたタビオ、ヤマハからスピンアウトした企業が多数存在する浜松・・・さまざまな集積の形態が存在し、どれもお互いに”似ていない”というのが私の印象です。

この本は、1冊全体を費やして、さまざまな産業集積のすべてに通じる共通の論理を導き出そうとしているわけではありません。どちらかというと、この分野に興味をもった10人の研究者がそれぞれの関心に従って行った研究をまとめたものです。産業集積の本質がわかる本ではなく、わかろうとした10人の研究者の軌跡。

いままでのところでうっすら見えてきたのは、決して、なんとなく産業集積が起こって成功することはないということ。誰か、あるいは何か大きな出来事によって企業群がいっせいに共通のひとつの方向性をもったときに集積が始まり、たまたま、あるいはうまく求心力を保つことができない限り、あっという間に離散してしまうものだということです。

今までのビジネスのお勉強とは違う目の付けどころが必要だ、と思う。ある大学とその卒業生を中心に起こる産業集積なんてのは、チャイナタウンや日本人街とかの生成と同種のものだという気がするんですよ。・・・って感じで、これからもこの分野を追及するつもり。

勉強を続ける理由は、学校に払った金の元を取りたいからではなくて、知的好奇心を抑えられないからですね。面白い!と思えるものがある限り、読書日記も続きます・・・。

April 12, 2008

海部美知「パラダイス鎖国」111

きっとこれから、マスコミやブログ界でこの本について取り上げる人が1000人は出るでしょう。秀逸なタイトルでキャッチーに注目を集め、ぬるま湯だと思っていたらいつのまにか沸騰しかかっているお湯に浸かった日本の人々に警鐘を鳴らす、愛ある提言書、です。個人的にはWeb進化論より、調べ物をきちんとしてあるし、視点の公平さや読み手に対する責任感が感じられるので好きです。前半を読みながら、そうなんだよなぁとか違うんだよなぁとか勝手に考えながら読んでたことが、最終章では全部まとめて書いてありました。なので、突っ込むところはありません。

日本はともかく、アメリカがここにきて一気に弱点をさらしてることにはあまり触れてないけど、これは「日本対アメリカ」で本全体をまとめるとかえって偏ってしまうと考えて配慮したのかもしれません。

以下、例によって心に残ったポイントをメモ:
p33「パラダイス鎖国」とか「ガラパゴス携帯」とか、電話業界関係の人ってインフラの標準化のことを強くイメージして、こういう言葉で国全体を語りがちな気がする。本を読むと当たってると思うけど、やってる仕事によっては電話の人ほどピンとこない人もいるかもね。
私の場合、数年前は、1,2年くらいアメリカで仕事してみても面白いかも・・・と思ってたけど、最近は毎朝干物を焼いて弁当を作ったり、週末に太極拳をする生活が心地よくて、このままがいいやと思ってる。私はアメリカに憧れたことはないし、イギリスの生活が好きなのはむしろ不便だからだ。アメリカにまだ私が知らない秘密がありそうだと最近感じなくなってるからか、好奇心もあまり感じなくなってる。でもシリコンバレーには行ってみたくなりました。

p36 日本の携帯各社は、目の前の高機能化競争にばかり目が行って、リソース配分を間違えたために世界市場を得られなかった、とあります。・・・日本の半導体製造業者が韓国に抜かれた話に似てるような。一般に、技術者は文系というか正しくはMBA保持者たちにないがしろにされているので、勉強して自信を取り戻せ(目に物見せてやれ)、と言って日本では技術者を鼓舞しがちですが、技術者のパラダイスはそれよりもっと性質が悪くて、破滅に至ることが目に見えてます。私は、常に最高級のものを買い続けるマニア的な層ってのも重要だから、最高技術にこだわるのも正しいのでは?と思ってたけど、問題はそれはニッチだということ。ニッチだっていう自覚のもとに、それなりの資源投入で小規模に作るのなら正しいけど、巨大メーカーが競争して膨大な資金をつぎこんで最高のものを作り続けるっていうのは、シェンムーと同じで(ごめん、古すぎて)結局はユーザー無視なのではないかと思う。p125には「最先端技術が育つには金に糸目をつけないリッチな顧客が必要」とある。リッチな顧客のかなり多くが成金で、ブランドものによって自分を飾る必要があると感じてるので、最先端技術というか売りたいものをブランドだぞと刷り込むための作りこみが必要なわけだ。リッチで趣味のいい顧客なんて、世界中に何百人もいないんじゃないかと思ったりする。

p41 国内の機器は一般的に高く海外の機器は安い。
いちがいに言わずに実例をあげると、42型薄型TVはUSでは1000ドルを切ったらしい。私はTVに10万円は出せないという金銭感覚だけど、たぶんその42型は、それほど性能にウルサクない私でも買わない品質じゃないかと予想する。国内の機器が高いのにも理由はあるけど、TVみたいに単価が高くて何十年も使うものは、いいものを買うべきです。・・・で私の場合、いつかきっと国産の高品質のが10万を切るまで今の小さいTVを見続けるわけです。
話は戻るけど、大事なのは利益率ですよ!「インテルの戦略」を読み込んだときに作った「OKチャート」を使ってください。

まとまってないけど、とりあえずUpします。

April 09, 2008

岡倉天心「The Book Of Tea; 茶の本」110

美しき哉、ミニマリズム!
いやすごい人がいたもんですね。耽美といっても華美の逆です。
明治34年=1904年、岡倉天心が42歳の時に英語で書いた、茶道の極意を欧米の人々に紹介する本です。彼は幕末に生まれて英語に親しんで育ち、何冊も英語で本を書き、その後ボストン美術館の中国・日本美術部長も経験した人です。

明治23年にわずか31歳で東京美術学校(今の芸大)校長になり、42歳でボストン美術館に勤め、その年に娘が嫁いだりしています。昔の人の時間の流れは速い。

この英語が美しいのなんのって。日本語訳も美しいけど(のちに別の人が訳したもの)、英語に驚きました。茶とか禅というものの理解の深さもすごいけど、こんな人が昔の日本にはいたんだなぁ。

もうちょっとで鼻につくほどの美文で、構成も劇場のように完璧なのですが、派手じゃないし日本人の琴線に触れるものがあるので、心地よいのです。この本はとっておいてまたそのうち取り出して読み直したいですね。
ちなみに各社からいろいろな版が出てますが、私が読んだのは講談社学術文庫です。

以下メモ。
・「(人生のことを)孔子は酢い、仏陀は苦い、老子は甘いと言った」(和文p43) ひとことでそれぞれの思想を言い切ったな!
・道教と禅宗のポイントは共通していて、それは「相対性(relativity)」である。(和文p46)これはこないだ読んだ「木を見る西洋人、森を見る東洋人」にも述べられていましたね。私も、東洋人がみんなものごとを相対的に見るのではなくて、東洋の一部の考え方だなぁと思ってました。

以上。

April 02, 2008

乃南アサ「嗤う闇―女刑事音道貴子」109

ミステリーとしてのトリックや謎解きの醍醐味!が欲しい人向けではないですね。推理小説(探偵小説であることが多い)と警察小説はジャンルが違うと思う。こっちは「はぐれ刑事純情派」とかと同じ警察小説で、むしろ人間を描いたドラマのほう。作家も主人公も女性だけど、甘ったるい感じはなく、現実にいそうな、泥臭い現場でベテラン刑事たちにもまれながら仕事に打ち込む女性刑事のヒューマンドラマです。

私としては、刑事ドラマも好きでよく見るけど、じっくり本で読むのは本格推理の方がいいなぁ・・・。
以上。