藤田宜永「奇妙な果実殺人事件」102
いろいろやることがあるのに、つい読んでしまった。
この本は密室トリックのある「本格推理小説」だけど、この人は探偵小説などいろいろなジャンルのものを書く作家で、直木賞も受賞しています。むしろミステリーは珍しいらしい。
内容はタイトル通り、ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」のような死体が発見されて、犯人はこの中にいる!・・・から始まるミステリーです。p14「ショートヘアの前の部分だけがカールされた髪」「浅野温子ばりの美人」・・・ここだけ読んでも、これが書かれた時期がわかりますね?そう、バブルのど真ん中の1990年に刊行されています。(文庫は2006年)
人情ものの小説をいくつか読んだ後なので、次々とたいした理由もなく人が殺されるし、平気で家族が家族を疑ったりして、どうも人の命を軽視していると感じてしまったりして・・・。いや、たとえばミステリーでも動機から攻めるタイプだと、人物描写が鋭いんだけど、この人は殺人というのはアイテムのひとつであって、パズル解きを楽しませようとするタイプなんでしょうね。そういうミステリーでは、あまりにも安易に人が殺されてしまうことが多い。
しかし・・・最初のミステリーと言われている「モルグ街の殺人」が1841年ですか。それから170年近くの間に、密室トリックってのは相当の作家が書き続けているわけですが、まだこれから新しいアイデアを思いつくことができるのかな。動物や植物を使う、鍵穴や換気口を使う、バネやテコやゼンマイを利用する、時間や空間の錯覚を利用する、催眠術を使う、実は抜け穴がある、実は語り手か刑事か子供か登場人物全員が犯人、およびそれらのバリエーション、を使わないとしても?
だいいち密室ってのは、この本の中でも語られてるけど、儀式的なものであって、殺人事件に必要なことではぜんぜんないんだよね。だから現実の殺人事件では普通、死体は密室に閉じ込められずにどこかに遺棄される。
一方、心理ミステリーには底がないから、力のある人なら読み応えのあるものがまだまだ書ける。
でも私はトリックが大好きなんですよ・・・。しかも殺人はあんまり好きじゃないんですよ・・・。
誰か、殺人は起こらないけど背中がゾクゾクするような、すんごい本格推理小説を、私のために書いてください!!
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