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June 04, 2007

ルイス・V・ガースナー「巨象も踊る」67

ベストセラーですね。今頃やっと読みました。最初にまとめてしまうと、学部卒でハーバードMBAを取り、その後マッキンゼー、Amex、ナビスコ社長と、典型的ないわゆるMBAキャリアを重ねてきた経営者が、日本的とも言われる終身雇用、現地主義、完璧主義の重厚長大な企業IBMの建て直しに挑んでそれを成し遂げるという、異業種格闘物語です。最近ミンツバーグとかの「MBA批判」がヤケに盛んだけど、勉強ってのは与えられたものをそのまま鵜呑みにするだけの人にとってはそれだけの意味しかもたないけど、学校で学ぶ知恵が道具の一つでしかないと明確に認識して使いこなせれば、どれだけ大きな効果を発揮できるか、この本を読むとよくわかります。私自身はいわゆるハーバードMBA的なやり方は元々好きなほうじゃないし、この本を読んでもクセみたいなものは感じるけど、可視化できる経営指標をこれだけ総合的に研究するのはすごいし、うまく道具として使いたいと思ってます。

ガースナーはこの本の中で繰り返し「自分はよそ者でしかない。自分が去った後の経営陣は全員IBMの生え抜きにした。」といったことを書いています。よほどイジメられたのか?それとも、企業は生え抜きの人たちで作るべきだと、本音では考えているのか・・・。
そして100%自分で書いたという文体は物語調でかなり文学的な才能も感じさせます。本では直接IBMと関係しない、自分の生い立ちやそれ以前の仕事のことにも触れています。なにが面白いって、直前に読んでた椎名さんが社長を退く頃、つまりIBM帝国が崩壊するかと思われた時期に外部から登用されたのがガースナーなので、彼の仕事は椎名さん時代の業務を再構築=リストラすることなのです。もっとわかりやすく言うと、椎名さんが長所として書いていた「現地主義」や「個人主義」は行き過ぎてしまい、ここでは反省の対象になっているということ。こういう風に勉強すると、知識が立体的になります。知識を蓄えるだけなら機械にも簡単にできるので、それをどう生かすか考えるところがそれぞれの人の強みになるんだろうな。

・・・さて、メモをまとめます。

p98 社長就任時、あえてビジョンを発表しなかった。これは、ビジョンってのは「将来なりたいもの」というか「理想の姿」であって、赤字を日々垂れ流している今はそんな悠長な状況ではない、とみんなに気づかせたかったからだそうです。うん。直線的にただビジョン・ミッション・ストラテジー、と考えるより、そういう状況に合わせてダイナミックに変化することの方が大切な気がする。

p121 さっそく、「現地主義(ここでは米国内でもシステムや組織がバラバラだということ)」の弊害が述べられています。

第9章 ~p132 前は70社も広告代理店を使っていたそうな。それもすごいけど、1社に絞ったというのも極端だな。世界規模でみると、各国では一流じゃない会社も多いんだけど・・・。荒療治です。個人的には「マルチステーション」の寅さんのCMのほうが、今のIBMの翻訳調のCMよりだいぶインパクトがあると思う。ただ、死にかけてる状態の企業にとっては、その程度の差異は誤差なのかもしれないな。

p139 ストックオプションの拡大について書いてるけど、彼の考えは「長期的に利益を出し続けるために、株価が重要」なのであって、短期的な投機は厳に戒めてます。一理あります。

p158 IBMの60~70年代のシステム360は、マイクロソフトの80~90年代のWindowsのようなものだと言ってる。それは、グラクソのザンタック(ギネスブックに、世界で一番売れた薬として掲載された)とも共通するもの、という意味だろうか?それとも、IT業界ならハードウェアもソフトウェアも同じ産業としてくくれると考えてるのかな?私はこのところ、製造工程というのが存在しないに等しいソフトウェア産業とIT業界全体をまとめて語るのは難しいと日に日に感じています。

あと、IntelもMSもパラノイア的な会社であって、ほんの少し勝ち点が減っただけで狂ったように負けん気をむき出しにするし、自分たちは今でもベンチャーだという感覚を持ち続けている。官僚制に陥ってしまい、それを変えられないまま倒産まで覚悟する事態に至ったIBMとは問題の質が違うような気がする。

p165 「IntelとMSはIBMからの贈り物を利用して業界トップに躍り出た」とあるけど、贈り物じゃなくて、OSやCPUは重要じゃないと判断して外注したんだよね?オープンシステムにするときに、ではIBMは何で儲けるか?という判断が甘かったのでは?部品メーカーが川下進出もせずに立ち位置をキープしたまま利益をあげたのを、発注元がこういう風に言うのはちょっと変。ガースナーの負けず嫌いが如実に感じられます。PCという世界でどういうテクノロジーが最も重要になるかをもし正確に読めて、開発を成功させることができたら、これはIBMだったかもしれないし、他の会社だったかもしれない。MSは今のPCの普及を見越していた成功例とはいえないかもしれないんだけど、xヤノンなんかは10年、20年後を見越した戦略判断が、少なくとも過去数十年はできていた会社じゃないかと思う。

14章では、分社化しかかっていたIBMを再統合して「Integrated services」てか垂直統合型ビジネスを提供しようと決める。私もそのほうが強そうだと思う、というか、日本では各社がとっくの昔からそういうことをやってきてる。日本企業とIBMを差別化するポイントは、アメリカ式の合理的で新しいアプローチだろうか。ITILとか?

p194~ ロータスの買収。2001年の時点ではこれは成功だと言ってるけど、今はどうなんだろう。

第16章、p198~ 95年にDRAMのOEMとして自社の部品を他社に提供することを始めた。これって川下から川上への進出?メインフレーム上のテクノロジをPCメーカーに売ることで利益が出ると考えたらしい。MSは今も自社技術をWindows上でしか使わせないと思う・・・。自社の強みがIntegratedであることだけでは、いつか割と簡単に抜かれてしまわないかな。DRAMでは98年に6億ドルの赤字を出して99年に撤退していて「高い入場税だったが、IBMが本気だということを示せた」らしい。ほんとかな。

第17章 p216 結局HDD事業は2002年に日立に売却。その後日立は黒字を出せていないらしい(別の資料でみた)。ThinkPadは2005年にLenovo、かな。売却されたチームの日本人と話がしてみたい。

第18章 p226 「主要プロトコルをはじめ、オープン化、標準化にかなり前から取り組んできた」昔は日本でも標準化にしっかり人を出していたらしい。そういうポリシーって社長が変わると変わるんだろうか?もっと後で、「すべての独自仕様をオープンアーキテクチャへ」と書いている。それってちょっとカッコつけてないかなぁ。自社の強みはIntegrated serviceだけで、独自仕様では商売をしない・つまりコアコンピタンスとしない、ってことになったらもうからないんじゃないの?

第20章 企業文化について。企業文化って、1万人規模を維持しつつ、本当に企業文化ってものを継承できるのかな?BillGが去った後のMSに、名経営者が出てきたら面白いのに。

第23章 経営戦略について、「絞込みの甘さこそが、凡庸さを招くもっとも一般的な原因である」これは鋭いと思う。企業だけじゃなくて人間も同じだな。

第24章 ハーバードで習わなかったけどきわめて重要なのが「情熱」なんだって。

第27章 IT業界の経営者は異常である。と言い切ってる。ここは後でまた読み返してみよう。

以上。

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