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June 2007

June 26, 2007

松本晃一「アマゾンの秘密」72

黒こんぶさんが某滞在先で読んでたので、影響を受けて読んでみた。
USじゃなくて日本のサイトってところに興味をもちました。USですっかり評判になってるあのショッピングサイトを日本で初めて展開する際の立ち上げに携わった当時のスタッフが書いた体験記ってところです。

アマゾンの特徴のひとつが「撤退した秘密主義」。プレスリリースを打ちまくって、もはや株価なんて動きゃしない、という有様のどっかの会社と真逆の考えで、そういうことで一喜一憂して株価に影響してもらうと困るから、だそうです。ものすご一理あります。彼らの場合ソフトウェアというのは自社で自社のために作るものであり、それのリリース日は、ユーザーに悪影響がないかぎりサイレントでいいわけです。たくさんのパートナーさんたちと一緒に売ってくものを作る者には、無理ですが・・・。

あと、テッテーした顧客第一主義ってのもいいですね。私ユーザーとしてアマゾン好きです。アマゾン使うようになってから、CDも本も何倍も買うようになりました。私が買うようなCDは、店頭に置いてなかったり、すぐ見つからなかったりするものが多い上に、買うところによっちゃ値崩れしてるものなので、見つかったからといってヤケに高い値段で買うと後悔したりするのです。・・・え?試聴してるだけであんまり買ってないだろうって?当たり!・・・いや、けっこう金落としてますよ。

使いやすいと思う。オススメ買っちゃうこともある。しかし性別くらい類推して欲しいな。あちこちで言ってるけど、KISSのCD買ったからって鼻毛カッターを薦められても・・・そんな生えてないし・・

ほかのユーザーの感想も読みます。ちょいネガティブなこと書いてあっても参考にはなる。こういうのもコミュニティっていうの?へぇ。

というわけで、あとはメモ:
p26- 町の小さな本屋さんも商売だから、いかにも売れそうな、宣伝の派手な話題の本ばかり置くようになって、特徴がなくなっていった。アマゾンは実は「これこそ本好きのための本の売り方だ」。といいます。そうなんだよね。足がしびれるほど本屋に長居とかしなくなった。イナカにいたとき、やけに私好みの本屋があったんだけど、ある日本屋を閉めて、xx書店っていう名前のままカフェになってた。そこもまた居心地がいいので、帰るとよく寄ってます・・・。

p29 ベゾスは常に、「顧客は常に正しい」といい続けていた。らしい。「お客様は神様です」じゃなくて、これはユーザー行動を追う意義を述べてるんだよね?お客様の言うことを逐一ぜんぶきいてるわけじゃない。お客様の表情や様子を読み取って、臨機応変に対応しましょう、っていうことでしょう。

p86 カスタマーレビューのあるサイトとないサイトを作って「ABテスト」を行ったところ、あるサイトの方が明らかに売上げが上がったらしい。それわかるなぁ。たとえ欠点が書いてあっても、自分が許せる程度の欠点だったらかえって買う原動力になるくらいだ。

p139- カスタマーレビューを、最初は躊躇した人たちも、一度書いたらやみつきになったらしく、どんどん増えていった。らしい。これってブログと同じですね。最初に書き始めるのは勇気が要るけど、だんだん楽しくなってくる・・・。

p156- 検索キーワードがまずいと求める情報にたどり着けず、売上げに影響するという話。キーワードはよほどしっかりつけないといけませんな!マニュアルにやるしかないってことなぁ。

以上。

June 25, 2007

名村晋治「Webブランディングの入門教科書」71

ほんとに教科書って感じの本でした。
会社とか商店とかが、初めて自分のサイトを作ろうと決めて、Web制作会社と話をしなければならない・・・というときに、ワガママにも言いなりにもならず、ユーザーを主眼に置いてひとりよがりでないサイトを作るにはどうするか、ということが逐一書いてあります。それなりに会社の中でWebに関わる仕事をしている人でも、このように通して経験したことがある人は少ないと思うので、自社のWebの担当者になってしまったらこういうのを手元に置いておくといいかも。

前に読んだ「ユーザー中心ウェブサイト戦略」はマーケティング戦略についての本で、こっちはむしろ初心者Webマスター読本といった感じですかね。

基本は、オフラインでもオンラインでも同じ。自分のビジネスのいいところをよく知り、訴えたいポイントを絞り、ユーザーが便利に楽しくサイトを利用してくれる作りなさい、ってこってす。いい本ですよ。

June 24, 2007

樋口泰行「愚直論-私はこうして社長になった」70

愚直ってなんかイイ言葉だなぁ。ロックバンドでいえばThe Who、みたいな。(偏見?)
現在日本のマイクロソフトのCOOである樋口氏が、2005年、日本HPの社長時代に書いた、戦略本というより自分の軌跡と考え方を書いた本です。「私はこれで成功しました」という本を書くと、なぜかその後失脚しがちな気がしますが、この本はHow To色が薄い分、リスクが少し少ない気がします。

たまたまじゃないけど、先週この人の講演を聴きました。本が書かれた2005年からわずか2年でこの人はダイエー再建に取り組み、それも辞めて今やアップルもHPも敵視したマイクロソフトの人となっています。彼が語ったことのスピリッツはこの本と同じで、ハーバードMBAに行こうが行くまいが、人間が変わるわけじゃないということを改めて実感しました。インチキMBAに成り下がってしまう奴は最初からインチキ手法を身に付けて大もうけするためだけに学校に行くんだと思う。

おっと話がそれました。
講演で印象に残ったことを書いておくと、
「Employee SatisfactionとCPEは両立すべきである」
「ヒラメみたいに上ばっかり見て横を見ないセクショナリズムに陥った会社はダメだ」
「パワーハラスメントは絶対に許さん」
当たり前のことを当たり前に言うのだけど、実行するという気迫のせいか、なんか熱くていい印象でしたよ。

例によって以下、メモ:
p36 IBMが個人部門に切り込んだ、1983年のマルチステーション5550は松下がOEMで作っていて、樋口氏が担当してたんだそうです。「匠の時代」でこの製品を取り上げてましたね。確かに藤沢研究所で企画・開発したが、ハードウェアは日本のM社、O社、A社にOEMしたと書いてある。Mは松下。Oは沖?Aはなんだろう。椎名さんの本もこのあたりをカバーしてます。

p43~ IBM、GE、P&Gなどは米国でも転職後活躍するといわれているらしい。松下の企業風土、HPの理念にも触れている。やっぱウチの会社にはそういうのは「ない」なぁ。企業でまとめられるようなキャラがなくて、あくまでも個人にかかっている気がする。

p163「HPウェイ」権限委譲主義。外資系企業の日本法人の経営者が多少なりとも実力を発揮するには、会社がこういう方針を対外的に打ち出すくらいのことは最低していないと、無理だろうなぁ。資本関係とはどのくらいの関連性があるんだろう?

p183 樋口さんがHP社長就任時に打ち出した5つのスローガン。
1.お客様第一主義
2.スピード
3.結果主義
4.オープン
5.日本市場に根ざす

p190 「顧客との接点にいて、顧客の声を代弁する営業部門の発言力が弱い会社は、早晩淘汰されるだろう」
ソフトウェア会社の場合、エンドユーザーに直接営業が売りに行くということはあまりないので、サポート部門が声を拾ったほうがいいだろうな。

p192 2002年~2003年にかけて、コンパックがHPと合併。フィオリーナはこれによって総合コンピュータメーカーとなってIBMに対抗し、勝つ、というイメージをもっていたのでは?これはガースナーがIBMの社長になって総合ITソリューションメーカーという方針を打ち出した1993年から10年後のことなので、成果も出ていて、意識するには十分だったんじゃないだろうか。

p200~第6章で彼自身の思いを語ってるんだけど、なんかじわっと熱さが伝わってきて、読んでるとやる気が出ますねぇ。「負のスパイラル」に陥ってはいけないと書いてあるけど、巻き込まれずにいることも、抜け出すこともかなり難しいです。会社生活というのは、これとの戦いかもしれん。

p204 平社員なら係長、係長なら課長、というふうに、「一段上の仕事をする」よう努めてきたそうです。これはランズ・エンドの元社長の林恵子さんも同じことを書いてました。

以上。

June 23, 2007

古田マリ「仕事の設計図を描く」69

企業勤務の後に一級建築士となった著者が、設計という仕事から見出した「うまく仕事を進めていくためのヒント」を、それ以外の仕事一般に適用するためのさまざまなアイデアを披露しています。

たとえば。建築という仕事は行き当たりばったりではできない。常に完成図を立体的に想像したものを頭のどっかに置いておいて、それを実現するために、ここにドアを置くとか、壁を塗る前に配電を整理するとか、一つ一つのプロセスを決めていく必要がある。そのバーチャルモデルをうまく描けないと、例えば: まずここに駐車してそこから入って、あっちで着替えて奥のジムへ向かう、といった動線がスムーズでないマズイ建物ができてしまう。しかも、一番長い時間をすごすジムでなく、駐車場だけが公園の緑に面していたりする。全体を描けずに、細部から始めてしまう人の作業はどこかで頓挫する。全体を思い描き、今の自分の作業がどこに位置するかを理解し、ひとつひとつに時間や労力をかけすぎずに、プロセスを通過することを重んじる人だけが、ゴールにたどり着ける。・・・そんな風なことが書いてあります。(かなり自己流の解釈)

かなり自己流の解釈をしてしまう理由は、バカでもわかる10大ポイント!みたいなのは書かれていないからです。私みたいなシンプルな人間は、1冊を5行で説明できるような太い柱みたいなものを常に欲しがるのですが、むしろこの本はリニアに頭から最後まで読んで何かを読み取る、という感じで書かれています。

立体的な発想の重要性とか、完成した建物(プロジェクトでも同じ)だけが大切だということとか、プロセスは要所要所だけを押さえろとか、なるほどと思える点も多い本でした。文庫本だから軽く読めるよ。読んで、これを自分の仕事にどう生かすかを考えてみるとよいかもしれません。

June 08, 2007

霍見芳浩「日本企業繁栄の条件」68

はー、またもやビミョーな本を読んでしまった。

1992年に「アメリカ政府・マスコミと闘っている唯一の日本人と言われる男」という触れ込みで書かれた本で、当時ニューヨーク市立大学教授だったそうです。

副題が「GM、パンナム、シアーズ、IBMの崩壊から何を学ぶか」となっていたのでまじめに読んだんだけど、アメリカのニュースショーでやるような揚げ足取りや皮肉の応酬を活字にされてもなぁ。確かに、日本人はああいう場に引っ張り出されるとうまくしゃべれずに欠点ばかりが目立つのかもしれない。ああいう場にはそれなりの闘い方があって、正しくディベートができる能力ってのは大事だと思う。でも、私が読みたかったのは、大学教授なりの調査研究とか、データや事実に基づく深い分析とかだったのだ。

たぶんね、アメリカ人はみんな口ばっかりで下品で大食いで・・・なんてのが当てはまらないアメリカ人は、けっこういます。強欲でカッコばっかりで男尊女卑の社畜、じゃない日本人がたくさんいるのと同じ。この本を書いた人はアメリカ人をそういうステレオタイプで捕らえて、かつそれになりたがっているように思える瞬間が、あります。

というわけで、次いこ次。・・・あ、しまった、もう外資系企業研究の参考書がないや。こっちの本屋で見繕ってみたら、売ってるかなぁ~。Bellevueに確かわりと大きい本屋があったな。24時間営業だったと思うけど、夜中は物騒なのでやめておこう・・・。

June 04, 2007

ルイス・V・ガースナー「巨象も踊る」67

ベストセラーですね。今頃やっと読みました。最初にまとめてしまうと、学部卒でハーバードMBAを取り、その後マッキンゼー、Amex、ナビスコ社長と、典型的ないわゆるMBAキャリアを重ねてきた経営者が、日本的とも言われる終身雇用、現地主義、完璧主義の重厚長大な企業IBMの建て直しに挑んでそれを成し遂げるという、異業種格闘物語です。最近ミンツバーグとかの「MBA批判」がヤケに盛んだけど、勉強ってのは与えられたものをそのまま鵜呑みにするだけの人にとってはそれだけの意味しかもたないけど、学校で学ぶ知恵が道具の一つでしかないと明確に認識して使いこなせれば、どれだけ大きな効果を発揮できるか、この本を読むとよくわかります。私自身はいわゆるハーバードMBA的なやり方は元々好きなほうじゃないし、この本を読んでもクセみたいなものは感じるけど、可視化できる経営指標をこれだけ総合的に研究するのはすごいし、うまく道具として使いたいと思ってます。

ガースナーはこの本の中で繰り返し「自分はよそ者でしかない。自分が去った後の経営陣は全員IBMの生え抜きにした。」といったことを書いています。よほどイジメられたのか?それとも、企業は生え抜きの人たちで作るべきだと、本音では考えているのか・・・。
そして100%自分で書いたという文体は物語調でかなり文学的な才能も感じさせます。本では直接IBMと関係しない、自分の生い立ちやそれ以前の仕事のことにも触れています。なにが面白いって、直前に読んでた椎名さんが社長を退く頃、つまりIBM帝国が崩壊するかと思われた時期に外部から登用されたのがガースナーなので、彼の仕事は椎名さん時代の業務を再構築=リストラすることなのです。もっとわかりやすく言うと、椎名さんが長所として書いていた「現地主義」や「個人主義」は行き過ぎてしまい、ここでは反省の対象になっているということ。こういう風に勉強すると、知識が立体的になります。知識を蓄えるだけなら機械にも簡単にできるので、それをどう生かすか考えるところがそれぞれの人の強みになるんだろうな。

・・・さて、メモをまとめます。

p98 社長就任時、あえてビジョンを発表しなかった。これは、ビジョンってのは「将来なりたいもの」というか「理想の姿」であって、赤字を日々垂れ流している今はそんな悠長な状況ではない、とみんなに気づかせたかったからだそうです。うん。直線的にただビジョン・ミッション・ストラテジー、と考えるより、そういう状況に合わせてダイナミックに変化することの方が大切な気がする。

p121 さっそく、「現地主義(ここでは米国内でもシステムや組織がバラバラだということ)」の弊害が述べられています。

第9章 ~p132 前は70社も広告代理店を使っていたそうな。それもすごいけど、1社に絞ったというのも極端だな。世界規模でみると、各国では一流じゃない会社も多いんだけど・・・。荒療治です。個人的には「マルチステーション」の寅さんのCMのほうが、今のIBMの翻訳調のCMよりだいぶインパクトがあると思う。ただ、死にかけてる状態の企業にとっては、その程度の差異は誤差なのかもしれないな。

p139 ストックオプションの拡大について書いてるけど、彼の考えは「長期的に利益を出し続けるために、株価が重要」なのであって、短期的な投機は厳に戒めてます。一理あります。

p158 IBMの60~70年代のシステム360は、マイクロソフトの80~90年代のWindowsのようなものだと言ってる。それは、グラクソのザンタック(ギネスブックに、世界で一番売れた薬として掲載された)とも共通するもの、という意味だろうか?それとも、IT業界ならハードウェアもソフトウェアも同じ産業としてくくれると考えてるのかな?私はこのところ、製造工程というのが存在しないに等しいソフトウェア産業とIT業界全体をまとめて語るのは難しいと日に日に感じています。

あと、IntelもMSもパラノイア的な会社であって、ほんの少し勝ち点が減っただけで狂ったように負けん気をむき出しにするし、自分たちは今でもベンチャーだという感覚を持ち続けている。官僚制に陥ってしまい、それを変えられないまま倒産まで覚悟する事態に至ったIBMとは問題の質が違うような気がする。

p165 「IntelとMSはIBMからの贈り物を利用して業界トップに躍り出た」とあるけど、贈り物じゃなくて、OSやCPUは重要じゃないと判断して外注したんだよね?オープンシステムにするときに、ではIBMは何で儲けるか?という判断が甘かったのでは?部品メーカーが川下進出もせずに立ち位置をキープしたまま利益をあげたのを、発注元がこういう風に言うのはちょっと変。ガースナーの負けず嫌いが如実に感じられます。PCという世界でどういうテクノロジーが最も重要になるかをもし正確に読めて、開発を成功させることができたら、これはIBMだったかもしれないし、他の会社だったかもしれない。MSは今のPCの普及を見越していた成功例とはいえないかもしれないんだけど、xヤノンなんかは10年、20年後を見越した戦略判断が、少なくとも過去数十年はできていた会社じゃないかと思う。

14章では、分社化しかかっていたIBMを再統合して「Integrated services」てか垂直統合型ビジネスを提供しようと決める。私もそのほうが強そうだと思う、というか、日本では各社がとっくの昔からそういうことをやってきてる。日本企業とIBMを差別化するポイントは、アメリカ式の合理的で新しいアプローチだろうか。ITILとか?

p194~ ロータスの買収。2001年の時点ではこれは成功だと言ってるけど、今はどうなんだろう。

第16章、p198~ 95年にDRAMのOEMとして自社の部品を他社に提供することを始めた。これって川下から川上への進出?メインフレーム上のテクノロジをPCメーカーに売ることで利益が出ると考えたらしい。MSは今も自社技術をWindows上でしか使わせないと思う・・・。自社の強みがIntegratedであることだけでは、いつか割と簡単に抜かれてしまわないかな。DRAMでは98年に6億ドルの赤字を出して99年に撤退していて「高い入場税だったが、IBMが本気だということを示せた」らしい。ほんとかな。

第17章 p216 結局HDD事業は2002年に日立に売却。その後日立は黒字を出せていないらしい(別の資料でみた)。ThinkPadは2005年にLenovo、かな。売却されたチームの日本人と話がしてみたい。

第18章 p226 「主要プロトコルをはじめ、オープン化、標準化にかなり前から取り組んできた」昔は日本でも標準化にしっかり人を出していたらしい。そういうポリシーって社長が変わると変わるんだろうか?もっと後で、「すべての独自仕様をオープンアーキテクチャへ」と書いている。それってちょっとカッコつけてないかなぁ。自社の強みはIntegrated serviceだけで、独自仕様では商売をしない・つまりコアコンピタンスとしない、ってことになったらもうからないんじゃないの?

第20章 企業文化について。企業文化って、1万人規模を維持しつつ、本当に企業文化ってものを継承できるのかな?BillGが去った後のMSに、名経営者が出てきたら面白いのに。

第23章 経営戦略について、「絞込みの甘さこそが、凡庸さを招くもっとも一般的な原因である」これは鋭いと思う。企業だけじゃなくて人間も同じだな。

第24章 ハーバードで習わなかったけどきわめて重要なのが「情熱」なんだって。

第27章 IT業界の経営者は異常である。と言い切ってる。ここは後でまた読み返してみよう。

以上。

内橋克人「匠の時代第12巻 IBMの方法、ホンダの発想」66

海外経営戦略というのをテーマにペーパーを書こうとしているので、日本におけるIBMとアメリカにおけるホンダの比較は「地元に、特にメンタルに受け入れられた」例として興味深い。・・・というコンセプトで検索してひっかかったので買ったんだけど、趣旨がぜんぜん違う本でした。1987年に夕刊フジに連載した企業ルポルタージュを文庫版としてまとめたものだそうです。目の付け所としては、日本の製造業の根性物語ではあるんだけど、基本的に「おもしろい読み物」です。以前読んだ「千年、働いてきました」にも似て、プロのライターがものづくりの現場の面白いところを抜き出してうまく再構成した文章です。で、IBMとホンダには何のつながりもありません。対照も比較もなし。ここは完全に計算違いだったけど、面白く読めたからいいか。

それに、IBMはちょうど椎名・ガースナー両もと社長の著書を読み終えたところで、ホンダは去年授業でかなり勉強した。インテルもそうだけど、同じ事実を違う人が語ると、まったく別の事実かと思うくらい、違うんだ。そういう意味でもこの本はプラスアルファになったと思います。時代がかなり古いというのも、かえって興味深い。今起こりつつあることを冷徹に分析するなんてこと凡人には不可能なんだから、みんな10年~20年くらい前の経営戦略を勉強すればいいのにね。

とりあげられているエピソードは、IBMは藤沢研究所でシステム360の国産化・マルチステーション5550(渥美清氏がCMに起用された、アレ)等、日本先行の開発を実現させようとするあたりが中心で、ホンダでは世界初の4輪駆動を思いつき、重要性を検討し、機構を作り上げて製造するところまでを取り上げています。

NEXと飛行機の中ですぐに読めて面白かったけど、もちっと学術的な論文はないかなぁ。