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February 2007

February 23, 2007

マイケル A.クスマノ「ソフトウェア企業の競争戦略」58

やっと読みました。クスマノ氏は、1980年代に日本に滞在して日本のソフトウェア企業の調査を行った人、1995年頃に「マイクロソフト・シークレット」を書いた人、として有名で、さて数年を経た今、この業界はどうなっているんだ、今後どうなっていくんだ(というより、「どうすればいいんだ」)と思っていた人たちが待ちに待った本です。

この本が出たのは2004年で、本を書くための調査が行われた時期は2002年くらいを中心としています。この変化の早い業界で2007年を迎えた今、「新しい」印象はないですね。むしろ、長年にわたった調査で見えてきた普遍的な特徴について書かれたものとして、価値があると思います。

以下例によってメモ。

p3ソフトウェアビジネスの特殊性。0と1の組み合わせから成る、柔軟性の高いソフトウェア。標準品を不特定多数に提供することも、カスタマイズすることもできる。

著者のことばをそのまま借りると「1つのコピーをつくるコストと100万のコピーを作るコストがほぼ同じ」、「製品売上に対するマージンが99%」、「従業員の生産性の格差が10~20倍になる」、「75~80%のプロジェクトが日常的に遅れるばかりか予算超過となり、20%を時間通りに成し遂げると『ベスト・プラクティス』とみなされる」、「開発者が自らを芸術家と思っていて、移り気なのを会社が認めること」etc。読み進むうちにこれらのほとんどが、著者が自分で実地調査をした結果であって印象とか想像ではないことがわかってきます。

p142 1960年代のIBM互換大型コンピュータのことが書いてある。富士通、日立って名前も出てくる。この時代のことってあまりよく知らないから勉強になる。
Anti-trustについて、MSはこのときハードとソフトを分けて結局はよかったというIBMから学んだんだろうか。両方を経験した世代の人がMSにはいなかったんだろうか。いれば分割してたかも。Bill Newkom(以前の法務部門トップ)あたりは知ってたはずの世代だと思うけど。

p171-2 ゲイツがソフトウェア有料宣言を行った。East Asiaにはまだ違法コピーが悪だという皮膚感覚が薄い人がけっこういると思う。日本のメーカーは「SIに正しく金を払え宣言」をする勇気がなく、日本は自国の知財を守るためにpolitical systemを変える勇気がない。

MSの独禁法についてはこれだけ調べてるなら、じっさい誰のどういう過失や油断でこんな大きな事件が起こるか、失敗学/postmortemの視点で書いてほしい。この人が研究者としては一番MSに近そうなのに。これから読むインテルの本の方が、ちゃんと書けてそうだなぁ。

オープンソースへの期待について書かれてるけど、後の方を読むと失望感もあるようですね。企業はタダだから使うんじゃなくて良いものをリーズナブルな料金で使いたいだけだと思う。MSやIBMやAdobeの製品を保証付きで使い続けながら、オープンソースを引き合いにして値引きを要求するのがベストだったりして。私ならそうするなぁ。

p260、この本ではずっと、ネットスケープがブラウザソフトで敗退したのは、開発のベスト・プラクティスを確立できなかったためであり、自滅であると書いてある。その「自白」がMSのIEの独禁法訴訟でも取り上げられたらしい。たぶんそれが事実なんだろうな。ただ、ネットスケープの会社の状態と、MSの行為が違法かどうかっていうのは別の次元の話だ。つまり、ネットスケープがMSを違法行為のかどで訴えることは、「そのせいでうちがつぶれた」と言わない限り正当な行為だ。ただ、行政や司法による独禁法の実践をみてると、なにが本当に産業育成かっていうもっと高い次元で判断して裁くべきじゃないかと思うことも多い。近視眼的な産業政策ってやつですね。

MS側の立場からみると、法律ってのは公平や平和のためにあるもので、行政や司法に従うのは企業の義務だ。MSはインテルみたいに「知らないうちに独占企業になっていた」というのが本音であっても、いつの間にか負ってしまったその重荷を、プラットフォームリーダーである間は追い続けなければならない。MSはリーダーでいつづける道を選択し、重荷を背負って頑張り続けてるわけです。

p281- 日本のプログラマーの生産性の高さ、品質の高さは米国とインドと比べてすぐれている。1000行ごとのバグ発生率がインドは日本の13倍、USは20倍。etc。
すぐれた日本のプログラマーは、外資の日本法人では、自分が納得する品質に達しないうちに出荷しなければならないことに失望したりしないのかな。一方、同じような人が日本企業では、自分が関われるプログラムの革新性の低さに失望することもあるんじゃないだろうか。

p305 「筆者の経験では、規模の小さいソフトウェア製品企業とITサービス企業は”死のくちづけ”シンドロームに陥りやすいので、自立運営を行うほうが賢明であると言える。」とあります。死のくちづけとは、出資を受けても事業を有効に立て直せないばかりか、見込みのない事業につぎこんだり大きなパーティをやったりして、倒産をかえって促してしまうこと。

最後に、起業に向けての8つの成功必要条件としてクスマノ氏が書いていることを引用します:
①強力な経営陣
②魅力的な市場
③顧客を引きつける新しい製品、サービス、ハイブリッド・ソリューション
④顧客が関心をもっているという強力な証拠
⑤「信頼性ギャップ」を克服するための計画
⑥初期の成長と利益を生む可能性を示すビジネスモデル
⑦戦略と提供する商品の柔軟性
⑧投資家に対する大きな見返りの可能性

以上。

February 22, 2007

アンドリュー・S・グローブ「インテル戦略転換」57

1996年に書かれた本。
1章が短いので、電車の中なんかでも読みやすいです。内容も無駄がなくてよくまとまってます。

最初は、10年も前の本をいまさら・・・という気持ちもちょっとあったけど、いい本ですねぇ。(しかしこの人、コンテナ船による輸送とかクレイコンピュータとか、例が古いなぁ・・・)
何がいいかというと、主として自分の成功を語る本が多いなかで、この本に限っては失敗や苦境を中心にして書かれている点。もう一点は、経営者だけじゃなくて中間管理職や一般社員が会社のために何をすべきかについても、明確なメッセージがあるという点。こういう本読むのはたいがいが中間管理職以下だから、たいがいはわかったようなわからないような気持ちで読み終わるもんですから。

第1章では、インテルが小さな半導体会社からいつのまにか世界一の企業になっていて、ペンティアムの浮動小数点ユニットのバグの事件で初めてそれを思い知ることが書かれています。M社の独禁法訴訟も同じような状況だったのではないかと、、、

それをp53では「モーフィングのように業界勢力図が描き変わっていた」と表現しています。モーフィングというのは、CMなんかで使われている、顔のうち鼻、口、と変わっていって気づいたら別の人の顔になっていた・・という表現に使われる手法です。

p62 失敗しないためのルールとして、1.むやみに差別化せず標準を重視する、2.産業界の大きな変化から目を背けるな、3.安価で売り、かつ利益を生むため、先に生産量を想定するというプライシングを行う。という3点をあげています。
1については、メモリとかビデオ方式とかで自社標準を作りたがる日本の某社に教えてあげたい・・・。3については、ミスミやマブチモーターのプライシングのことを思い出しました。

p63 業界の「縦割り」「横割り」という表現が使われていますが、前者はいわゆる垂直統合、後者は水平統合とかモジュール化と言われるものですね。グローブ氏は「すべてにおいて一流になるより1つで一流になるほうが簡単」だから横割り化していくのは当然だと言います。その通りですね。

p70 「MSのソフトは安くてまぁまぁだからいいんだ」とあります。アメリカ人の間では昔からそう思われてたってことですね。日本人は「安くてまぁまぁなもの」を、最初はしょうがないと我慢しても、バージョンが上がると寛容度がどんどん低くなるんですよ。仕上げだけでも日本でもっとやるようにすればいいのになぁ・・・
でも浮動小数点ユニットみたいな一般人には一生関係なさそうなものでも、アメリカ人が大騒ぎした、、ということは、やっぱりマスコミの影響力なのでしょうか。

p87 1996年の時点でインターネットとソフトウェア、コンピュータ、広告についてかなり大きな懸念を持っています。この本の原題「Only the paranoid survive」のパラノイドというのは、心配症くらいの意味だそうです。たしかに心配症でなければこんな心配はしない。準備は早い方がいいし、こういう気質は重要なのでしょう。

また、こういうことを書いてあるから、10年前の本であっても読み返してみる価値がある。このときインテルがどういう戦略をとったから今どうなっているか、というリアルな検討に使えます。まさか彼も、マックに自社のチップが入ってBSDが動くようになってるとは思ってなかっただろう・・・。ネクストのこともソフトウェア企業としてがんばってるって書いてあるし。キヤノンが日本での独占権のために一億ドルも出資してたんだねぇ。これは苦い。

p168 戦略転換はスケジュール帳からも始まる。というのは、転換時には自分の生活スケジュールも仕事に合わせて変わるという意味です。わたしが今いっしょけんめお勉強してるのは客観的にみるとなんなんだろう。

<参考文献>
クリステンセンがイノベーションの第2作や第3作で、インテルのコンサルをかなりやった話を書いてるので、合わせて読むといいかも。インテルが思い切った戦略転換に成功してきたのは、そういう外部の人にすぱっと斬ってもらったからかもしれず、またそれは元をただすと会長の心配症のおかげなのかもしれません。
ほかに、先日読み終わったクスマノの「ソフトウェア企業の競争戦略」も読んでると、パーソナルコンピュータの歴史がさらによく見えてくるんじゃないかと思います。
あと、モチオさんがこれについて書いてます。第二回はこちら

February 20, 2007

樋口有介「彼女はたぶん魔法を使う」56

春休みの気軽な読書シリーズ。

女好きで二枚目気取りの私立探偵が、美人のクライアント、殺された妹の友達(これも美人)、別居している妻、これまた美人の愛人等々に振り回されつつ、徐々に真相に近づいて行く・・・

わたしの大好きな「土曜ワイド劇場」的小説です。あまりヒネリもないけど、娯楽のひとときを過ごさせてもらました。これでいいんです。

確かに、美女の性格や姿かたちが、それぞれよく描けてるんですよ。それぞれがなんだかすごくいい女なのです。探偵自身の見た目のことは一言も出てこないけど、「口がうまくてなんとなく女にもてるタイプっているよね~」、とか言われるタイプでしょう。

さて・・・どっこいしょ(←重い腰をあげる音)、そろそろ観念して来期の課題図書でも読み始めるか・・・。

February 18, 2007

ローレンス・トリート「絵解き5分間ミステリー」55

春休みの楽しい読書シリーズ。しかし充実した読み応えというものはなく、多胡輝の頭の体操シリーズでも買えばよかったかな、という感じ。ミステリー形式のパズルをショートショートくらいのボリュームで書いてあるシリーズもの「5分間ミステリー」ってのがあって、これはその絵解き版。間違い探しとかさ。現場のイラストを見て凶器と犯人を当てよ、みたいな。

楽しい退屈しのぎにはなったけど、アメリカで書かれたものなので、土地勘とか文化的な知識がなくて全部は解けませんでした。

あんまり書くことないや。以上。

February 11, 2007

大場つぐみ・小畑健「Death Note」54

学校の夏休みには宿題があるけど、春休みにはありません。ブラボーです。浮かれてマンガ読んでます。ミステリーもAmazonで6冊注文してみました。たまりにたまった未読ビジネス書の山(20冊超)はどうするんだ。

で、デスノート。話題作です。12巻ぜんぶ読んだけど1カウントにしといてやるよ。(←誰に言ってるのか?)映画化もアニメ化もされました。主演はこの手のエキセントリックな主人公といえば定番すぎる藤原達也だけど、他の共演者が誰もついていかないんじゃないかなぁ・・・見てないからなんともいえないけど。あと、レッチリは全然合わない。韓国ドラマのセンスだよ、それ。

マンガの感想ですが、面白かったよ!最初、またありがちな、不健全なだけでとりとめのない、引いた伏線を自分で処理しきれない若い作家の作品かなぁ~と危惧したけど、最後まで読んだらよく練ってあった。読後感も悪くない。まともな神経の人間ならこうなってほしい、と思うような幕切れと、もしかしたら続編があるかも?という線をすこし残しておく感じ。

なんとかミステリー大賞新人賞くらいの完成度はあると思う。

小畑健って人は絵に力があるね~。わたしの想像力をもってすると、おそらくこれは原作を小説の形で読むより、この人が描いたマンガでよかった。キャラクターが人間に見えてくるのだ。

一般的なことをいうと、マンガの読後の効果(カタルシスっつの?)の中には、「万能感」ってのがあるんだ。
困難な状況を自助努力によって脱し、最後に、自分が期待していた勝利を収めるっていう経験をバーチャルにして、よしっ自分も思い切ってがんばってみよう!と思える。これはビジネス書では得られない。小説とかTV、映画でも得られるとは思うけど、作り方にもよるだろうなぁ。映画は与えられる情報が多すぎて自分の想像力が刺激されないという人がいるけど、マンガだって色や音や動きはないにしろ小説よりは情報が多い。でもマンガの「中に入り込める効果」が絶大なのは、一人で布団にもぐって(あるいは半畳のマンガ喫茶個室で)読めるからかしら。映画だとビデオでももーちょっと広いところで見るからなぁ。・・・この辺は個人差もかなりあるでしょうね。

わたしはこの「万能感」効果が、かんちがいした犯罪を助長してると言われたら否定しないけど、ポジティブにももっていけると思うよ。ただし、少なくとも、書き手側が成熟した大人であって、ただ刺激を強くしたり麻薬的な効果を高めるためにネガティブなものや暗いものをとりあげるんじゃなくて、自分の書きたいものを持っているということが前提だよね・・・。

同じ著者+違う原作者の「ヒカルの碁」も面白かったけど、幽霊と死神っていう超現実的素材を両方とも扱ってても、こっちの方がよくできてた。

この原作者+著者の組み合わせで次の作品を読んでみたいですね。

(PS 原作をマンガにした人を「著者」っていうのね。二次著作物だよね。キャンディキャンディ事件とかもあるから、マンガの著作権の話を、IP研究会のネタにしてもいいかも・・・)

February 02, 2007

藤沢武夫「経営に終わりはない」53

ホンダシリーズ第2段。藤沢武夫の語りを本にしたものです。

藤沢ってのは、たいへん豪胆な男ですね。
本田宗一郎の右腕、女房役、文系出身の知的な経営者、とか聞いてたもんだから、さぞかし線の細い柔和な人だろうと思ってたんです。読んでみたらむしろ本田の方がデリケートな天才肌のエンジニアで、藤沢のほうがカリスマ経営者っぽい。まるで乱暴で、時流を読む目がきわめて鋭い。やっぱり、本人に当たってみるもんです。予想を裏切られました。

つまり・・・マイケル・デルの場合売り物がコンピュータで、藤沢の場合は本田宗一郎の技術だった、って感じ。
たまたま宗一郎に出会ったからホンダを作り上げたけど、違うものを売っていたら、藤沢が単独で名をなしていただろうなぁ。

ホンダを育てていくエピソードは、あちこちでもう読んだので知ってるし、本田と藤沢は・・・というか当時のホンダの人たちは一体なので、この本を読んでも新しい事実はほとんどないんだけど、藤沢が各場面で何を考えてどういう発言をしてたかがわかって、新鮮です。できごと自体は知ってても、藤沢って人がリアルではどういう人だったかを知らなかった。実は怒鳴り散らしてた、みたいな。

だいいち、文学少年みたいな人だと思ったのに、この本も聞き書きなんですよ。藤沢も本を書いたりしない人だったんです。「そのとき俺がさ、言ってやったんだよ」みたいな無骨な語り口。見た目も、表紙に写真が載ってるけど、めちゃめちゃごついです。

言うことはとにかく鋭い。中学しか出てないけど、自分で本を読むし、考える。(こういうのを読むから、「学校なんか行っても無駄だ」っていう先生が出てくるんだな)でもそういう経験から何を身につけて自分の知恵にできるかは、その人の能力だから、真似しても似るもんじゃない。

印象に残ったのは、アメリカはすごい国だ、学ぶことがたくさんある、って語るところ。(p214あたり)
排気ガス規制を最初に敷いた国である、というくだりで、「一つの正しい理論があると、それが政治に優先するのがアメリカという国です。」という。間違った理論でほかの国を侵攻した、という事実もあるけど、正しいこともあったのだ。たしかに国策っていう意味で日本は逃げ腰すぎると思うことがよくある。

本としてはあまりまとまりがないけど、ものごとを両面から見て多面的に把握したい人には、補完の意味で必要な本だと思います。

以上。