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June 2006

June 28, 2006

デビッド・ヴァイス「Google誕生」22

最近MSとかGoogleとかの関連の本を読むことが多い。だっておもしろいんだもん。
原題は「Google Story」。そのままでよかったんじゃない?という気もする。

Google関連では「ザ・サーチ」という本が有名ですが、今回はワシントンポストの記者が書いた本です。
USのジャーナリストの中には、特定の会社をピンポイントで追い続けてすっかり詳しくなってる人がいるようです。MSに関しては、シアトルタイムズのBrier Dudleyって記者が4月にBillGのstepping downをやけに正確に予想してました。2003年にBaby Billsっていう、後にあちこちで引用された記事を書いたBusiness 2.0って雑誌の記者Eric Schonfeldも、その後のフォロー記事をずっと書いてるようです。Microsoft Watchをほとんど1人でやっているMary Jo Foleyは言うに及ばず。

で、この本なんですが。本気でGoogleだけが世界を変えたと思ってるのかな。インターネットの検索はかなり昔からあって、ユーザーはみな、かなりの恩恵を受けてきました。Googleはすごいエンジンを提供してくれて嬉しいけど、世界を完全に変えたわけではありません。彼らが変えたのはユーザーの意識(「Googleなら自分の求める結果が得られるに違いない」)と検索に関わるビジネスの利益構造と、検索ビジネスの業界地図、だと思う。で、広がりつつあるのが、検索できるもの。でしょ?違うの?

この著者Googleを持ち上げすぎ。「最高の」「熟知して」「熱意あふれる」「技術革新に一心に力を注いできた」・・・etc。一方、「冷酷な戦闘員である億万長者のビル・ゲイツ(p24)」とも書いてある。頭悪そうに見えるから、こういう表現使わなければいいのに。あとがきを読んだら、Google関係者にかなりインタビューしてるみたいだ。きっと気を使ってもちあげて書いてるのに違いない。

さてp74。あらゆるポータルサイトに自分たちのサーチエンジンを売りに行ったのにどこにも買ってもらえず、自力で開発を決意したが、先立つものがない。そこでエンジェルが現れて資金を援助してくれるくだりです。エンジェルねぇ。技術でもうけるつもりがなかった彼らが、広告課金モデルを考えなければならなくなったり、上場せざるを得なくなったのは、ここで資金援助を受けてしまったからだよね。これは本当に成功だったの?Googleって人たちのポリシーからみて。

研究室「ゲイツ360号室(ビルゲイツがたくさんお金を寄付したので、そんな名前のついた建物があった)」で考えたアイデアなのに、MSには売りにいかなかったのね。最初からMS嫌いだったんだっけ、この人たち。すでにお金を持ってる会社は、もう上場の心配や、サーチで儲ける心配なんてしなくていいのに・・・でもきっと、そうすると、すでに世界を征服してる人の一部になっちゃうような気持ちはあったかもしれないね。ラリアンサーゲイは、自分たちで世界を手にしたいんだから。

文中しきりに「Googleは純粋に検索のテクノロジーだけを追及していて、もうけようなんて思ってない」って言ってほめるんだけど、みんなお金欲しくないの?どうしてお金もちになろうとしてがんばってる人じゃなくて、もうけようと思ってない人の方をよく言うんだろうね。自分の会社がいい技術を持ってるのにそれでお金をつくる方法がわからないっていう状態で、ボーナスも出なかったら、嫌じゃないの?私なんかは家が貧乏で病院に行くタクシー代もキツキツだったから、自分が生活できるくらいのお金を稼ぐことはとっても大事だし、労働の対価ってのは尊いものだとか思っちゃうんだけどね・・・。p95 ペイジ自身が、自分たちのお金は技術開発の後に勝手についてきたものだと語ってる。貧乏志向は美しいのかな。(スタンフォードの博士課程まで行ける坊ちゃんたちに対して、ちょっと皮肉)

p84でサーゲイはムーアの法則に触れている。ムーアの法則のおかげで、スーパーコンピュータでなくPCでサーチのためのデータベースが作れると。で、技術が法則に忠実に進歩してきたことも認識してる。だから、Googleのデータベースの拡張はきっと、かなり計画的に行われてきたんだろうね。正確には、Webページ量の増大はCPUの早さじゃなくてPCの台数やユーザー側の意識の変化に比例するんじゃないかと思うけど。

p104 投資家モーリッツ「インターネットの便利なアプリは電子メールと検索。Googleは検索という、ユーザーを引き寄せる罠どこよりも高性能に作り上げていた」そうだね。・・・でも最近はサーチしない日でもmixiは読んでる。Mixiってひょっとして世界で一番盛り上がってるSNSなんじゃないの?って気がするんだけど、どう?

「バーニング・マン」っていうヒッピー村疑似体験みたいなのが第6章で取り上げられてる。そこでは金銭は何の意味ももたない、んだって。欧米人ってこういうの好きだよね。ザ・ビーチって映画も然り。そんなにGrateful Deadがいいのか。そんなにWoodstockに戻りたいのか。Googleplexの中では、食べ物も無料、美容室もランドリーも歯医者も・・・ ・・・ってClub Medかい。でなければみんな本当はコミュニスト?なんか、それと仕事を結びつけるってのがちょっと変なんだ。コストもばかにならない。彼らが2人とも子持ちになって、家庭生活が楽しくなると、こういうのも変わってくるはずだし。

p212 Google Newsについて作者が、「出所を明示してニュースを表示しているので、元にサイトに断る必要はなかった」と言い切ってるけど、そうだっけ!?

p229 Googleもかなり古いウェブページをキャッシュで持ってるけど、NPOのInternet Archivesが提供しているWayback macihneってサイトでは1996年以降のネット上のページを全部貯蔵している、らしい。本当かな。
あったここだ
試しに私が持っている某サイトで「Take me back」してみると・・・うわ!2001年から2005年まで記録されてる。うわー!いっちばん最初のトップページはないけど、2番目のトップのデザインはretrieveできるんだ。びっくり。

Googleの最終形として目指してるものは、世界のすべてを自分たちのサーバー上に載せること?
それはどうであれ、情報の選別の部分、つまりアスクジーブスを自動にすることとか、を発展させると、人間のあたまの中の、メモリと選択の部分はこれでまかなえちゃうんだよな。コンピュータサイエンスのひとつの究極の目標が「人間と同じものを作ること」だとしたら、Googleの技術は人工人間の頭のどっかに確実に入ると思う。そこがすごいんだよ。ただ、それで全てではないし、まだまだこれくらいでは人間の頭の一部に近づいてすらいない、ってことは認識しておいたほうがいいと思う。

そんなGoogleの野望の一部:
P351- ミシガン大、スタンフォード、ハーバード、オクスフォードのボドリーライブラリ、ニューヨーク公立図書館の図書館まるごとスキャンプロジェクト、2004年12月に発表。(p364 Amazonは2003年4月ごろからすでになか見!検索の英語版。)
P430 Googleが個人の遺伝子情報全部解説することに取り組んでるとかいてある。
P433 科学研究・・・グリッドを使って、生物学や医療にも入り込んでいくらしい。

こういうのを読んで、「やばい、奴らに日本も牛耳られてしまう!」と焦った日本の偉い人たちが、何を読み違えたか、国産サーチエンジンを開発しようと思ったかな。問題はエンジンじゃなくてデータの方じゃないのかな。すばらしいサーチエンジンってのも、1000開発されたうちほとんど淘汰されて残ったうちの1つがGoogleなんだから、自分たちが開発する1/1000が確実に生き残ると想定して国が金を出して1つだけ作るってのは、種の法則に反していておろかだと思う。

P323 ラリアンサーゲイは『実践的な経営者でアグレッシブなビジネスマンでもある』→この2人はGoogleを永遠に2人でやっていこうとしてる。一方MSはとうの昔から「みんなのもの」だ。てかオタクなエンジニアじゃなくて、MBAやLCAが強すぎるから強硬なやり方が社内で通ってきたのでは?

P384 Google vs MS本当のたたかいは「どっちが優秀なスタッフを確保できるか」。なにをもって優秀なスタッフって言うのかが知りたい。「Google Labs Aptitude Test」が解けるような人?あれって数学パズルしかないんだけど、多分コミュニケーション能力とか国語能力とかも必要だと思うよ。Googleはそこが欠けてて、記者会見のスライドでうっかり社内情報をもらしちゃうようなところが改善の余地ありだ。

・・・と、今日もとりとめなく長々と書いてしまいましたが、これで半分くらい。また別途まとめて書くかもです。
こういうネタって面白くてつい、いろいろ考えちゃうね。

June 14, 2006

マイケル・V・マーン、エリック・V・ログナー、クレイグ・C・ザワダ「価格優位戦略」

やっと読み終わった。これでBtoBの課題も終わり。面白かったです。Pricingってことを今までちゃんと考えたことがなかったので、非常にためになりました。マーケティングに関わる人は当然としても、会社というところでマーケ部隊と仕事をする人は、サワリくらいは知っておいた方がいい。
この本は、Innovativeじゃないsustaining製品がひしめいている市場をどう平和に保ちつつ、利益を確保するかという問題を解説した本なのだな。

業界全体のプライシングにリーダーシップを取ること。
p101 シェアだけを重視して価格を下げるプレイヤーがいるとプライス・リーダーシップをとるのは難しい、とあります。会社としては耳が痛い。下げるどころか、タダだからな。しかし「見えざる神の手」をある会社がやろうとするのも、良し悪しの判断は分かれるんじゃないかと思う。日本は多分アメリカより談合禁止の度合いが高い?(かなり想像)かもしれないので、この本だけじゃなくて公取のガイドラインをよく読んでことに臨むべし。

それに、日本市場は多分、「価格が安いこと」を重要視する傾向が他と比べて強いほうじゃないかな。まず私がそうだ。一般にヨーロッパでは本当に良いものを買って修理しながら何十年も使う、といいます。電化製品の修理用部品の保管年限なんかは、欧米物のほうが長いという印象があります。私のこの価格重視の性格は、幼い頃から学生時代に連なる貧乏生活によって熟成されたものなので、小金を持つようになってもなかなか変わらないような気がする。高いものが良いものとは限らない世の中だし。ユニクロのTシャツの方が、どこぞのデザイナーズブランドの値段が3倍のTシャツより、素材も縫製もいいかもしれない。ものが良ければ安い方がいい。どんなものの品質も全部判断できるほどの知識は自分にはない。余分なお金を払わされたくないと思うと、安物で失敗した方がマシだという気がしてくる。・・・そんなサイクルで、私は比較的安いものを買いがちかもしれません。

そういえば前に、Pricing担当になりかけたことがあったな。Pricingっていっても、与えられた幅はそもそも狭いんだけど。

June 10, 2006

Larry Huston & Nabil Sakkab 「Connect & Develop - Inside Proctoer & Gamble's New Model for Innovation」

Procter & Gambleが、Pringlesの一枚一枚のチップスに文字を印刷するinnovationをどうやって成し遂げたか?という記事が、Harvard Business Reviewの2006年3月号に掲載されています。従来のBricks-mortal R&Dに変わって、C&D=Connect & Developという概念を提唱しています。

アイデアをどうやって実現するか。・・・自分で方法を考えて作るか、誰かのやり方を教えてもらって強力するか。
「Network」というものをどうやって作るかが重要。

Outsourceではない「Network」、たとえばサプライヤ用のExtranetを設けて、こちらから「xxな素材を探しています」と発信すると、心当たりのあるサプライヤが答えてくる。
・・・別にメールでも電話でもいいような。

日本でLECが発売したメラミンスポンジ(「激落ちくん」ってやつですね)をP&Gが見つけて、素材の製造元がドイツのBASFだとわかったので、直接BASFにかけあって全米でそれを発売する・・・という話がAppendix "Osaka Connection"として掲載されています。
・・・うーんと、それって、競合研究っていうんじゃない?とか思いつつ。

日本の町工場の技術と大企業を結ぶために、大企業を退職した人たちが紹介業をやっているという話を聞いたことがある。その方がいいかもしれない。大学の技術と大企業を結ぶために、今は各大学がTLOをやってるけど、なかなか難しいらしい。MOTを持っている大学が連携して、日本MOT協議会技術紹介部のようなものを作って、大学の技術のone stop portalを提供するってのはどうでしょう。MOT卒業者の受け入れ先としても機能するし、大学同士で自分たちのレベルを他と比べる励みにもなる。

これ、書きかけて忘れてたら、今日の「サプライチェーンマネジメント」の授業で、はからずも話題に上りました。今日取り上げられた例は、一見、P&Gが出してる「クイックルワイパー」のようなものだった。あれってパクリなのかしら。

June 04, 2006

林恵子「できる女はやわらかい - ラッキーサクセスの仕事術」

この人すごい!カッコイイ!

あまりに砕けた文章だし、編集者はなにをしてるんだろうと思うくらい、細かい誤字も多いんだけど、著者のポジティブなパワーにやられました。

どれくらい砕けてるかというと、友達に送るメールみたいなの。(笑)とか(喜)とかいっぱい出てくる。でも、というか、やはり、というか、言っていることはすべて彼女自身の経験と努力に基づいているんだけど、まったく経営学の王道を行ってるんですよ。会社ってものをどう動かせば成功するかという、みんなが血眼になって努力してもたどりつけないゴールを、やすやすと示してる。カッコイイです。私こういう人大好きです。

ご紹介が遅れましたが、通販のランズエンド日本支社の社長さんです。私の大学の先輩でもあります。何を隠そう、私の最近の「社長っぽく見えるようになってみたい」という志向はこの人を大学のイベントで見たことがきっかけです。あのときお話とか名刺交換とかしなかったことを、今になって後悔。

「お客様を喜ばせて、また買ってもらいたい」というのは、美しくもあるけど、マーケティングの王道中の王道。本当に大きなものを掴みたければちゃくちゃくとやっていくべきことだけど、なかなかできないのよね。

印象に残ったところ:
p42 自分の天井(能力の限界)は自分で決める。できるかも、と思えばできる。というのは、共感できます(実現するのは難しいけど)。シンガポールに行ったときに、英語・北京語・広東語のほかにインドやインドネシアなどもう1言語ができる人がいくらでもいると聞いて、ああ、そうか、日本語のほかにもう1言語くらいやればできるよな、と思って、それから英語の勉強が気楽になった。

p55 残業してたくさん仕事をしていたら外国人の上司に「Be more efficient!」と叱られた。・・・これも社内でよく見る光景です。これを上が言ってくれればいいんだけど、上がまだ残業中毒だと、逆効果です。賢くならなくては。

p86 ユニクロの1900円のフリースを、タグを外して持っていって、日本の消費者が求める品質と価格を見せ付けた・・・。この人のすごさはこの辺ですね。自分が100%正しいと思っても、「上司がわかってくれない」と嘆くのが、私を含めた日本の労働者一般の感覚だと思います。偉くなる人は自分を外から(客観的に)見られるようです。不満をもっている自分を上司が見たら、ああ不満げだと思うだけで、何度でも何度でも元気に新しい提案を持ってこられれば、最低でも元気だなーとは思ってもらえるわけ。これがとても難しい。本心は怒ってるのに顔だけ笑ってみせるくらいしかできないこともあります。気の持ちようと、自分を外から見ること。これができればおのずと道は開けるのだなぁ、と思う。

p100 「ブランドとなるにはコアのファンを作れ」
一般大衆全員に売れるものを作ろうと思っても失敗する。誰か特定の人、まずは自社製品を買ってくれたお客様が、最後まで満足してもらえるようにする。というのもまさに当然なことです。

目標になる人がまた一人できました。私はシャチョーより裏方がいいけど、こんな人と一緒に仕事ができるようになるといいなぁ。