« March 2006 | Main | May 2006 »

April 2006

April 13, 2006

金出武雄「素人のように考え、玄人として実行する」

これも課題図書。カーネギーメロン大学の教授を長年務めた日本人である著者が、アメリカでの研究生活の中から体得した知恵をスパっと、痛快に、日本にいる日本人に対して伝授する本です。「知恵」ですから、特定の何かの研究や経験が元になっているけどその内容は普遍的。ためになる本です。

感想としては、おもしろい!でもこの本を課題にして何を学ばせようというのかしら?シラバスを見ても、取り上げている回はない。論理的なものの組み立て方や、世界に通用するコミュニケーション力に目覚めさせようという、一般的なsuggestionなのかな。

若い頃は小説以外の本は読まなかったし、人から薦められたり書評を見て本を買いに行くことなんてなかった。最近は課題ですよと与えられた本を素直に読んで喜んだりしてる。私も丸くなったもんだ。

生きてく上で学んだほうがいいことがあるとしたら、やっぱり、人と人とのインターフェイスだろうなぁ。自分一人で、自分以外の世界すべてより偉い人なんて絶対いないんだから、外の世界からいいものをたくさんもらって、身につけられる人が一番豊かだと思う。そのためには、できるだけ外に心を開いて素直になりたい、と思う。奇しくも、この本の随所でそういうことを言っていると感じた。

以下読書メモ。
P91 平面を直線に切って組み合わせただけの三次元物体からなる世界を考え、折り紙世界と名づけた。Ultra mobile PCのコードネーム「Origami」の語源はこれだったりして?

P154 「最近自由作文で人の能力を見ようとする向きがあるが、本当の実力というのは問題解決能力である。」Totally agreeだ。

P253 よい論文は推理小説に似ている。起承転結の「起」で事件が起きる/研究課題が示される。「承」の悪い例では、「どうして一人の人が東京と大阪に同時にいるのかと思っていたら、実は一卵性双生児がいたという。ふたごがいるなら最初からそう書け」。まったくだ!今年の「安楽椅子探偵」のあまりに意表を突きすぎた結末で荒れたファンサイトのことを思い出して、苦笑。

P271 「プレゼンのスライドはパッと見てわかってはいけない。スライドを見るだけでわかるようにすると、みんなスライドだけ読むようになるから。」・・・その通り。PowerPoint使うとバカになる、と断言した某教授になんて言ってやろうかと手ぐすね引いてる私ですが、このマンガを見るとどうやら真実のようです。・・・は置いといて、プレゼンってのもそろそろ、pptの便利さに頼ってるだけではもう全然だめで、30分間を完璧に利用するためにLessigくらいのtheatrical effectを練ってから臨め、ってところまで来てる気がしますね。特に大事な場面では。物足りないくらいのスライドを言葉で補うというのが効果的と書いてあるけど、その通りだ。

p291 日本人は、日本は特別だと言い過ぎる。・・・去年USに1ヶ月滞在した報告で私もそう書いた。それでもつい、なにかとそういう言い訳をしそうになるので、気をつけるべし。

P312 「日本の社会では、自分が判断を下すのを恐れるあまり、点付けをして1点でも多く取れる人を優先することが多いが、そのルールの決め方自体が誰かの下した主観的判断だ」と斬り捨てる。誰も責任を取らなくていいようなルールを決めておくんだよね。そういう場面で、不愉快になったり批判したりするより、この著者みたいに冷静に分析できた方がいいと思う。

P321 アメリカでは担当者が変わるとすべて1からやり直そうとする、というのをほめている。でも、前任者の契約書の細かい文言をいちいちいじり倒す法務は、周りからみると迷惑だと思う。

P325 タイトルでいうと、素直に考えて仕事を楽しむことは得意だけど、玄人のように行動できないから私はただの人だ。と思う。ま、こんなもんか。

ではまた。

April 05, 2006

丸島儀一「キヤノン特許部隊」

うっすーい本(197ページ)なので、早起きしてあっという間に読了。
丸島氏は著者じゃなくて、インタビュアーによる聞き書き。テクノロジーや用語に関する注釈も説明も何もなくて、雑誌記事を読み流しているような印象。これを300ページくらいにしっかり膨らませた本が読んでみたいです。

キヤノン、それは、字を書くときに「ヤ」を小さくしないよう、いつも心の中で「き-や-の-ん」って呼んでるんだけど、絶対にそう発音してはいけない会社(特にこの会社の人の前では)。そして、今までにも何度も契約交渉で苦労した会社。(そっちが二番目かよ)

感想:
日本最強の知財戦略をもつ会社と言われてるけど、アメリカの会社みたいだ。日本的だと感じたところは、土日も働いて残業してとにかく働き続けた・・・というくだりくらい。

ただ、アメリカの会社の中には、(HPみたいな)一貫した強い知財戦略を持つ会社もあるけど、場当たり的な交渉をしがちな会社も多い。日本の会社の強みは、継続する強さとか、一致団結できるパワーとか、トップダウンの指示に実効性があるところとかじゃないだろうか。当然だけど、一貫している方が絶対強いんだから。

メモ:
p41 独自のコピー機を自社技術だけで作り上げたキヤノンを、先行者ゼロックスが訪問するくだり。
NDAを送っておいたのにサインして来ない。Non-NDA Discussionをしようと言っておきながら、あの手この手を使って重要な事項を聞き出そうとする。「随分余計なことをしゃべらされてしまいました」。なるほど。

p81最近の、企業が特許をライセンスとしてどんどん外部に許諾している風潮について。「では自分たちの事業をどうやって守るのか」。「自分の財産を人に与えるということは、取引の材料を失うことになるのです。」ここでいう取引とは、訴えたり訴えられたりした場合のことです。なにを自社の財産(コアコンピタンス)と考えるかによるわけだけど、ハードウェア中心の会社とソフトウェアやサービス中心の会社とは違うかもしれない??・・・これは簡単に結論は出ないな。

p98 「80年代に入ってからは、名だたる世界企業とクロスライセンスやOEM契約を結び」・・・キヤノンは、NAP条項を受け入れずに某OSのOEM契約を締結しなかったことで有名?な会社だけど、それまではPCを出していたこともあるんだから、一度はサインしたんだろうか。

p99 天下りがいないらしい。うん、この会社は日本企業だけど日本的な部分を排除してあるのだ。他の日本企業がこぞってキヤノンに追従しようとしてるんだとすれば、自己否定っぽい気がする・・・。

p121 ハネウェルから日本の会社が一斉に訴えられたときに、自分たちだけは定型契約を自分有利に修正しておいたので比較的軽症で済んだらしい。なるほど、こういうことを経験してるから、定型のままサインさせようとするアメリカの会社が信用してもらえないのだな。うちは訴えたりしないのに。しょっちゅう訴訟やってるけど、うちが訴えられたのばっかじゃん・・・早く気づいてくれよ。

p184 後半丸島氏は、今後の日本の知財戦略を次々と提案する。
2002年の時点で書かれた知財高裁はもう発足した。しかし、特許無効の判断を、特許庁と裁判所が完全にひとつになって行うってのは、司法と行政の一体化になっちゃうので、こういうことは本当に用心してやるべきだと思うなぁ。

April 04, 2006

ジョン・バッテル「ザ・サーチ - グーグルが世界を変えた」

さて。今日読み終わった本はジョン・バッテル著「ザ・サーチ - グーグルが世界を変えた」。
430ページくらいの本なので、1ページ1分だと7時間ちょっとで読み終わる計算。金曜夜に読み始めて、土曜に3時間くらい、日曜に4時間くらい、今日は2時間くらい読んだので、2割り増しくらいでしょうか。

感想。てか後のための覚書。(いちおう教科書なんで)
http://www.google.com/corporate/execs.htmlを見て、登場人物の表情を思い浮かべながら読むとよろし。
「ウェブ進化論」と比べると、本らしい本です。きちんと系統立ててGoogleの歴史や検索の歴史をしっかり書いてあります。Googleや検索のことがとてもよくわかりました。アドワードとアドセンスの違いも。

ウェブ進化論は、この本と比べると、書くのに要した労力が多分だいぶ少ないと思うけど、シリコンバレーの街角の空気感がすごくある本です。ああいうのも必要。

さて、印象に残ったフレーズ。
p19「要するに検索はHALを創ることになるかもしれない」HAL、つまり2001年宇宙の旅に出てくる、すべてを支配するコンピュータ。世界政府システムを作ろうと本気で思ってる会社にはふさわしい比喩でしょう。
でも最初からそんな壮大な夢をもってたんじゃなくて、博士課程で論文の引用状況を調べるためにツールを作ったのが始まりだそうな。検索エンジンができたとき、サーチ会社にエンジンを売って回ったけど売れなかった・・・あれ、デジャヴュ?AT&Tの創立話と同じだねぇ。セレンディピティっていうのでしょうか。

p200 ノベルのCEOエリック・シュミットがGoogleに招かれたときのインタビューでは、27歳の若造が前に座っている部屋で、いきなりお抱えシェフが食事を運んできて、それからその2人に自分の仕事を2時間徹底的に罵倒されて、何が何だかわからずに帰ってきたのだそうな。でもその後2人の言ってたことが正しいとわかって、転職を決めたとさ。罵倒して相手の出方を見るという面接方法。短い時間でその人の本性を見るには必要なのかもしれないけど。Googleの創立者2人は、やばいくらいMad scientist養成ギプスにはまった感じの人生展開で、この先ちょっと心配です。

p222 誰かがジョークで書いた「Googlebot」の絵を社内で勝手にTシャツにしてみんなで着てたらしい。確かにこの会社にはコンプライアンスというものが欠けてる。なんていうか・・・あれだ。www.bugbash.net このマンガに出てくるコドモじみたデベロッパーに似てる。わたしこういう人たち嫌いじゃないんだけど、自分の会社のトップだとちょっとなぁ。

後半、話題は「世界政府、いやそれより怖い、データをすべて牛耳るつもりの民間機関」の話を深めて行きます。確かに、安い値段で自分のデータを全部あずかってindexつけてくれる会社があって、そこが信用に足るのであれば、便利だろうなあ。契約しちゃうかも。(片付け下手なんで)すごい、いよいよHALだよ。かっこいー。と思うと同時に、データが何重にも多重化されててUSのある都市のデータセンターが火事になってもインドが無事なら大丈夫・・・とか言われると、自分がテロリストだったら世界中のデータセンターを一斉攻撃してみたい、とか思ったりもする。だってなんかもうマトリックスみたいなんだもん。

p382 ユーザーの履歴を記憶する、Amazonが使ってるサーチエンジンa9.com・・・チェック。
p387 セマンティックウェブとは、Web上の情報にタグやインデックスをつけて一元管理できるようにするアイデア。xmlを推進してる人と方向性は似てるんだろうか。
p394 IBMのウェブファウンテンとは、従来人間が行っていたマーケティング情報収集をツールにさせて、ウェブ上でトレンドを発見するもの。ほかに、自然言語検索もすごいお金をかけてやってるらしい。

p411 偏在性という言葉が出てくるけど、これは英語だとubiquitousだよね?日本のお役所は猫も杓子もユビキタス言ってるけど、この本読んでだいたいわかるくらいの人はいったいどれくらいいるんだろう。

メモは、以上。

この本の読書時間9時間のうち5割はお風呂の中です、、完全防水PCってあまり見たことないので、こういうときは紙媒体もありがたい。最悪でも風呂に浸かってビラビラになって買いなおすだけ。たとえPDAでも電子ブックビューアーでも数千円では買えないもんね・・・。