ニール・ガーシェンフェルド「ものづくり革命」
図書館の新刊コーナーにあったので借りた。
MITにビット・アンド・アトムズセンターという研究所があるらしい。ビット=情報、アトム=もの。世の中は情報化が進んでいると言われてきたけど、もの、たとえば工業製品が存在しなければ情報化社会も実現しない。ものづくりを見直そう、というのがこの研究所の趣旨らしい。
原題は「The coming revolution on your desktop」なので、「ものづくり革命」というわかりやすいタイトルは翻訳時につけたものだとわかります。この本自体が言いたいことは、FABと彼等が呼ぶ、カスタムメイドを自動化するツールの活用です。アメリカでは大量生産ばかりを推し進めてきた結果、誰もが安価でたくさんのものを手に入れられるようになった。でも今は誰もが自分だけにカスタマイズされたものを求めている。で、センターで推進しているのが「Personal Fabricator」。自分の欲しい「もの」のスペックをPCで入力すると、それが形になって自動で生成されるというツール。
このクラスを取る学生(芸術系とか文科系が多い)は、とりあえずワガママを言う。「いつでもどこでも、叫びだしたくなったら顔を突っ込んで叫べる袋」が欲しい、ということになれば、遮音性の高い袋の素材、録音してあとで吐き出せる装置の設計、等をできるだけシンプルに行う。「自転車のデザインを印刷で作れるようにする」のを実現するために、自転車のフレームを好きなようにデザインするための頑丈なプラスチック素材と、デザインツールを作る。
ラボは世界中のいろいろなところにあって、北欧では自分の保有する羊と他の人の羊を区別するためにRFIDを使った羊タグを作ったり。
・・・夢が実現できた人は嬉しいし、面白い実験だよね。でも、このやり方でPersonal fabricationがどんどん推進されていくとは思えない。ものすごく高価な機械を使って、使用料無料で、研究として作ってあげてるだけだもん。新しい機械が、本当に誰でも使えるようになるためには、市場で発売されて、最初は高いけど、数が出ることによってだんだん安くならないといけない。機械のレンタルでもいいんだけど、こういう風に、研究目的で無料で使わせるってのをずっと続けていては、ドラえもんの魔法のポケットで終わってしまうような。
でも、個人的にはすごく欲しいんだよな。お手ごろ価格で、実用的な、3Dスキャナと3Dモデラー。現実には、MITとは関係なく産業界で、たとえば16万色で印刷できる染色技術とかは実用化されてるので、方向が間違ってはいないんだけど、それはMITの研究の成果ではない。ビット・アンド・アトムズ・センターがやりたいことは、この本だけではわからないです。面白い実験だけど、この先を考えてみたいです。
(注)
FABとはFabrication(構築する、でっちあげる)のことである。Fabricというのは布地のことだ。Prefab(プレハブ)住宅というのは、あらかじめ作ってあって組み立てるだけの住宅のことだ。なるほど。
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