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March 2006

March 28, 2006

Lawrence Lessig講演会

http://www.nii.ac.jp/intsympo/05/top.html これに行って来ました。

レッシグといえば、あれですよ、あれ。Creative Commonsでなんか新しい著作権表示を推奨してる人。
というより、あの、タイプ文字が暗闇から次々に浮かび上がるスライドを始めた人。(30分の講演で240枚、みたいな)
で、なんだかいろんなことに警鐘を鳴らしてる人。(ああ、相変わらずわたしのこういう表現は身もフタもないですね、、)

とにかく、生レッシグの生講演がタダで聴けるというので、いてもたってもいられずに申し込みました。ミーハーです。クリステンセンのときと同じ行動です。
(参考) http://ittousai.org/mt/archives/2003_04/free_culture.html ←このときとテーマはほぼ同じ。でも状況の変化に応じているのか、引用した例が違ってたし、イラストなんかもガンガンUpdateしてました。

おおざっぱな内容:
昔は、誰かが作った歌や文章はRead & Writeだった。つまり、口伝えで伝承されるうちに、さらに追加されたり改変されたりして、変わっていくものだった。
しかし今は文化(culture)はRead Onlyになり、consumeされるばかり。
でもデジタル時代になり、また違った形でのRW cultureが生まれている:
例えば、音楽のremixや「AMV」=anime music video。(ありもののアニメのキャラクターの口の動きに合わせて音楽を流して、口パク状態にしたもの。ブッシュ大統領とブレア首相が口パクでEndless Loveを合唱するものとか・・・。)
残念なことにRW CultureはUSではillegalだし、著作権法のreformはほとんど不可能。元のartistと、RWを行ったartistがlawyerを介さずに話が出来る世の中にしたいものだ。
だから自分たちはCreative Commonsライセンスを提唱している。協力をお願いしたい。
・・・という感じです。

なんか・・・彼の言ってることは正しい。つい自分の職業上の立場が先に立ってしまうんだけど、心情的には共感します。
ちなみにBillGはLessigのことを「あの共産主義者(communist)」と呼んだらしい。なんか根に持ってるみたいでした。うーむ、わたしも仲間内で酒なんか飲むと、GPLは共産主義だとか言ってるので、BIllの言うこともわかる。いっしょうけんめい工夫していい道具を作った人がそれで儲けることを否定されるってのは、資本主義の根本への挑戦にも思える。生活に困ってない人が余暇に何かを作るというシステムは、ありがたい人もいるけど、存在感が希薄なボランティア活動のような印象がある。なんとなく、責任を感じて会社を運営している人の商売にそういうやり方をもちこむことが、会社=資本主義を形にしたものに対する共産主義的なアプローチに見えて、違和感があるんだ。

(ちなみに、わたしは共産主義を否定する気持ちはぜんぜんないです。本当はみんなで助け合ってシェアしあう世界がもっとも美しいと思ってるけど、理想的な意味での共産主義はいままで地球上のどこでも実現してなくて、人間が人間の力でなしとげるのはすごく難しいと諦めて、資本主義前提でちょっとでもうまくいく方法を考えてます。)

で、この講演を聴いて、思った。
・たとえば工作機械や業務用ソフトウェアは、事務機の仲間であって、作ってる人も使ってる人も便利さにお金を払う必要を感じているものなので、勝手に模造品を作って売ることをやめさせたいのは当たり前だ。
・歌や小説や絵画はアーティストが作る芸術なので、それをappreciateすると同時にinspireして新しいものを生むことはとても大切。
この2つを全く同じ法律で全く同じ条件で縛ることに無理があったんじゃないのかなーと思った。もちろん、どこまでが芸術でどこからが商売道具かという境の判断は難しいけど、本当は、芸術権と商売道具権を分けて規定しておいて製作者が選択できるようにしておいた方がよかったんじゃないかね。

まぁ極論だけどさ。

March 26, 2006

梅田望夫「ウェブ進化論」

元ボスに薦められて読んでみた。
感想:この作者自身はウォッチャーとかユーザーという印象で、この本は論文でも報告書でも技術の本でもないけど、Googleのことやその他のインターネット上の新興勢力のことをとてもよく知っている。シリコンバレー在住のブロガーとしての貴重な経験や知識をざっとまとめて、シェアしてくれてありがとう、私もこういうことが知りたかったんですよ。

本当に、私はGoogleって会社のことを全然知らなかった。やつらイカレてます。Mad scientistsって感じ。(ほめてるんですよ。すごく)

こまかいところは、突っ込みどころ満載なんだけど・・・。
Googleの30万台ある社内サーバーは全部Linuxなんだって。モチオは「彼等は配布しないのでライセンス違反の問題は生じず、Googleはオープンソースの恩恵をフルに利用できるのだ」という。その指摘は正しいと思う。でも、LinuxがなければBSDでもよかっただろうし、Googleほどのエンジニア集団なら、無料のUNIXがなければ自分たちでGoonixくらい作れるんじゃないかね。これだけ利益があがってるのに、ライセンス料が問題でWindows Serverを入れられないということはないだろうし。問題は、Googleには自分たちに本当に最適なOSを選んで好きなように使いこなせる技術力と知恵があるってところだ。・・・とかね。でも、考え方や全体の構成がすごく立派でヒントに満ちているのに、例の引き方や比喩が下手で損してる本ってけっこうあるので、あまり気にしないことにする。

もうひとつ驚いたのは、考えてみれば当たり前なんだけど、モチオが言うには、USでは、大学で行っている最先端のコンピュータサイエンスを現実世界で生かしきれていないんだって。私は日本の大学の話しか聞いたことがなくて、誰に聞いても現実の世界より遅れているとかずれていると言うんだ。だから、象牙の塔とかっていうところは、よく知らないけどどっちかというとダメなんだと思ってた。モチオ正しいとすれば、そっちが真っ当だ。日本の大学について私に語った人たちが正しかったとすれば、そっちが問題なのだ。日本の大学に対する認識は、まちがっててほしいと思うよ。

きのう、楽天Booksで1万円分も本を買いました。ひきつづきどんどん読んで感想を書いていきます。

March 13, 2006

ニール・ガーシェンフェルド「ものづくり革命」

図書館の新刊コーナーにあったので借りた。
MITにビット・アンド・アトムズセンターという研究所があるらしい。ビット=情報、アトム=もの。世の中は情報化が進んでいると言われてきたけど、もの、たとえば工業製品が存在しなければ情報化社会も実現しない。ものづくりを見直そう、というのがこの研究所の趣旨らしい。

原題は「The coming revolution on your desktop」なので、「ものづくり革命」というわかりやすいタイトルは翻訳時につけたものだとわかります。この本自体が言いたいことは、FABと彼等が呼ぶ、カスタムメイドを自動化するツールの活用です。アメリカでは大量生産ばかりを推し進めてきた結果、誰もが安価でたくさんのものを手に入れられるようになった。でも今は誰もが自分だけにカスタマイズされたものを求めている。で、センターで推進しているのが「Personal Fabricator」。自分の欲しい「もの」のスペックをPCで入力すると、それが形になって自動で生成されるというツール。

このクラスを取る学生(芸術系とか文科系が多い)は、とりあえずワガママを言う。「いつでもどこでも、叫びだしたくなったら顔を突っ込んで叫べる袋」が欲しい、ということになれば、遮音性の高い袋の素材、録音してあとで吐き出せる装置の設計、等をできるだけシンプルに行う。「自転車のデザインを印刷で作れるようにする」のを実現するために、自転車のフレームを好きなようにデザインするための頑丈なプラスチック素材と、デザインツールを作る。

ラボは世界中のいろいろなところにあって、北欧では自分の保有する羊と他の人の羊を区別するためにRFIDを使った羊タグを作ったり。

・・・夢が実現できた人は嬉しいし、面白い実験だよね。でも、このやり方でPersonal fabricationがどんどん推進されていくとは思えない。ものすごく高価な機械を使って、使用料無料で、研究として作ってあげてるだけだもん。新しい機械が、本当に誰でも使えるようになるためには、市場で発売されて、最初は高いけど、数が出ることによってだんだん安くならないといけない。機械のレンタルでもいいんだけど、こういう風に、研究目的で無料で使わせるってのをずっと続けていては、ドラえもんの魔法のポケットで終わってしまうような。

でも、個人的にはすごく欲しいんだよな。お手ごろ価格で、実用的な、3Dスキャナと3Dモデラー。現実には、MITとは関係なく産業界で、たとえば16万色で印刷できる染色技術とかは実用化されてるので、方向が間違ってはいないんだけど、それはMITの研究の成果ではない。ビット・アンド・アトムズ・センターがやりたいことは、この本だけではわからないです。面白い実験だけど、この先を考えてみたいです。

(注)
FABとはFabrication(構築する、でっちあげる)のことである。Fabricというのは布地のことだ。Prefab(プレハブ)住宅というのは、あらかじめ作ってあって組み立てるだけの住宅のことだ。なるほど。

March 02, 2006

MITスローンスクール「戦略論」

読書づいています。ビジネス書ばっか。

ハーバードのビジネススクール出身の人の書いたものはときどき読む機会があるけど、MITのビジネススクール=スローンスクールの人ってどういうものを書いてるんだろう。と思って、読んでみました。12個の論文集です。

全体的には、なんかこじつけっぽい話が多くて、あまり面白くなかったな~。なんとなくMITってことでもっと科学的な経営分析を期待してたんだけど。でも1つ、最後の論文だけ面白く読めました。「カオスの縁でのマネジメント」by Richard T. Pascal。

複雑系って知ってる?なんか一時期流行した理論らしい。生物が進化するのは最初から一点を目指しているのではなくて、ごにょごにょと一斉にうごめき出して、やがてそのうごめきが一定のリズムを持つようになる。生物は生き残るために、適度の刺激を受けながら進化するのであって、安定してしまった状況は死を待つだけだ。・・・というような理論だそうです。それをビジネスに当てはめているのがこの論文。思うに、「複雑系」の流行の頃には、こういう論文って他にもいろいろあったんじゃないかなーと思うけど、私が読むのはこれが初めてです。

私はこーいう「自然の摂理」的なものに弱いのかな。こないだ読んだ、「自然からビジネスを学べ」っていう常盤文克氏の本でもわりと共感してしまった。てか、会社なんてものは生物の歴史に比べれば生まれて間もないので、昔から進化を遂げて株主価値をあげつづけている?現存する生物の過去の進化から知恵を盗むのは、よいのではないでしょうか。

この本にもう一箇所、面白くてページを折ってしまった箇所があります。
Peter J Williamsonって人の「将来のための戦略オプション」って論文の冒頭で、とーても興味深い調査結果について述べています:1984年にエコノミスト誌が、財務長官、多国籍企業の社長、Oxfordの学生、ゴミ清掃員それぞれ4人ずつに、今後の経済の予測をたてさせた。OECDの国々の向こう10年の成長率やインフレ率、石油価格、etc。1994年に結果を比較したところ、予測は現実と6割以上かけ離れていた。答案者の中で最も正解に近かったのは、ゴミ清掃員と多国籍企業の社長で、同点引き分けだった。・・・「残念なことに、長期的に経済や市場環境を正確に予測できる者はいないのではないか、といわざるをえない。」と結論づけています。

・・・痛快じゃないですか?この論文、後は別に感銘を受けなかったけど、この冒頭はたいへん気に入りました。多分それが真実なんだろうな。私自身、そう言われてもつい何とか予測しようと思っちゃうけど、デフォルトは「当たるわけない」ってことだよね・・・。なんとなく気が楽になります。当たれば儲けものってことです。

さて。次はいわゆる名著と呼ばれるものを何冊か読んでみよう。

March 01, 2006

Integrate to Innovate イノベーションを実現する統合モデル/Michael E. Raynor & Clayton M. Christensen

いろんなサイトを見て回ってたら、珍しい?ものを見つけたので、読んでみた。
http://www.abeam.com/jp/topics/research-02.html
かのクリステンセン教授の2冊目の本は、このレイナー氏との共著でした(2003年出版)。同じ組み合わせで、2002年にこんなの(リサーチレポート?)書いてたんですね。レイナー氏は、デロイトトーマツのDirectorだそうな。大学の先生がコンサルタントと組んで本を書いたりするのをみると、ビジネススクールってのは大学の中にあるだけで、仕事の学校なんだなと改めて思う。

ちなみに2冊目は私の中では一番印象の薄い本だ・・。
今回落としたリサーチレポートでは、通信キャリアに対して
・多角化するな、でもコアビジネスだけに注力もするな、最低でも3つの機能の分離しろというのもウソだ
・そのかわり、アプリケーションサービス、高度モバイルサービス、双方向性をもったブロードバンドサービスを提供しろ
とアドバイスしています。ポイントは以上のとおりで明確です。

書かれてから4年。アプリケーションサービスは根付いたのかしら。MSのASPサービスはものすごく大成功したって感じでもないなぁ。Office LiveってのもASPの一種なのかしら。それにしても、Telcoがやることではない気がする。
高度モバイルサービスの成功例としてiModeがあげられてるけど、メールとダウンロード以外は、ごく一部のサイトを見て回るくらいだけど、他の国に比べるとこれでも高機能なのかな。
双方向ブロードバンド・・・はオンラインゲームは流行ってるみたいですね。Telcoとは結びつかないけど、USENがやってるGyaoなんかはプロバイダと回線提供者が同じだ(Telcoからみると敵だけど)。

業界中心に書かれたコンサルティングファームのレポートなので、いつものクリステンセンの本と比べて偏りがある気がします。Harvard Business Pressのサイトとか行くと、もっとたくさん論文も置いてあるけど、タダじゃないし、英語だしね。3冊目の本より新しいのがあるんだったら読んでみたいけど・・・まいっか。